腸内細菌と肥満の関係の一端が明らかに 多価不飽和脂肪酸の代謝の乱れが関与
腸内細菌と肥満の関する新たな知見が報告された。腸内細菌が多価不飽和脂肪酸を代謝する際に産生される新たな脂肪酸が、宿主のエネルギー代謝の調節に関わっており、ω6(n-6)系多価不飽和脂肪酸の過剰摂取によってその調節機構が破綻し、肥満が惹起されるという。東京農工大学大学院農学研究院応用生命化学部門の木村郁夫らによる研究で、「Nature Communications」オンライン版に論文掲載されるとともに、東京農工大学サイト内にニュースリリースが掲載された。
腸内細菌は代謝により食事の影響を制御しており、この仕組みが宿主の代謝性疾患などの発症率に関与している。近年の欧米食の普及に伴い、リノール酸等のω6系多価不飽和脂肪酸の摂取量は増加する一方、αリノレン酸等のω3(n-3)系多価不飽和脂肪酸の摂取量は減少している。また、ω6系/ω3系脂肪酸バランスの破綻は、代謝性疾患の発症率や有病率と正の相関を示すことも明らかにされている。特に欧米食のような高脂肪食は代謝性疾患発症の危険因子であると同時に、腸内細菌叢の構成を変化させることが知られている。
近年、腸内細菌研究が進歩し、食事中の多価不飽和脂肪酸が腸内細菌によって代謝される経路が解明されたが、その代謝経路から生じる新たな脂肪酸が宿主に対する影響は秋からかになっていない。
木村氏らは、通常食で飼育したマウスと高脂肪食で飼育したマウスの腸内細菌叢を解析し、かつ多価不飽和脂肪酸の腸内細菌代謝物群の定量解析を行った。その結果、高脂肪食飼育マウスの盲腸内で、善玉腸内細菌の乳酸菌が顕著に減少していることを確認した。さらにリノール酸の腸内細菌初期代謝産物である水酸化脂肪酸(HYA)を含む数種の腸内細菌代謝脂肪酸の劇的な減少が確認された。これらは、高脂肪食の負荷により腸内細菌叢のバランスが乱れるにとどまらず、腸内細菌の代謝産物までに影響が及ぶことを示している。
また、ω6系多価不飽和脂肪酸であるリノール酸を高脂肪食に添加し飼育したマウスでは、脂肪組織の炎症が観察された。一方、HYAを補充したマウスでは脂肪組織の炎症が誘発されず、かつ高脂肪食負荷にもかかわらず体重増加が有意に抑制され、肥満が少なかった。
加えて、腸内でのHYA濃度が通常食摂取時と同程度になるようにHYAを補充した高脂肪食で飼育したマウスは、肥満を抑制する腸管ホルモンでありヒト糖尿病の治療薬として臨床応用されているGLP-1の分泌が亢進し耐糖能が改善していた。ところが長鎖脂肪酸受容体ノックアウトマウスでは、これらの代謝機能改善効果が消失していた。
さらに、腸内細菌の一種でHYA産生能を有する乳酸菌を定着させたマウスにおいても、同様の代謝機能の改善作用が観察された。
腸内細菌が食事中に含まれる多価不飽和脂肪酸の代謝を制御することで、高脂肪食により誘導される宿主の肥満発症に関与することを見出した。
今後の展開
本研究により、食事中に含まれる多価不飽和脂肪酸を腸内細菌が代謝することで、食事により誘導される宿主の肥満を改善する可能性が明らかになった。近年の食の欧米化に伴う肥満症の患者増加は社会的な問題となっており、その治療法・予防法の確立は急務。腸内環境を制御する食習慣や腸内細菌の代謝産物が、代謝性疾患に対する新たな治療法につながるとして、今後本成果の応用が期待される。
また、近年の腸内細菌研究の発展に伴い、腸内環境の制御が宿主の生体恒常性の維持と密接に関与することが明らかにされている。本研究は、食-腸内環境-宿主の相互連関が、宿主のエネルギー代謝を正常に維持する可能性を示しており、我々の日常生活におけるQOLの向上に活かすことが期待される。
文献情報
腸内細菌は食用油に含まれる多価不飽和脂肪酸を代謝することにより宿主の肥満を防ぐことを解明(東京農工大学プレスリリース)
原文はこちら(Nature Communications)