タンパク質の摂取によりアスリートのパフォーマンスは向上するのか? メタ解析では「やや意外?」な結果に
アスリートの多くが、筋肉量・筋力アップのために積極的にタンパク質食品を摂取する傾向があるが、そのことは果たして、スポーツパフォーマンスの向上に結び付いているのだろうか? このような素朴で基本的な疑問の答を、システマティックレビューとメタ解析で検討した結果が報告された。中国の研究者による論文。
タンパク質摂取のパフォーマンスへの影響をメタ解析で検討
タンパク質は筋肉の‘材料’として欠かせない。筋力は、多くの競技で低いよりも高いほうが有利であり、筋肉量を増やすという目的でのタンパク質食品の摂取は理に適っているといえる。しかしエネルギー源という点では炭水化物のほうが利用されやすく、また筋タンパク質の同化作用は炭水化物によるエネルギー摂取が満たされている場合にのみ活性化されると考えられている。
さらに、アスリートのパフォーマンスを支える要素はもちろんのことながら筋力だけではなく、とくに試合時間の長い競技では、エネルギー需要を満たすことが重要となる。タンパク質の摂取量を増やすために炭水化物の摂取量を減らすと、筋グリコーゲン量が減り、疲労感を生じやすくなる可能性が指摘されている。加えて、機序は明確でないながら、タンパク質と炭水化物を同時摂取することによって、パフォーマンスが向上するとする研究報告もある。
いずれにしても、タンパク質の摂取は筋肉量・筋力の維持・向上には重要であるものの、それが競技パフォーマンスの向上につながるのかという点は明らかでなく、今回紹介する論文の著者らは、システマティックレビューとメタ解析によってこの疑問に対する答を得ることを試みた。
文献検索の手法と抽出された論文の特徴
システマティックレビューは、PRISMAガイドラインに則して、Web of Science、Ovid、Scopus、Pubmed、Ebscoという五つの文献データベースを用いて実施された。包括条件は、タンパク質摂取のスポーツパフォーマンスへの影響を対照条件と比較検討したヒトを対象とする研究で、英語で報告されている論文。動物実験、対照条件のない研究、スポーツ関連のパフォーマンス指標(有酸素/無酸素パフォーマンスや心拍数および他の生理学的パラメーター)を検討していない研究、解析に必要なデータが示されていない論文、レター、レビュー、英語以外の論文などは除外した。
重複削除後の1,046件の論文を2名の研究者が独立して、タイトルと要約に基づくスクリーニングを実施し、53件を全文精査の対象として、最終的に28件をメタ解析の対象として抽出した。
28件の研究は欧州、北南米から報告されており、すべて無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)であって、10件はクロスオーバー法で行われていた。14件はサイクリストを対象としたもので、サッカー選手とトライアスリートを対象としたものが各2件、その他、ラグビー、セーリング、登山などのアスリートで検討されていた。研究参加者数の合計は373人で、大半が男性だった。
全体解析では有意な影響を認めないが、持久系および炭水化物との同時摂取では有意
それぞれの研究で評価されていた、ランニングの最大速度と平均速度、ウィンゲートテストのピークパワー、VO2max、自転車競技の記録や疲労困憊に至る時間、1回だけ施行可能な最大負荷量(one repetition maximum;1RM)、カウンタームーブメントジャンプなどの指標に対するタンパク質摂取の標準化平均差(SMD)は0.12で、95%信頼区間が-0.01~0.25と1をまたいでおりp値は0.06であって、条件間の差は有意水準に至らなかった。なお、研究間の異質性はI2=16%と低かった。
論文ではこの全体解析のほかに、以下のようなさまざまなサブグループ解析の結果が示されている。
まず、タンパク質摂取量の多寡で層別化すると、1.5g/kg/日未満ではSMD0.24(95%CI;0.06~0.42)と有意なプラスの影響が示されたのに対して(p=0.008)、1.5g/kg/日以上ではSMD0.00(-0.17~0.17)と非有意だった(p=0.98)。
次に、持久力パフォーマンスと筋力パフォーマンスとで比較すると、持久力パフォーマンスに対してはSMD0.19(0.04~0.33)と有意なプラスの影響が示された(p=0.03)。それに対して、筋力パフォーマンスに対してはSMD-0.05(-0.30~0.19)と非有意だった(p=0.68)。
続いて、炭水化物を組み合わせて摂取した場合とそうでない場合を比較すると、組み合わせて摂取した場合には持久力パフォーマンスに対してSMD0.36(0.11~0.61)と、上述のタンパク質単独摂取で認められたSMD0.19よりも大きな効果が示された(p=0.005)。それに対して高用量のタンパク質単独摂取では、持久力パフォーマンスに対してSMD0.18(-0.01~0.37)で有意水準未満であり(p=0.07)、筋力パフォーマンスに対してもSMD-0.08(-0.37~0.2)と非有意だった(p=0.56)。
これらのほかに、生理学的パラメーターの中で、筋グリコーゲン量に対して有意なプラスの影響が観察された。
タンパク質の種類が異なると影響が異なる?
著者によると、本研究はタンパク質摂取がアスリートの競技パフォーマンス指標に与える影響をメタ解析により検討した初の研究だという。結果として、サプリメントを含めた高タンパク食の栄養戦略は、全体としてパフォーマンスの向上に結び付いていなかった。ただし、持久力パフォーマンスには統計的な有意差が確認され、とくに炭水化物と組み合わせて摂取した場合に条件間の差が拡大していた、
論文の考察には、「タンパク質の摂取は、筋肉のグリコーゲン保持を助け、間接的に持久力のパフォーマンスを向上させるようだ。しかし、タンパク質の摂取は単独でも炭水化物と組み合わせた摂取でも、アスリートの筋力を向上させていなかった。ただし、タンパク質の種類によって、パフォーマンスに対する効果が異なる可能性がある。今後の研究では、植物性タンパク質が運動パフォーマンスに及ぼす効果に焦点を当てる必要がある」と述べられている。
文献情報
原題のタイトルは、「The effect of protein intake on athletic performance: a systematic review and meta-analysis」。〔Front Nutr. 2024 Nov 6:11:1455728〕
原文はこちら(Frontiers Media)