筋肉再生のメカニズム、筋繊維の細胞内におけるミトコンドリアの働きを解明 電気通信大学ほか
激しい運動によって損傷した骨格筋が再生する過程で、筋繊維では細胞内のミトコンドリアが劇的な配置転換が行われていることが明らかになった。電気通信大学などの研究グループの研究によるもので、米国生理学会発行ジャーナル「American Journal of Physiology-Cell Physiology」に論文が掲載されるとともに、同大学からニュースリリースが発行された。著者らは、筋力低下の予防や効率的なリハビリプログラムの提案につながる成果だとしている。

研究の概要:運動による筋損傷の修復メカニズムの一端を解明
電気通信大学、東京科学大学病院、カンザス州立大学らの共同研究グループは、激しい運動(伸張性収縮)によって損傷した骨格筋が再生する過程で、細胞内のミトコンドリアが劇的な配置転換を行うことを明らかにした。この研究では、独自開発の「レーザー光熱変換顕微鏡(PTM)」と「透過型電子顕微鏡(TEM)」を組み合わせることで、再生中の筋線維において、ミトコンドリアが細胞の中心にある核(中心核)の周囲に高密度に集積していることを世界で初めて可視化した。この発見は、筋肉の効率的な修復メカニズムの解明や、新たなリハビリテーション手法の開発、筋疾患の治療法向上に貢献することが期待される。
研究の背景:筋線維の再生プロセスを支えるエネルギー供給システムの探求
骨格筋は高い再生能力を持つ組織であり、過度な運動による損傷後には、衛星細胞(筋幹細胞)の活性化を経て新しい筋線維が形成される。再生初期の筋線維には、細胞の中央に核が位置する「中心核」という特徴的な構造がみられるが、この再生プロセスを支えるエネルギー供給システム(ミトコンドリアの配置や構造)がどのように変化しているのかは、これまで詳しくわかっていなかった。
研究の手法と成果:損傷から7日後の再生筋肉を詳細に分析
本研究グループは、ラットの伸張性収縮損傷モデルを用い、損傷から7日後の再生筋肉を詳細に分析した。
ミトコンドリアネットワークの断片化と再配置
成熟した正常な筋肉では、ミトコンドリアは規則正しく縦列状のネットワークを形成しているが、再生中の筋肉ではこの構造が消失し、断片化したミトコンドリアが散在していることが判明した。
中心核の周囲への集積(バイオジェニック・ホットスポット)
3次元的な画像解析の結果、ミトコンドリアが「細胞中心核」の周囲(0.1~1.0μm以内)に特異的に密集していることを発見した(図1)。
図1 レーザーPT顕微鏡による横断画像によるミトコンドリアの観察

未成熟なミトコンドリアの存在
電子顕微鏡による超微形態解析により、核のすぐそばにあるミトコンドリアは「クリステ(内部構造)」の密度が低く、構造的に未成熟であることがわかった。これは、これらのミトコンドリアが核の近くで新たに産生された(バイオジェネシス)ばかりのものであることを示唆している(図2)。
図2 電子顕微鏡による再生筋ミトコンドリアのクリステ構造

研究の意義:筋の再生に必要なATPを産生する「エネルギー工場」が作られる
筋肉の再生には膨大なタンパク質合成が必要であり、それには多大なエネルギー(ATP)を要する。今回の発見により、再生中の筋細胞は、タンパク質合成の司令塔である「核」のすぐ近くにエネルギー工場(ミトコンドリア)を集結させるため、核の近くでミトコンドリアを盛んに産生し、効率的に修復作業を行っている可能性が示された。この「バイオジェニック・ホットスポット(産生拠点)」の特定は、筋再生の代謝制御を理解する上で極めて重要な知見。
今後の期待:筋力低下の予防や効率的なリハビリプログラムの提案に向けて
本研究で活用された光熱変換顕微鏡技術は、生体組織内のオルガネラ(細胞小器官)の動態を詳細に把握する強力なツールとなる。著者らは、「今後はこの配置転換がどのようなシグナルで制御されているのか、また加齢や疾患によってこの修復拠点の形成が阻害されるのかを調査することで、筋力低下の予防や効率的なリハビリプログラムの提案につなげていく予定」と述べている。
ニュースリリース
筋肉の再生を支える「エネルギー工場の拠点」を発見 :再生中の筋細胞内でミトコンドリアが核の周囲に集結し、効率的な修復を誘導(電気通信大学)
文献情報
原典論文のタイトルは、「Mitochondrial Localization Around Central Nuclei in Regenerating Skeletal Muscle Following Eccentric Contraction in Rat Model」。〔Am J Physiol Cell Physiol. 2026 May 1;330(5):C1325-C1335〕
原文はこちら(American Physiological Society)







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