運動量と食事量のバランス制御に脳神経ペプチド「オレキシン」が関与 肥満抑制効果に期待
オレキシンという神経ペプチドがもつ、体重を増やしにくくする作用の詳細が明らかになった。東邦大学医学部解剖学講座、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構による研究グループの成果で、「iScience」への論文掲載とともに、筑波大学のサイト内にプレスリリースが掲載された。
オレキシンは脳内の視床下部外側野という部分で産生される神経ペプチドで、睡眠や摂食、エネルギー代謝を制御している。オレキシン神経の後天的な脱落でナルコレプシーという睡眠障害が発症する。またオレキシンの作用を抑制する受容体拮抗薬が既に不眠症治療薬として臨床応用されている。
今回の研究ではまず、野生型マウスがいくらでも運動できる回転ホイールを設置したゲージ内で、高脂肪食を与えて飼育した。すると高脂肪食であるにもかかわらず、体重増加が抑制されることを確認した。次にオレキシン神経を後天的に欠損させたマウスを同様の環境で飼育したところ、肥満の亢進が認められた。これにより、オレキシン神経が運動量と摂取量のバランスをとり、体重維持に関係していることがわかった。
続いて、1型と2型という2種類があるオレキシンの受容体のそれぞれを欠損させてエネルギー代謝を検討。オレキシン1型受容体欠損マウスは高脂肪食でも肥満を生じにくい一方で、オレキシン2型受容体欠損マウスでは高脂肪食で飼育するとエネルギー消費量が減少することがわかった。ただし、どちらの受容体欠損マウスもオレキシン神経欠損マウスほど肥満しなかったことから、各受容体シグナルは肥満を抑える効果があると考えられた。
以上の研究から、オレキシン神経は高脂肪食と運動のバランスをとることで太りにくい状態を維持していること、各オレキシン受容体はエネルギー代謝に関して特異的な役割を持っていることが示された(図)。
著者らは「本研究の成果は運動と食事を通した健康なライフスタイルの確立、オレキシン受容体を標的とした抗肥満薬の開発への貢献が期待される」と述べている。
オレキシンによる体重制御の仕組みを解明(筑波大学プレスリリース)
文献情報
論文のタイトルは「Differential Roles of Each Orexin Receptor Signaling in Obesity」。〔iScience. 2019 Sep 9;20:1-13〕