神経性やせ症に腸内細菌叢の異常が関与 新たな栄養療法の可能性
神経性やせ症の病態に腸内細菌叢の異常が関与していることが報告された。九州大学と東海大学のグループによる共同研究の成果で、米国内分泌学会雑誌「Endocrinology」に論文がオンライン公開されるとともに、九州大学のサイト内にプレスリリースが掲載された。
ダイエットなどをきっかけに発症する神経性やせ症は、極度の低体重になってしまう病気で、時に致死的な状態になることもある。有効な治療法が限られており、病態の解明や新たな治療法の開発が急がれている。これまでの研究で、神経性やせ症では腸内細菌叢に異常があることが知られていたが、その異常が病態にどのように影響するかについては不明だった。
研究グループでは、無菌マウスにヒトの糞便を移植するという実験を行った。神経性やせ症の女性患者の糞便と、健常女性の糞便を用いてそれぞれを移植し、ヒト型の腸内細菌叢をもつ人工菌叢マウス(やせ症型マウスと健常型マウス)を作製。これらのマウスの体重増加率を経時的に測定し、また行動特性を評価した。
行動特性は、「ガラス玉覆い隠し試験」という実験により評価した。これは、マウスの不安様行動(特に強迫行動)を調べる方法。敷き詰めた床敷きの上に置いた20個のガラス玉を、マウスが20分間に覆い隠した個数を数えるもの。隠した数が多いほど、不安様行動(強迫性)が高いと判定する(写真)。
結果について、まず体重の変化をみると、やせ症型マウスは健常型マウスと比べて体重増加が不良だった(左図)。次に行動特性に関しては、やせ症型マウスは不安様行動が多いことがわかった(右図)。
また、やせ症型マウスではバクテロイデス属というグループの腸内細菌が減少しており、同じグループの腸内細菌を投与すると不安様行動が正常化することがわかった。
神経性やせ症の低体重期では、食物効率が低い(体重増加のために多くの食物摂取を必要とする)、精神症状(強い不安や強迫性)を合併することが知られている。研究者らは「今回の結果は、これら神経性やせ症に特徴的な病態の一端を明らかにするとともに、体重増加を目的とした新たな治療法の開発に寄与するもの」と述べている。また、今回の実験の手法について、「ヒト型の人工菌叢マウスを作製する際、凍結糞便ではなく新鮮糞便を使用し。その結果、マウスの腸内細菌叢が、凍結糞便を用いた場合と比べ、ドナーの腸内細菌叢に近似しており、よりヒトに近い動物モデルを作製することができた」と語っている。
腸内細菌叢の異常が神経性やせ症の病態に関与―新たな栄養療法の可能性―(九州大学プレスリリース)
文献情報
論文のタイトルは「The gut microbiome derived from anorexia nervosa patients impairs weight gain and behavioral performance in female mice」。〔Endocrinology. 2019 Oct 1;160(10):2441-2452〕
原文はこちら(Oxford University Pres)