運動で認知症を防ぐ! WHO初の認知症ガイドラインで高い推奨レベル
世界で約5,000万人が罹患し、かつ毎年新たに約1,000万件の新規症例が報告されている認知症。患者本人のQOLを低下のみでなく、介護のためのコストも増大しており、2030年までに年間2兆米ドルに達するとの推計もある。認知症対策は世界的に喫緊の課題と言える。
このような状況に対し先月15日、WHO(世界保健機関)が認知症リスク低減に向けた初のガイドラインを発表した。認知症は全く避けられないものではなく、ライフスタイルの改善等によりリスクを減らすことで予防が可能であるとし、身体活動、禁煙、栄養、アルコール摂取などの12の介入手段をエビデンスと推奨レベル付きで提示している。
その中で最も高いエビデンスレベル・推奨レベルが示されているの'Physical activity interventions'「身体活動」による介入だ。具体的には「認知機能低下のリスクを軽減するために、正常な認知機能を有する成人には身体活動を推奨すべきである」というステートメントを、エビデンスレベル'moderate'(中等度)、推奨レベル'strong'(強)としている。一方、「認知機能低下のリスクを軽減するために、軽度の認知機能障害のある成人に身体活動を推奨可能である」は、エビデンスレベル'low'(低)、推奨レベル'conditional'(限定的)。どちらかというと認知症発症予防段階での運動に関するエビデンスが豊富であり、効果もより期待できるということになる。
推奨される身体活動としては、2010年に発表した「WHOの健康に対する身体活動に関する世界的な勧告」を踏襲し、
- 65歳以上の成人に対し1週間に少なくとも150分の中強度の有酸素運動、または75分の激しい有酸素運動、
- 有酸素運動は少なくとも10分の長さで行う、
- さらなる健康上の利益のため、週に300分まで中強度の有酸素運動を増やすか150分の激しい有酸素運動
などを推奨している。
栄養摂取に関しては、「地中海風の食事療法は、認知機能低下および認知症のリスクを軽減するために、正常な認知および軽度の認知機能障害を有する成人に推奨され得る」というステートメントを掲げている。そのエデンスレベルは'moderate'(中等度)、推奨レベル'conditional'(限定的)。
また、「健康的な食事に関するWHOの勧告に基づいたバランスの取れた食事は、すべての成人に推薦される」は、エビデンスレベル'low to high'(低〜高)、推奨レベル'conditional'(限定的)で、これらはポジティブな評価。
その一方、「認知機能低下および認知症のリスクを軽減するために、ビタミンB・E、多価不飽和脂肪酸、多剤複合サプリメントの摂取は推奨されない」というステートメントは、それぞれ'moderate'(中等度)と'strong'(強)で、サプリメントの使用に関してはネガティブな位置づけとなった。
個々の食品や栄養素に関しては、果物や野菜の摂取が認知症リスクの低下と最も一貫して関連していること、魚の摂取量の増加が多価不飽和脂肪酸(PUFA)の摂取に伴って記憶力衰退に抑制的に働くといった報告があることを述べている。
また、ナッツ、オリーブオイル、コーヒー、葉酸、ビタミンE、カロチン、ビタミンC、ビタミンDに関しても、認知機能低下の報告が認められるが、一部に相反する報告もあるとしている。
その他、本ガイドラインにおいて、身体活動と栄養以外の項目に目を向けると、禁煙(エビデンスレベルは'low'(低))、および、高血圧の管理(low to high(低〜高))と糖尿病の管理(very low to moderate)の管理が、推奨レベル'strong'(強)とされている。
関連情報
Adopting a healthy lifestyle helps reduce the risk of dementia(WHO)
Risk reduction of cognitive decline and dementia WHO Guidelines(WHO)
WHO recommendations on a healthy diet(WHO)