筋力トレーニングに伴う酸化ストレスを海藻が軽減 ラットで効果が示される
筋力トレーニングによる筋肥大の最大化には、トレーニング後の蛋白質を主とする栄養補給が重要。また筋肉の成長や組織のリモデリングにはインスリンを含むいくつかのホルモンが関与している。インスリンは筋肉蛋白質の分解を抑制することが報告されている。ただしインスリンの筋合成への作用は十分には明らかになっていない。他方、高強度の筋力トレーニングは酸化ストレスの増大を伴い、疲労の遷延や健康への影響等の懸念がある。
最近の研究では、東アジアで食用されるムカデノリ(Gracilaria asiatica)と呼ばれる海藻の活性代謝物に抗酸化作用や抗糖尿病作用があるとの報告がある。本研究はこのムカデノリの潜在的な機能性に着目し、筋力トレーニングと併用による効果をラットを用いて検討したもの。
40匹のラットを、海藻群、運動群、運動+海藻群、対照群の4群に分け、10週間飼育した。海藻群はムカデノリの粉末を250mg/kg/日経口摂取させ、対照群には同量の生理食塩水を投与した。なお、ムカデノリ粉末は100gあたり、蛋白質14.4g、炭水化物32.4g、食物繊維26.5g、脂肪0.1gを含む。
運動群には、長さ110cmでグリッド間隔2cm、傾斜80度の梯子に上る運動を課した。初期段階でラットの体重の65%の重量の負荷をかけ、ラットが梯子を上りきることができなくなるまで30gずつ負荷を追加し、筋力トレーニングを模した。ラットが疲労困憊するまで、または8回上りきるまでこれを繰り返し、その都度、最大強度を記録した。10週間にこれを35回実行した。
運動による筋肉量・筋力の増加
10週後に最終トレーニングと血液採取の後、麻酔下で屠殺し長母趾屈筋の重量を測定したところ、運動群と運動+海藻群は他の2群に対して有意に筋肉量が増えていた。また、最終計測時の運動群と運動+海藻群は、他の2群に比べて筋力も有意に増加していた。
一方、全体重はベースラインから全群同等に増加しており、有意差がなかった。なお、飼育期間の摂食量も群間に有意な差がなかった。
運動および海藻による糖代謝への影響
次に10週時点の糖代謝関連指標を比較すると、血糖値は全群で有意差がないものの、インスリン値は海藻群と運動+海藻群が他の2群に比し有意に高く、かつ、運動+海藻群は海藻群に対しても有意に高かった。さらにインスリン抵抗性の指標であるHOMA-IRもインスリンと同様の関係にあった。つまり、海藻群や海藻+運動群はインスリン抵抗性とインスリン分泌がともに亢進し、血糖値が正常に保たれていた。
これは運動の効果として一般に考えられるインスリン感受性の改善と相反する結果だ。この点について著者らは「詳細な追加研究が必要なものの、インスリンが骨格筋の成長にも多面的な役割を果たしており、実際に筋肉量が増えていたことから、運動負荷後の蛋白質の分解をインスリンが抑制した可能性もある」と考察している。
運動による酸化ストレスを海藻が軽減
運動による酸化ストレスをチオバルビツール酸反応性物質(TBARS。酸化ストレスにより濃度が上昇する物質の総称)で評価すると、運動群は対照群や海藻群に比べて有意にTBARSが上昇していた。しかし、運動負荷と海藻摂取を併用した運動+海藻群ではTBARSの上昇が抑制されており、運動群より有意に低値だった。
また、活性酸素分解酵素(SOD)の活性は、海藻群と運動+海藻群が他の2群より有意に高かった。
以上の結果からの結論として著者らは、「海藻摂取と筋力トレーニングの組み合わせが最抗酸化力を高め酸化ストレスを弱めたと言える。海藻は、パフォーマンスを向上し、運動による筋肉の損傷を防ぐ潜在的な栄養補助食品になる可能性がある」とまとめている。
文献情報
原題のタイトルは、「Seaweed Supplementation Enhances Maximal Muscular Strength and Attenuates Resistance Exercise-Induced Oxidative Stress in Rats」。〔Evid Based Complement Alternat Med. 2019 Jul 28;2019:3528932〕