栄養サポートによって、女性重量挙げ選手の減量中のパフォーマンスに関する指標が改善
女子重量挙げ選手を対象として、減量中に栄養サポート介入を行う群と行わない群とに二分し、パフォーマンスに影響を及ぼし得る指標に差が生じるか否かを検討した、無作為化比較試験(RCT)の結果が報告された。クレアチンキナーゼ、テストステロンなどの変化や、疲労・睡眠という主観的評価に有意差が認められたという。中国からの報告。
競技前の急速な減量による身体への負荷を栄養サポートで軽減可能か?
重量挙げは体重別階級があり、多くの選手は有利な条件で競技を行うために、大会前の短期間で急速な減量を行っている。
急速な減量のためには、いわゆる“水抜き”のほかに、当然ながらエネルギーバランスを負にする必要があり、栄養素量の不足が生じ、筋タンパク質の異化亢進、電解質不均衡、疲労の増加、不眠症状などを来し、健康およびパフォーマンスの低下を招く。もし、急速な減量中の栄養介入によって、筋タンパク質の異化や、電解質不均衡、疲労、不眠などの負の影響を抑制することができるとすれば、健康リスクとパフォーマンス低下を防ぐことができるかもしれない。
今回紹介する研究は、このような仮説のもとで、実際に競技会に参加する直前の重量挙げ選手を無作為に2群に分けて、1群にのみ栄養サポートを行うという、踏み込んだデザインで実施された。
女子重量挙げ選手に大会4週間前から栄養モニタリングとサプリ等の介入
この研究の対象は中国四川省で行われたウエイトリフティング大会に参加する、18~30歳の女性選手。競技歴が5年以上あり、健康リスクのない状態であることを適格条件とし、28人を登録。体重階級のバランスをとったうえで、14人ずつ無作為に介入群と対照群の2群に群分けした。
全員がコーチの設定した標準的なトレーニングを行い、介入群に対しては、大会の4週間前から個別の栄養モニタリングとサプリメント投与を行った。具体的には、毎日の食事記録に基づき栄養士が随時、栄養介入を行い、また対面による栄養相談を週単位で実施、課題を解決していった。
サプリメントによる介入としては、マルチビタミン、亜鉛、マグネシウムのほか、世界アンチ・ドーピング機関(WADA)の基準に準拠している、クレアチンキナーゼ(creatine kinase;CK)抑制作用、テストステロン増加作用、睡眠促進作用を有すると報告されている各サプリメント(すべて中国メーカー製)を摂取してもらった。
栄養モニタリングとサプリ介入で、パフォーマンス関連指標に有意な影響
介入効果の判定には、血液検査ではクレアチンキナーゼ(CK)、テストステロン、コルチゾール、テストステロン/コルチゾール比、ヘモグロビン、尿素窒素などを評価し、疲労については10cmのスケールで主観的な評価を把握した。また、睡眠の質については、ピッツバーグ睡眠質問票(Pittsburgh Sleep Quality Index;PSQI)を用いて評価した。PSQIは21点満点で、スコアが高いことは睡眠の質が良くないことを意味する。
介入の最初の週には、いずれの指標も対照群と有意差が認められなかった。2週目には、介入群では対照群と比較してCKが低く(p=0.005)、テストステロン(p=0.047)、テストステロン/コルチゾール比(p=0.010)、ヘモグロビン(p=0.047)が高いという有意差が観察された。
続いて3週目には、介入群で尿素窒素(p=0.035)、CK(p=0.008)、コルチゾール(p=0.025)が低下し、テストステロン/コルチゾール比(p=0.015)、ヘモグロビン(p=0.025)が上昇していた。さらに4週目には、介入群の尿素窒素、CK、コルチゾール、および疲労のスコアと睡眠の質(PSQI)スコアが、対照群に比べて有意に低く、テストステロン、テストステロン/コルチゾール比、ヘモグロビンについては有意に高いという群間差が生じていた。
より詳しくは、CKに関しては対照群がベースライン値の283.9±40.7U/Lから4週目には340.0±50.8U/Lと上昇していたのに対して、介入群では同順に290.6±45.2、260.0±35.6U/Lと低下していた。テストステロンは、対照群は1.81±0.29nmol/Lから1.50±0.25nmol/Lへ低下していたのに対して、介入群は1.82±0.31、1.79±0.27nmol/Lと、ほぼ変化がなく安定していた。睡眠障害については、対照群では5人(35.7%)が報告し、介入群では2人(14.3%)が報告した。
これらの結果から著者らは、「競技前の減量期間中の女性重量挙げ選手に対する、生理学的・生化学的モニタリングに基づく個別栄養サプリメントプログラムが、生理学的バランスの維持、疲労の軽減、睡眠障害の緩和に役立つという、われわれの研究仮説が確認された」と述べている。以下、考察としてまとめられていることを要約して紹介する。
クレアチンキナーゼ(CK)の上昇抑制:
栄養介入でCKの上昇が抑制されたことは、減量による筋タンパク質の異化が緩和されたことを意味しており、尿素窒素が対照群より低値であったこともこれを支持し、代謝ストレスが軽減されたと考えられる。
テストステロンの低下抑制:
テストステロンレベルが安定していて、コルチゾールレベルがわずかな上昇にとどまっていたことは、同化と異化のバランスの維持に寄与したと考えられ、またこのバランスの維持は疲労の軽減や回復の促進につながった可能性がある。
パーソナライズされた栄養介入で急速な減量の負の側面を抑制可能
一方、本研究はサンプル数が限られた小規模な研究であること、研究期間が短期間であることが、研究の限界として記されている。そのうえで著者らは、「個人に合わせた栄養戦略は、競技前の減量期間中の女性重量挙げ選手の競技パフォーマンスを向上させるための重要な戦略と言える」と結論している。
なお、論文中には、本研究において競技会での成績に介入効果が反映されていたのか否かは記されていない。ただしこの点は、「サンプルサイズの不十分さ」という研究の限界に含まれているのかもしれない。
文献情報
原題のタイトルは、「Enhancing performance through biochemical monitoring and nutritional support in female weightlifters during pre-competition weight reduction: a randomized trial」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2024 Dec;21(1):2435542〕
原文はこちら(Informa UK)