カフェインにより投擲選手のパフォーマンスが向上する可能性 スペインのトップレベル選手での研究
カフェインのエルゴジェニック効果に関する新たなエビデンスが報告された。スペイン国内で12位以内に入るハイレベルの投擲選手を対象とする研究で、3mg/kgのカフェイン摂取がパフォーマンスを向上させたという。
投擲競技におけるカフェイン摂取のエビデンス
カフェイン摂取がスポーツパフォーマンス上、有意な作用をもつことに関しては、数々の研究報告のエビデンスがある。しかし、本論文によると、ハンマー投げ、やり投げ、砲丸投げ、円盤投げといった投擲競技でのエビデンスは少なく、これまでに行われてきた研究では矛盾した結果が示されているという。これを背景に著者らは、ハイレベルの投擲選手を対象とする二重盲検無作為化プラセボ対照クロスオーバー試験により、カフェインの有効性と安全性を検討した。
研究参加者の特徴
対象は、スペインの18歳以上の投擲選手で、少なくも過去5年以上にわたりハイレベルな競技経験があること、過去半年以内の負傷や疾患の既往がないことを条件として募集され、14人が参加に同意した。
参加者のおもな特徴は、競技はハンマー投げが9名(うち男性4名)、円盤投げが5名(同2名)であり、年齢24.8±6.3歳、体重94.5±16.8kg、身長177.4±11.7cm。競技経験は10.5±6.1年で、全員が同国内の各カテゴリーで上位12位以内にランクされていた。週あたりのトレーニング時間は14.9±5.0時間だった。日常のカフェイン摂取量は1.4±0.7mg/kg/日で、全員3mg/kg/日未満であり、大量摂取者はいなかった。
研究デザイン
研究デザインは前術のように、参加者全員にカフェインを摂取する条件とプラセボを摂取する条件を試行する、二重盲検無作為化プラセボ対照クロスオーバー法。各条件の試行は2日間にわたり、下肢筋力の指標としてカウンタームーブメントジャンプ(countermovement jump test;CMJ)を測定し、投擲パフォーマンスとしては完全投擲(complete throw)と修正投擲(modified throw)にて評価した。
完全投擲では公式試合の規定に準拠し、ハンマーの重量は男子7.26kg、女子4kg、円盤の重量は同順に2kg、1kg。一方、修正投擲は、ハンマー投げではハンマーの重量をそれぞれ8kg、5kgに増量した投擲とし、円盤投げでは投擲動作の際に体を回転させないスタンディングスローと呼ばれる投擲とした。完全投擲と修正投擲は各3回、ファウルと判定された場合は最大5回試行した。
各条件の試行の48時間前から激しい運動とカフェインやサプリメントの摂取を禁止し、24時間前から日常どおりの食事をとってもらった。両条件の試行には7日間のウォッシュアウト期間を設けた。両条件ともに平日の同じ時間帯に、屋外の公式投擲施設で行った。気象条件に差はなかった(気温8.2~10.4℃、相対湿度40.4~45.1%)。
カフェインの用量は3mg/kgとし、プラセボは同量のセルロースとして、いずれもカプセルとして、テスト開始の45分前に200mLの水とともに摂取された。
投擲距離、投擲速度ともにカフェイン条件が有意に優れるという結果
完全投擲および修正投擲におけるパフォーマンスは、投擲距離と投擲速度という2項目で評価した。その結果、完全投擲での投擲距離は、カフェイン条件がプラセボ条件に対して3.0±5.1%有意に優れていた(p=0.048、効果量〈ES〉=0.58)。また投擲速度も5.7±8.7%有意に上回っていた(p=0.03、ES=0.65)。修正投擲でも同様に、投擲距離は3.6±4.4%(p=0.01、ES=0.90)、投擲速度は4.8±7.4%(p=0.01、ES=0.80)、それぞれカフェイン条件のほうが有意に優れていた。
カウンタームーブメントジャンプ(CMJ)に関しては、跳躍の高さには有意差がみられなかったが(1.1±4.3%、p=0.28〈測定値の平均差が0.40cmで95%信頼区間が-0.40~1.20〉)、最大相対減速力、減速フェーズ時間、最大相対推進力、平均推進速度などの有意差が観察され、カフェイン摂取の影響が認められた。
副作用については活動性の亢進のみ有意差
カフェインまたはプラセボ摂取後の副作用は、摂取後数時間以内に発現したものを報告してもらい評価した。その結果、活動性の亢進が、プラセボ条件では0.0%と全く発生していなかったのに対して、カフェイン条件では71.4%と7割以上の参加者から報告された(p<0.01)。
神経過敏については、プラセボ条件が7.1%であるのに対してカフェイン条件は50.0%と2人に1人が報告したが、条件間の差は統計的有意水準に至らなかった(p=0.07)。また、睡眠障害は、プラセボ条件では0.0%と全く発生していなかったのに対して、カフェイン条件では21.4%で報告されたが、統計学的には条件間の差が非有意だった(p=0.25)。
このほか、易刺激性、筋肉の損傷/こわばり、頭痛、消化器系の症状、尿量増加も有意差がなかった。
結論は、「中程度の用量(体重1kgあたり3mg)のカフェイン摂取により、最小限の副作用リスクとともに、投擲速度と投擲距離の向上が認められた。カフェインの急性摂取は、ハイレベルで競技を行っている投擲選手のエルゴジェニックエイドとして見なすことができる。ただし、リスク/ベネフィットを個別に評価する必要がある」と総括されている。
文献情報
原題のタイトルは、「Caffeine Enhances Some Aspects of Physical Performance in Well-Trained Hammer and Discus Throwers」。〔Nutrients. 2024 Nov 15;16(22):3908〕
原文はこちら(MDPI)