アスリートのためのスポーツ栄養と免疫の関係
病気が少ないほど、アスリートはより多くトレーニングできる。これは単純明快で誰もが納得できる事柄であるが、実際には多くのアスリートが、しばしばトレーニングが不足することを恐れて病気の症状を無視することを選ぶ。成功の達成には、他人が立ち止まっている時に苦しみを乗り越える能力にかかっていると考えられる傾向がみられる。
アスリートの病気を防ぐために、栄養学は何ができるだろうか。本論文は、スポーツ栄養と免疫の関係について、これまでの報告をレビューし、現時点の立ち位置を確認し、新しいステージの方向性を探る内容。
「感染がアスリートに深刻な問題をもたらす」「アスリートの感染と免疫低下の危険因子」「栄養は免疫と感染に、いかに影響するか?」「エネルギー不足はアスリートの免疫力を低下させ感染を増加させるのか?」「栄養とアスリートの免疫に関する新しい理論的展望」などのテーマを掲げ詳細な検討がなされている。
その中から、より具体的な情報として、「免疫抵抗性のため栄養補助食品」「免疫寛容改善のための栄養補助食品」という2項目に記されているリストの一部を抜粋して紹介する。
免疫抵抗性のため栄養補助食品
免疫抵抗性関連のサプリメントは主に、虚弱な高齢者や臨床患者など、免疫障害のある人を対象とした研究から発展してきた。よってそれらのサプリメントが、アスリートの免疫や宿主の防御に限られたメリットのみを示すことは驚くにあたらない。多くの場合、「壊れていない場合は直すべきでない」というフレーズが当てはまる。
例外は、風邪の治療に対する亜鉛ロゼンジの効果だ。最近のメタアナリシスでは、亜鉛ロゼンジが病悩期間を短縮することが示された。
その他には以下のような栄養補助食品が表形式でまとめられている。
亜 鉛
DNA合成と免疫細胞の酵素補因子として必要。亜鉛欠乏は免疫障害を引き起こす。亜鉛欠乏は運動選手では珍しくない。一方、高用量の常用は免疫機能を低下させる可能性もある。亜鉛ロゼンジの抗ウイルス効果に関してはエビデンスがあり、上気道感染症の治療への使用が支持される。
グルタミン
免疫細胞、特にリンパ球の重要なエネルギー基質であるアミノ酸。長時間の激しいトレーニングの後、循環グルタミンは低下する。上気道感染症抑制に関して若干のエビデンスがある。
炭水化物(ドリンク、ジェル)
運動中の血糖値を維持し、ストレスホルモンを低下させ、免疫機能障害に拮抗する。アスリートの感染症リスクを改善するという、ごく限られたエビデンスがある。
ウシ初乳
抗体、成長因子、サイトカインを含む乳牛の最初の乳。上気道感染症の発症を抑制するという、被験者数が少数のスタディのエビデンスがある。
β-グルカン
自然免疫を刺激する酵母、菌類、藻類およびオート麦の細胞壁に由来する多糖類。インフルエンザウイルスを接種したマウス実験で有効性の報告がある。
エキナセア
ハーブ抽出物で、マクロファージへの刺激効果により免疫力を高めると言われる。in vitro(試験管内)で効果が認められる。
カフェイン
コーヒーやスポーツドリンクなどに含まれる興奮剤。リンパ球を活性化し、運動後の好中球機能の低下を軽減するというエビデンスがある。アスリートの上気道感染症のリスクへの有効性は不明。
免疫寛容改善のための栄養補助食品
免疫寛容関連でアスリートに対する適用可能性が検討されているサプリメントと、そのメカニズムは以下のとおり。
プロバイオティクス
経口投与により有益な腸内細菌の数を増やすことができる生きた微生物。上気道感染症の発症率を抑制し、病悩期間を短縮することが報告されている。
ビタミンC
酸化防止剤。高強度の運動実践者を対象とした研究で、上気道感染症の発症率減少が示されている。上気道感染症の発症後にビタミンCを摂取する場合、高用量(グラム用量レベル)が必要と考えられる。
ビタミンD
抗炎症作用をもつ。欠乏は上気道感染症のリスク増加と関連している。一方、過剰摂取で有害転帰のリスクが増加。
ポリフェノール
抗炎症および抗酸化作用をもつ植物フラボノイド。in vitroでは強力な抗炎症、抗酸化、抗病原性作用が確認されている。短期間の強化トレーニング中の上気道感染症発症率の抑制にわずかにエビデンスがある。
ω-3脂肪酸、PUFA
魚油に含まれる。運動後に抗炎症効果を発揮すると言われている。高強度トレーニングによる筋損傷時の炎症抑制に対し限定的に支持される。上気道感染症のリスク低減のエビデンスはない。一方、アスリートにおいて酸化ストレスが増加したという報告もみられる。
ビタミンE
酸化防止剤。運動誘発性活性酸素種の消去能をもつ脂溶性抗酸化ビタミン。虚弱高齢者の免疫能の改善と上気道感染症発症率を低下する可能性があるが、健康な若年者にはメリットはない。むしろ補給により、高強度運動実践者の上気道感染症リスクが増加するとの報告もみられ、また高用量では酸化促進的にもなり得る。
文献情報
原題のタイトルは、「Nutrition and Athlete Immune Health: New Perspectives on an Old Paradigm」。〔Sports Med. 2019 Nov 6〕