2週間のダークチョコレート摂取で長距離ランナーの血管機能が改善 男性アマチュア選手で検討
ダークチョコレートがアマチュア長距離ランナーの動脈機能を改善することが報告された。また、スポーツパフォーマンス関連指標の一部にも、有意な変化が生じる可能性が報告されている。この機序として著者らは、ダークチョコレートに含まれるポリフェノールの内皮機能改善作用によるものと推測している。ギリシャでの研究。
ダークチョコレートでアスリートの血管機能が変化するか?
ダークチョコレートの健康効果に関しては既に先行研究の報告が少なくない。ただし、持久系アスリート対象の研究は多くない。
ダークチョコレートはポリフェノールを豊富に含み、抗酸化作用の高い食品として知られている。また、ポリフェノールは一酸化窒素(NO)の産生を刺激し、NOの生物学的利用能を高め、血管内皮機能を改善し動脈血管の柔軟性の向上をもたらすとされている。このような内皮機能改善作用は、動脈硬化の進展抑制という健康効果につながり、かつスポーツパフォーマンスとの関連ではランニングエコノミーの向上につながる可能性がある。
これらの理論的根拠を基に、本論文の著者らは、長距離ランナーに対してダークチョコレートを2週間にわたって摂取してもらうという介入を行い、動脈機能やパフォーマンス指標がどのように変化するかを検討した。
研究参加者と介入方法、評価指標
この研究の参加者は、ギリシャ各地のスポーツクラブやメディアを通じて募集された、健康で22~55歳の男性アマチュアランナー。適格条件として、週に3回以上トレーニングを行っていることなどが設定されており、除外基準として、喫煙、アレルギーを含む慢性疾患、および、ポリフェノールの豊富な食生活をしていること(チョコレート、りんご、茶などを多く摂取している)などが設定されていた。
50人が応募し、4人が除外基準に該当したため、参加者は46人となった。おもな特徴は、年齢40.69±9.04歳、トレーニング歴9.98±6.03年、BMI23.79±2.35、血圧128.58±8.40/76.47±6.78mmHg、安静時心拍数57.34±6.70bpm。年齢については40歳未満と40歳以上がそれぞれ23人ずつだった。
介入は2週間にわたり、ダークチョコレートを毎日50g摂取してもらうというもの。50gという用量は既報研究に基づき設定された。用いたダークチョコレートは市販の製品でカカオ含有量が70%、292.5kcalであり、2週間の合計でポリフェノール摂取量は1,222.5mg、カテキンかせ577.5mgだった。
介入の前後に、動脈血管機能の指標である脈波伝播速度(carotid–femoral pulse wave velocity;cfPWV)や脈波増大係数(augmentation index;AIx)などを測定したほか、心肺運動負荷検査(cardiopulmonary exercise test;CPET)を行った。つまり、デザインは前後比較試験であり、プラセボ摂取またはダークチョコレートを摂取しないという対照群(条件)は設定されていない。
なお、介入期間中は、サプリメントやアルコールの摂取を禁止し、血管内皮機能に影響を及ぼし得る硝酸塩やフラボノイドの豊富な食品を積極的には摂取しないことを求めた。また、チョコレートのエネルギー量に配慮し、その分、ほかの食品の摂取量を調整するよう指示した。トレーニングについては、ふだん通りに続けてもらった。
それでは次項から結果をみていく。
cfPWVやAIxが有意に改善し、VO2maxやAT-VO2maxが有意に上昇
2週間のダークチョコレート摂取により、cfPWVは11.82%、AIxは19.47%、それぞれ有意に低下(改善)した(いずれもp<0.001)。また、上腕血圧や中心動脈圧も有意に低下していた。
安静時心拍数、心肺運動負荷検査(CPET)での最大心拍数はともに有意に上昇し、VO2maxや無酸素性作業閾値(anaerobic threshold;AT)閾値下のVO2に対するVO2maxの比(AT-VO2max)といった、持久系スポーツのパフォーマンスに関連する指標も有意に上昇した。詳しくは、VO2maxは介入前が52.2±28.8mL/kg/分、介入後は753.43±8.44mL/kg/分(p=0.028)、AT-VO2maxは同順に78.59±5.97%、84.04±5.82%だった(p=0.001)。
なお、40歳未満/以上で2群に分類して解析すると、40歳未満の群では血圧に対する影響が非有意となった。
大半の被験者がダークチョコレート摂取のパフォーマンスへの影響をプラス評価
介入後に、「ダークチョコレート摂取の影響をどのように評価するか?」と質問し、5段階のリッカート尺度で回答を得た。すると、たいへんポジティブが60%、ポジティブが27%、どちらとも言えないが10%、ネガティブが3%、たいへんネガティブが0%となった。前二者を合計すると87%となり、被験者の大半がパフォーマンスの向上を感じていたと判断された。
ダークチョコレート摂取に伴う体重増加には要注意
前述のとおり本研究は、比較対象群(条件)を置いていない。この点は著者らも論文中で限界点として挙げている。その一方で著者らは、「本研究で観察された効果はおもに、ポリフェノールが豊富なダークチョコレートを摂取したことによるものである」と述べ、既報研究を参照してそのメカニズムを考察している。ただし、本研究には女性が含まれていないことや、ダークチョコレート摂取の急性効果のみに焦点を当てているといった限界点もあることから、「今後の大規模サンプルでの追試が必要である」としたうえで、「ダークチョコレートは長距離ランナーの動脈機能を改善し血管の健康を促進する」と結論づけている。
なお、留意すべき点として、「チョコレートは高カロリーであることから、意図しない体重増加を避けるために他の食品の摂取量の調整が不可欠」と付け加えている。
文献情報
原題のタイトルは、「The Effect of Dark Chocolate Consumption on Arterial Function in Endurance Male Runners: Prospective Cohort Study」。〔Sports (Basel). 2024 Dec 13;12(12):344〕
原文はこちら(MDPI)