玉ねぎやパセリ、オレンジに含まれる「アピゲニン」に糖尿病を予防する効果を確認 広島大学
日ごろから食されている食品由来成分であるアピゲニンに、糖尿病を予防する効果があることが明らかになった。広島大学などの研究グループの研究によるもので、「FASEB journal」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。
研究の概要:日ごろ食べている食品の中に抗糖尿病成分
広島大学と山陽小野田市立山口東京理科大学の共同研究チームは、βチューブリンに結合して糖尿病抑制効果を示す食品成分(アピゲニン)を見いだした。
糖尿病の原因はさまざまだが、それらの一つとして、小胞体ストレス、インスリン抵抗性が挙げられる。小胞体ストレスやインスリン抵抗性を改善できる化合物を特定することは、糖尿病の治療に有益であると考えられる。本研究では、比較的安全とされる食用植物由来の化合物から、インスリン抵抗性を軽減できる物質の特定を目指した。
その結果、アピゲニンという物質が、小胞体ストレス、インスリン抵抗性を改善することがわかった。アピゲニンは、タマネギ、オレンジ、パセリなどの食物に含まれており、日ごろから食されてきた。このような、比較的安全な食用植物由来の因子が、糖尿病を予防できる可能性が示された。
研究の背景:小胞体ストレスやインスリン抵抗性を改善する食品由来成分の探索
糖尿病は、血糖値を下げる働きをもつインスリンというホルモンの分泌・作用不足により血糖値が異常に高くなる慢性代謝性疾患であり、世界的な健康上の懸念となっている。全身の血管や神経にダメージを与え、心臓病や腎臓病、失明のリスクが高まる病気で、日本に579万人の患者がいるといわれている。
インスリンは、膵臓のβ細胞という細胞から分泌される。インスリンが細胞膜上のインスリン受容体に結合すると、PI3K/Aktシグナル伝達経路という、外部からの信号を細胞に伝える身体の仕組みが活性化され、細胞内へのグルコースの取り込みが促進されることで、血糖値を下げる。しかし糖尿病では、インスリン抵抗性(生活習慣や環境、遺伝的な要因によりインスリンが効きにくい状態)により、細胞内へのグルコース取り込みが損なわれた結果、血糖値が上昇する。
本研究では、インスリン抵抗性の一つの原因として知られている小胞体ストレスに着目した。細胞に小胞体ストレスがふりかかると、小胞体内でのタンパク質の折り畳み(タンパク質がその機能を発揮できる形に構造を変えること)に問題が起き、異常タンパク質が蓄積する。本研究では、食品由来の因子449種類から小胞体ストレス軽減因子を特定し、インスリン抵抗性、さらには糖尿病改善効果を示す化合物を明らかにすることを目的とした。
研究成果の内容:アピゲニンが小胞体ストレスによる細胞死抑制を最も強く抑制
まず、449種類の食品由来化合物群の中から、小胞体ストレスによる細胞死抑制効果を示す化合物を検討した。その結果、アピゲニンという化合物が最も強い効果を示した。アピゲニンはタマネギ、オレンジ、パセリなどの食物に含まれており、抗酸化作用や抗炎症作用など、身体にとってよい影響をもたらすことが知られている。アピゲニンは小胞体ストレス応答の誘導(GRP78,CHOP)を抑制し、小胞体ストレスによる細胞死を抑制した。さらにアピゲニンは、小胞体ストレスによるインスリン抵抗性改善効果を示した。
そこでその作用機構を明らかにする目的で、アピゲニン結合タンパク質を検討した。アピゲニンとリンカーを介して磁気性ビーズに結合させたビーズを作成し、本ビーズに結合するタンパク質をSDS-PAGE、銀染色、nano LC-MS/MS解析により同定した。その結果、アピゲニンはβチューブリンに結合することが明らかになった。解析でもアピゲニンはβチューブリンに結合することが確かめられた。
そこで、アピゲニンによるβチューブリン重合・脱重合への影響を検討した。その結果、アピゲニンはβチューブリンの重合を促進することで小胞体ストレスによるインスリン抵抗性を改善することが示された。この効果は、糖尿病モデルマウスでも確認された。
今後の展開:新規糖尿病用薬の開発も期待される
食品成分は、人々が日常摂取する食品由来の成分であるため、安全性が高いと期待される。また、特定した化合物であるアピゲニンはβチューブリンと結合することが明らかになった。βチューブリンを標的とする抗糖尿病薬は知られておらず、今後はこのような知見をもとに、新しいメカニズムを有した糖尿病治療薬の開発が期待される。
プレスリリース
【研究成果】日頃から食されている食品由来成分に糖尿病を予防する効果があることを発見しました(広島大学)
文献情報
原題のタイトルは、「A unique compound ameliorating endoplasmic reticulum stress and insulin resistance by binding to β tubulin」。〔FASEB J. 2024 Nov 15;38(21):e70150〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)