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ハイレベルなアマチュアランナーの腸内細菌叢の組成は、VO2maxなどのパフォーマンス指標と関連

競技会参加レベルのアマチュアランナーは、週のランニング量が5km以下程度の運動習慣をもつ人に比べて、腸内細菌の多様性が高いという研究結果が報告された。また、VO2maxや疲労困憊に至るまでの時間と相関のある腸内細菌も明らかになった。イスラエルの研究者による報告。

ハイレベルなアマチュアランナーの腸内細菌叢の組成は、VO2maxなどのパフォーマンス指標と関連

ハイレベルランナーの腸内細菌叢の特徴や性差を探る研究

近年、腸内細菌関連の研究が活発に行われており、スポーツパフォーマンスとの関連についても多くの知見が蓄積されてきている。例えばマラソンランナーは非活動的な人よりある種の腸内細菌が多く、その菌株をマウスに移植したところ、移植していないマウスよりも活動量が増えたことなどが報告されている。

しかしその一方で、スポーツ関連のほかの研究領域と同様に、腸内細菌に関連する研究の大半は、男性アスリートを対象に行われてきている。ヒトおよび動物の研究から、腸内細菌叢の組成には、恐らく性ホルモンの影響と考えられる性差が存在することが示されており、女性アスリートの腸内細菌叢の組成は男性アスリートとは異なる可能性が想定される。ただしこれまで、同一の研究環境のもとで、女性と男性のアスリートの腸内細菌叢を比較検討した研究は乏しい。

これらを背景として本論文の著者らは、ハイレベルランナーと、トレーニング量は少ないながら非活動的ではない一般人口、および、男性と女性とで腸内細菌叢の組成が異なるのか、さらにマラソンに関連するパフォーマンス指標と腸内細菌叢との間に何らかの関係はあるのかを検討した。

研究参加者の特徴と評価項目

この研究には、競技会に参加し週に少なくとも50km以上のランニングを行っているアマチュアランナー22人(男性13人、女性9人)、週5km以下のランニングという軽度の身体活動を行っている一般住民18人(男性と女性が各9人)が参加した。研究開始3カ月前以内に、プレ/プロバイオティクス、マルチビタミン、抗菌薬、β-アラニン、重曹、その他のサプリメントを利用していた人は除外されている。

ランニングパフォーマンスに関連する指標として、トレッドミルを用いてVO2max、心拍数、85%VO2maxで疲労困憊に至るまでの時間(time to exhaustion;TEE)、乳酸値などを評価した。腸内細菌叢の組成の解析は便サンプルによった。

参加者の主な特徴は、年齢がランナー群は43±6.5歳、対照群は41±7.4歳であり、BMIは同順に23.2±2.61、23.9±4.01で有意差がなかった(p=0.47)。週あたりのトレーニングによる走行距離は、67±15.6、5±0km、VO2maxは46±6.7、36.7±5.4mL/kg/分であり、疲労困憊に至る時間(TEE)は15.4±3.6、7.4±3.1分であって、いずれも有意差が認められた(すべてp<0.001)。

ランナーの特徴を性別で比較すると、女性、男性の順に、BMIは21.06±1.46、24.61±2.2、週あたり走行距離は61.11±12.6、71.15±16.6km、VO2maxは43.87±5.4、47.5±7.4mL/kg/分、TEEは15.20±7.83、15.59±6.22分だった。

ランナーは腸内細菌叢のα多様性が有意に高く、性別間では有意差なし

ランナー群は対照群に比較し、腸内細菌叢のバランスが良好であることの一般的な指標である、α多様性が有意に高かった(p=0.04)。一方、ランナー群(p=0.94)および対照群(p=0.99)ともに、男性と女性の間にα多様性の有意差は認められなかった。

また、ランナー群と対照群との間に、腸内細菌の種類に量的な違いがあることが明らかになった。科レベルでは、ランナー群は対照群よりもEnterobacteriaceaeの菌数が有意に少なかった(p=0.0001)。Enterobacteriaceaeは健康な場合、腸内細菌の1%未満だが、炎症性腸疾患では増加していることが知られている。本研究で示された、ランナー群でEnterobacteriaceaeが少ないという結果は、ランニングによってこれらの病原性を有する腸内細菌が減少することを示唆している可能性がある。一方、ランナー群は対照群よりもMethanosphaera属の菌数が有意に高かった(p=5.64×10-20)。

8種類の腸内細菌の量が、VO2maxやTTEと関連

ランニングパフォーマンスとの関連の検討によって、8種類の腸内細菌との関連が明らかになった。

VO2maxが高いことと関連のある腸内細菌として、Mitsuokella、Blautia massiliensis、Rothia、Megamonas、Prevotellaceae、Butyricicoccus pullicaecorum、疲労困憊に至る時間(TEE)が長いことと関連のある腸内細菌として、Mitsuokella、Blautia massiliensis、Methanosphaera、Oscillospiraが特定された。

腸内細菌叢をパフォーマンス向上に結び付ける栄養戦略の探求

著者らは、本研究で明らかになったランナー群の腸内細菌叢の特徴が、「非活動的な人を対照としたのではなく、週に5km程度のランニングを行っている健康的なライフスタイルの人との比較で示されたという事実によって強調される」と述べている。一方、研究仮説の一つとして掲げていた腸内細菌叢の性差は、ランナー群、対照群ともに確認されなかった。

論文の結論には、「本研究の結果は、腸内細菌叢がスポーツパフォーマンスにおいて重要な役割を果たし、エネルギー代謝、炎症、回復などに影響を与える可能性があることを示唆している。また、ランナーの腸内細菌叢の特徴は、性別に特有のものではない可能性がある。腸内細菌叢の組成を深く理解することで、アスリートのパフォーマンスを最適化するための、カスタマイズされた栄養・トレーニング戦略に関する貴重な洞察が得られるだろう」と述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Gut Microbiota Composition Positively Correlates with Sports Performance in Competitive Non-Professional Female and Male Runners」。〔Life (Basel). 2024 Oct 30;14(11):1397〕
原文はこちら(MDPI)

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