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減塩推進で国内の胃癌による疾病負荷を2050年までに3~5割抑制できる可能性 GBDデータから予測

世界の疾病負荷研究(GBD)データを用いた予測解析により、国内の減塩施策を推し進めることで、2050年までに胃癌による障害調整生存年(DALY)を最大で5割以上抑制できる可能性のあることが報告された。ただし、減塩施策がどの程度達成されるかによって効果に差が生じ、とくに50代から60代の人では予測値が大きく変化するという。デンマーク工科大学のConstanza De Matteu Monteiro氏、東北大学災害科学国際研究所(IRIDeS)グローバルヘルス政策学分野および国際医療福祉大学大学院「食・栄養と健康」社会連携講座の野村周平氏らの研究によるもので、論文が「Nutrients」に掲載された。

減少または横ばいだった日本人の食塩摂取量が、近年では増加する傾向がみられる

食塩の過剰摂取は世界的な公衆衛生上の重要な課題とされており、高血圧等の循環器疾患だけでなく、胃癌のリスク上昇とも関連していることが明らかにされている。これまでの世界の疾病負荷研究(Global Burden of Disease;GBD)から、2021年時点において世界全体の胃癌による障害調整生存年(disability-adjusted life year;DALY)の7.9%は、食塩過剰摂取によるものと報告されている。

胃癌の疾病負荷は国や地域によって異なることも知られており、とくに日本を含む東アジア諸国では罹患率が高い。これはヘリコバクター・ピロリ菌感染率が高いことと、食塩摂取量が他の地域よりも多いことなどが関与しているとされ、これら両者は相乗的に胃癌リスクを高めると考えられている。

食塩過剰摂取が胃癌の疾病負荷に及ぼす影響を推測する研究が、過去に何度か行われてきている。しかし日本では近年まで微減または横ばいで推移していた国民の食塩摂取量が、最近は増加に転じる傾向がみられること、「健康日本21(第三次)」で食塩摂取量の目標がそれまでの8g/日から7g/日に変更されたことなどの変化が起きている。以上を背景として野村氏らは、今後の日本人の食塩摂取量の変化と食塩過剰摂取に伴う胃癌によるDALYの関連を、改めて検討した。

予測のための5種類のシナリオ

この研究では、1990~2021年のGBDデータから、日本人に関するデータを抽出。食塩過剰摂取に起因する胃癌による障害調整生存年(DALY)への影響が、今後2050年までどのように変化するかを、以下の5種類のシナリオに基づき統計学的に予測した。

シナリオ1

1990~2021年の食塩摂取量の推移の傾向が今後も維持されるというパターン。直近の数年間に観察された食塩摂取量増加傾向も予測に加味されている。

シナリオ2

2050年までに食塩摂取量が半減(50%減)するという、五つのシナリオの中のベストパターン。現在の日本人の食塩摂取量がおよそ10g/日であるため、50%減とするこのシナリオでは、世界保健機関(WHO)が掲げる5g/日未満という目標とほぼ一致する。

シナリオ3

2032年までに食塩摂取量が30%減少し、その後は2050年まで摂取量が変化しないというパターン。現在の日本人の食塩摂取量がおよそ10g/日であるため、30%減とするこのシナリオでは、「健康日本21(第三次)」の目標である7g/日とほぼ一致する。

シナリオ4

2050年までに食塩摂取量が直線的に30%減少するというパターン。シナリオ3同様に、「健康日本21(第三次)」の目標とほぼ一致する。

シナリオ5

直近の5年間に観察された食塩摂取量が増加した状態のまま今後も推移するという、五つのシナリオの中のワーストパターン。

減塩施策の推進で、胃癌の疾病負荷(DALY)も大きく抑制できる

それでは、各シナリオにおける胃癌の障害調整生存年(DALY)への影響をみていこう。なお、DALYの予測に際しては、出生率や1人あたりの所得、教育水準という社会人口統計学的因子の変化が考慮されており、人口10万人あたりの数値として示されている。基準となる2021年のDALYは22.3で、性別では男性が33.1、女性は13.0であった。

全体的な予測:健康日本21の目標を達成するとDALYは5割近く減る

5種類のシナリオのすべてにおいて、食塩過剰摂取が胃癌によるDALYに及ぼす影響は、経年的に減少すると予測された。シナリオ別の予測は以下のとおり。

シナリオ1での2050年のDALYは、15.4(95%予測区間〈PI〉;14.1~16.8〈2021年比で-31.4%〉)であり、疾病負荷は3割強、減少すると予測された。性別では、男性は22.9(同20.9~25.2〈-30.8%〉)、女性は7.3(6.7~7.9〈-43.8%〉)だった。

ベストパターンのシナリオ2では2050年に10.1(9.3~11.1〈-54.7%〉)であり、疾病負荷は半減すると予測された。性別では、男性14.6(13.3~16.1〈-55.9%〉)、女性5.3(4.9~5.7〈-59.2%〉)だった。

シナリオ3と4は、減塩が進む速度は異なるが2050年時点ではともに現在より30%減が達成される。これによりDALYは11.4(10.5~12.5〈-48.9%〉)と5割近く減少すると予測された。

ワーストパターンのシナリオ5の2050年時点のDALYは13.7であり、これは現在までの傾向が続くことを想定したシナリオ1と同等か、むしろわずかに良好な結果だった。この点について著者らは、「シナリオ1には直近数年間の食塩摂取量の増加傾向が今後の推移予測に反映されているため」と説明している。

年齢層・性別の傾向:50~69歳は、シナリオによってDALYへの影響の差が顕著

次に、年齢層や性別による違いに着目すると、70歳以上(シナリオ1で2050年に97.6〈95.2~100.0〉)および男性(前述のようにシナリオ1で2050年に22.9)において、DALYの高い状態が続くと予測された。

一方、各シナリオで予測されるDALYのばらつきは、50~69歳で最も大きく、2050年には17.1~73.5の範囲に分布すると予測された。つまり、この世代は、減塩施策の推進に対する感度が高いことが示唆された。

反対に70歳以上ではシナリオに関係なく、DALYが高値であった。

これらの予測に基づき著者らは、「政府が掲げている減塩目標を達成することで、日本の胃がんに伴う疾病負荷を大きく削減できる可能性があることが示された。その効果は、絶対的な削減幅では高齢層で、相対的な削減率では若年・中年層で最も大きいようだ」と結論づけている。

文献情報

原典論文のタイトルは、「Forecasting Stomach Cancer Burden from High Sodium Intake in Japan, 2022–2050: Scenario Analysis of Demographic Disparities」。〔Nutrients. 2026 May 21;18(10):1641〕
原文はこちら(MDPI)

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