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ω-3脂肪酸はスポーツによる脳ダメージを抑制するか 神経フィラメント軽鎖の評価のメタ解析

コンタクトスポーツで近年問題が指摘されている、脳震盪を来さない程度の微小な脳へのダメージの蓄積抑制に、ω-3脂肪酸が役立つ可能性を示唆する研究が報告された。脳神経損傷のマーカーである「神経フィラメント軽鎖(Nf-L)」を用いた研究を対象とするメタ解析の結果であり、競技シーズン中の脳神経ダメージに対するω-3脂肪酸摂取の影響は認められないが、シーズン後の評価結果にはNf-Lが対プラセボで有意に低下するという。

カナダの大学生アスリート295人の負傷率を、男性と女性で比較した前向き研究

微小な衝撃の反復による脳神経のダメージをω-3脂肪酸PUFAで抑制可能か?

コンタクトスポーツにより発生するスポーツ関連脳震盪(sports-related concussion; SRC)に対して、身体防護具の改善、安全性を重視したルール変更などの対策が続けられているが、現在も報告数が増加し、とくに若年アスリートでの増加が報告されている。さらに近年、受傷後には脳震盪を呈さないにもかかわらず、軽微な衝撃が繰り返されることで脳神経へのダメージが蓄積されることが明らかにされてきており、反復性非脳震盪性頭部衝撃(repetitive subconcussive head impacts; rSHI)と位置づけられ対策が急がれている。

このrSHIは基本的に無症状であるため、リスクが生じたアスリートも受療行動を起こさず、繰り返す衝撃により脳神経のダメージが蓄積していく。そのような脳神経のダメージを捉えるための感度・特異度の高いバイオマーカーとして、神経フィラメント軽鎖(neurofilament-light; Nf-L)を使用可能だ。rSHIの基準値や臨床的に問題となるrSHIの判定閾値についてコンセンサスは未だ存在しないものの、神経細胞障害の程度や神経疾患の重症度とに関連してrSHIが上昇するというエビデンスがある。

一方、SRCやrSHIに対する、エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid; EPA)やドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid; DHA)などの長鎖オメガ3脂肪酸(long-chain ω-3 polyunsaturated fatty acids; LC ω-3 PUFA)の有効性を示唆する複数の研究結果が報告されてきており、コンタクトスポーツ選手のNf-Lに対するLC ω-3 PUFAの有効性を検討した研究も既に存在する。ただ、それらの研究結果のシステマティックレビューはまだ行われていなかった。

米国の大学アメフト選手を対象とする3件の研究報告を特定しメタ解析

この研究では、システマティックレビューとメタ解析のガイドライン(PRISMA)に準拠して、PubMed、CINAHLという2種の文献データベースのスタートから2024年1月までに収載された文献を対象とする検索が行われた。一次検索で460報がヒットし重複削除後の403本を2名の研究者が、タイトルと要約に基づき独立してスクリーニングを実施し5報に絞り込んだ。その後の全文精査により3報を抽出し、それらのデータをメタ解析の対象として利用した。

特定された報告はすべて米国の大学アメリカンフットボール選手を対象とする研究だった。研究参加者は29~81人で、3研究を合計すると長鎖オメガ3脂肪酸(LC ω-3 PUFA)摂取群が105人、プラセボ摂取群が71人、計179人だった。

介入は、ドコサヘキサエン酸(DHA)のみ、またはエイコサペンタエン酸(EPA)とDHAの組み合わせとして摂取されていた。摂取量は2~6g/日の範囲であり、介入期間は20~33週間だった。すべての研究で介入後に血漿LC ω-3 PUFA濃度の有意な上昇が報告されていた。

3件の研究のうち2件は、シーズン前とシーズン後に神経フィラメント軽鎖(Nf-L)を評価し、他の1件は介入中の複数のポイントでNf-Lを評価していた。

長鎖オメガ3脂肪酸(LC ω-3 PUFA)の予防的摂取戦略が部分的に支持される

メタ解析は、シーズン中の神経フィラメント軽鎖(Nf-L)、およびシーズン後のNf-Lという2時点の評価データを用いて行われている。

その結果、シーズン中のNf-Lに関しては、長鎖オメガ3脂肪酸(LC ω-3 PUFA)群のほうがプラセボ群より低値ではあるものの、群間差は非有意だった(平均差=-1.66±0.82pg/mL〈偽陽性リスクを抑制するBonferroni調整後p=0.09〉)。一方、シーズン後のNf-Lに関しては有意な群間差が認められ、LC ω-3 PUFA群のほうが低値だった(平均差=-2.23±0.83pg/mL〈調整後p=0.02〉)。

著者らは、「我々の研究結果は、反復性非脳震盪性頭部衝撃に曝されるコンタクトスポーツのアスリートが、予防的に長鎖オメガ3脂肪酸を摂取するという戦略を、部分的に支持するものである。ただし、有効な摂取量を探索するために、さらなる研究が必要とされる」と総括している。

文献情報

原題のタイトルは、「Nutritional Optimization for Brain Health in Contact Sports: A Systematic Review and Meta-Analysis on Long-Chain ω-3 Fatty Acids and Neurofilament Light」。〔Curr Dev Nutr. 2024 Sep 3;8(10):104454〕
原文はこちら(Elsevier)

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