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食べる時間と運動する時間「時間栄養学と時間運動学の今」

24時間いつでも食糧を入手でき、かつ身体をそれほど使わずに生活できる環境を取り入れた現代のライフスタイルは、生体の概日リズム(いわゆる体内時計/サーカディアンリズム)が乱れ代謝性疾患のリスクが高まる。すべての哺乳類に存在するとされる概日リズムは、ヒトにおいては視床下部の視交叉上核で制御され、主に明暗のサイクルによって支配されている。ただし、食事や運動のタイミングなども、このリズムを微調整することが可能だ。

食べる時間と運動する時間「時間栄養学と時間運動学の今」

このため、我々の現代的ライフスタイル、つまりエネルギーが豊富な食品へ24時間アクセス可能で、長時間の座業が多い職業、低レベルの身体活動、および不十分な量・質の睡)は、概日リズムを乱す。しかし、その乱れを補正することによって期待される効果についてはまだそれほど研究が進んでいない。この論文は、これまでの時間栄養学と時間運動学の報告をレビューした内容。

代謝改善戦略

定期的な運動と食事の質を高めることは、非感染性疾患の予防と治療への最良のアプローチであることは間違いない。しかし、ライフスタイルの変更が遵守されることは少なく、限られた範囲でのみ成功を収めているのが現状である。その結果、より社会的に受け入れられやすく達成可能性に重点を置いた食事・運動戦略がとられるようになってきた。

その1つとして、食事を摂取する時間、運動するタイミングの研究が進められている。ただし、運動のタイミングと食事の相互作用は複雑であり、未知の要素が多く残されている。

食事介入

過去10年間に、食事のタイミングが睡眠・覚醒サイクル、深部体温、運動能力などの生理学的機能に影響を与えることを示唆する証拠が蓄積されてきた。さらに、食事のタイミングは、骨格筋のインスリン感受性と全身性代謝に大きな影響を及ぼし、生活習慣病の予防・治療に影響を及ぼし得る

例えば、1日のうちでエネルギーを摂取する時間帯を制限する時間制限食(time-restricted eating;TRE)は、減量の実際的な戦略である可能性が示されている。最近の研究からはTREの健康上の利点は体重減少から独立したものであることも示唆されている。TREによってインスリン感受性とβ細胞の応答性、血圧、酸化ストレスが改善されたとの報告がある。ただしそのメカニズムは不明だ。

また、本論文の著者らの検討では、朝食を欠食するのではなくタイミングを遅らせることで、肝臓からの概日リズム関連の糖放出が抑制され、食後血糖のコントロールが改善する可能性が示されたと述べている。インスリン分泌とその感受性も概日リズムの制御を受けており、それらは食事の間に等間隔の12時間の絶食状態があったとしても、昼間は増加し、夕方には低下すると考えられる。

毎日の食事を15時までに終了すると、高インスリン血症が改善されるとの報告もある。しかしこの方法は、社会的に受け入れられる可能性は低いだろう。2型糖尿病患者を対象に、8~17時のTREと12~21時のTREを比較した検討では、両群ともに血糖コントロールを改善したが、夜間の空腹時血糖は前者において改善していた。

その他、インクレチンのGLP-1やGIP、あるいはペプチドYYなども概日リズムの影響を受ける。  持続可能性の観点から、TREはエネルギー制限や食品選択に関する具体的な指示がないため、より厳しいエネルギー制限の食事介入よりも実際的な利点があるようだ。ただし、摂食する時間に制限を設けると、一部の人は食物選択の質が低下する可能性もある。

運動介入

TREは、絶食時間を延長し、運動トレーニング後の反応に類似した反応を誘発する。ただしその反応の大きさは、TREのみとTREに運動トレーニングを組み合わせた場合とでは異なり、後者の方がより大きい。運動トレーニングは、さまざまな慢性代謝性疾患の発症を遅らせる。しかし、健康上の利点をもたらすために必要な最低限の量と質の運動でさえ、人々に遵守させることは困難であることにもまたエビデンスが存在する。

単独でのエネルギー制限食は、急速な体重減少のための効果的な短期戦略だが、脂肪と筋肉量、双方の減少をもたらし、不健康な体組成と健康予後不良の素因となる。それに対して運動は通常、1日の総エネルギー消費量をわずかに増加させるが、実行する運動の量と強度に応じて、長期的な体重減少への影響が最小限に抑制される。つまり、定期的かつ適切な運動は、体組成を改善する、言い換えれば除脂肪体重を維持しながら脂肪量を減らす、唯一の手段である。

体重の変化のみに焦点を当てた個人の場合、TREによる体重の短期的な減少は、運動による初期の減少を上回る。体組成測定を取り入れたTREの効果・影響に関する長期的研究は、喫緊の研究課題と言えよう。

TRE介入は、習慣的な食事習慣を変えるだけでなく、身体活動パターンにも変化を生じさせる可能性がある。

1回の運動でも骨格筋のグルコース摂取が増加する。しかしこの効果は短命で、48時間後に消失する。対照的に、繰り返される身体活動(すなわち運動トレーニング)は、インスリン作用の持続的な増加をもたらす。

運動のタイミングについては、食後の運動によって2型糖尿病患者の血糖コントロールが30分間の連続歩行よりも大幅に改善したとする報告がある。もっとも、健康上の利点を最大化するための最適な運動のタイミングは現在のところ不明であり、多くの変数、例えば個人の健康状態、運動時間・強度、および食事のタイミングなどによって変化する可能性がある。朝または夕方のいずれに運動を行うべきかについて明確なコンセンサスはない。

将来の展望

慢性的な生活習慣病の治療に必要な習慣的な食事パターンの遵守は、薬物療法よりも困難であると考えられる。大多数の患者は、定期的な運動を行わない主な理由として「時間の不足」を報告している。結果として、論点は「健康を改善するために食事を変えることと運動トレーニングを実施することのどちらを優先すべきか?」となる。

食事の摂取時間を制限することが、運動トレーニングによってもたらされる代謝改善効果に上乗せするかたちで、代謝障害に付加的な利益をもたらすかどうかは、今後の実験的検討の結果を待たなければならない。

文献情報

原題のタイトルは、「A Time to Eat and A Time to Exercise」。〔Exerc Sport Sci Rev. 2019 Oct 30〕

原文はこちら(Ovid Technologies,Inc)

概日リズムとは

体内時計(e-healthネット)
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