ラグビー選手では、サプリを摂取していないほうが健康関連QOLが高い
ラグビー選手を対象に、サプリメントの摂取状況と健康関連の生活の質(HRQOL)との関連を調査した結果が、イタリアから報告された。サプリを利用していない選手のほうが、HRQOLが有意に高いという。著者らは、「この結果は、アスリートのサプリ利用に対する総合的な影響を考慮する必要性を強調している」と述べている。
ラグビー選手のメンタルヘルスに及ぼすサプリ摂取の影響を調査
ラグビーは1990年代にプロ化が始まり、一段と競争が激しくなった。一般的にラグビー選手は体が大きいほど有利とされやすく、そのためにサプリメントが利用されることもある。これまでに行われたラグビー選手対象のサプリ利用調査の中には、例えば欧州のスーパーリーグ選手の間ではプロテインサプリの利用頻度が最も高く、次いでクレアチン、炭水化物サプリであり、他の領域で好まれることの多いカフェインはそれほど多くないことを報告したものがある。
また近年の傾向として、ラグビー選手では体重の増加を通してパフォーマンスを向上させようとすることに焦点を当てた報告が多くみられる。その一方で、サプリ摂取とメンタルヘルスとの関連が注目されることは少ない。今回紹介する論文の研究は、このような状況を背景として行われた。
サプリを利用しているラグビー選手はHRQOLが有意に低い
この研究は、オンラインアンケートとして実施され、回答者は一般住民およびクラブを通じて、ソーシャルメディアなどを介して募集された。対象は18歳以上の成人とした。174人が回答し、そのうち92人がラグビー選手だった
主な調査項目は、24項目からなる身体活動に関する質問票と、36項目からなる健康関連の生活の質(health-related quality of life;HRQOL)を評価する質問票(36-item Short Form Health Survey;SF-36)。前者は、身体活動レベル、スポーツの頻度や時間、利用しているサプリの種類・利用の動機などを問うもので、後者はHRQOLを定量的に評価するもの。
解析対象となった92人のラグビー選手は大半(83人)が男性で、2人を除きほぼ全員がイタリア国籍だった。平均年齢は33.01±13.52歳、BMI28.08±4.17、アスリートとしての活動歴は18.74±10.17年であり、そのうちラグビー歴は14.28±8.65年だった。
サプリ利用率は57.6%
全体の57.6%が1種類以上のサプリを利用していて、残りの42.4%は利用していなかった。サプリ利用者は平均1.73±1.89種類のサプリを摂取していて、最大7種類だった。
サプリ利用の動機は、パフォーマンスの向上が34.8%、体格の見た目(body appearance)の改善が3.2%で、それら両者との回答が19.6%だった。利用しているサプリの種類は、ホエイプロテインが40.2%、マルチビタミン/ミネラルが34.8%、クレアチン27.2%、カフェイン16.3%、エナジードリンク16.3%などが多くを占めていた。
サプリ利用の有無でHRQOLの総合スコア、サブスコアを比較すると
サプリ利用の有無で健康関連の生活の質(HRQOL)の指標であるSF-36スコアを比べると、総合スコアは、利用していない群が76.77±10.60であり、利用している群の68.83±10.22より有意に高く(p<0.001)、効果量(cohenのd)も0.76と大きかった。また、HRQOLの8項目のサブスコアのうち4項目では、以下に示すように、サプリ非利用群のほうが高いという有意差が認められた(いずれもp<0.05)。精神的健康のスコアはサプリ非利用群、利用群の順に70.77±13.14 vs 63.40±14.71(d=0.53)、社会的機能のスコアは同順に73.26±23.26 vs 60.66±25.28(d=0.52)、日常精神的役割は82.79±30.58 vs 63.36±40.47(d=0.54)。
8項目の平均での比較では、わずかに有意水準未満だったが(p=0.052)、やはりサプリを利用していない群のスコアのほうが高かった(d=0.42)。
サプリ利用の有無、および利用の動機別にみたHRQOL
次に、年齢の影響を調整したうえで、SF-36の総合スコア、日常精神的役割のスコアを、サプリ非利用群、体格の見た目の改善のためのサプリ利用群、パフォーマンスの向上のためのサプリ利用群、それら両者の目的でのサプリ利用群という4群で比較した。
すると、SF-36総合スコアは、サプリ非利用群が76.77±10.60、体格の見た目の改善のためのサプリ利用群が65.92±12.50、パフォーマンスの向上のためのサプリ利用群が70.01±10.42、それら両者の目的でのサプリ利用群が67.22±9.82であり、非利用群が最も高くて群間に有意差が認められた。日常精神的役割のスコアについても同順に、82.79±30.57、44.33±50.95、71.75±38.95、51.61±39.93であり、同様の傾向であって有意差が認められた。
プレッシャーの大きいラグビー選手ほど、サプリを利用する?
以上一連の結果に基づき、論文の結論は以下のように述べられている。
この研究では、ラグビー選手のサプリ摂取と健康関連QOLとの複雑な関係を明らかにし、メリットとリスクの双方を強調する結果が得られた。サプリはパフォーマンスの向上、回復の促進、健康の維持のために使用されているが、摂取によって予期しない身体的および心理的影響が生じることもある。本研究全体を通じて、サプリ摂取に際してはバランスのとれた情報に基づいた戦略を採用する必要性が示されたと言える。サプリ利用の根底にあるメカニズムとアスリートの健康への影響をよりよく理解するため、さらなる研究が求められる。
なお、サプリ非利用群のほうがHRQOLが高いことの理由としては、より大きなプレッシャーを感じていてHRQOLが低い選手ほど、プレッシャーの解決策をサプリに求めようとするのではないかとの考察が述べられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Health-Related Quality of Life in Rugby Athletes: The Role of Dietary Supplements and Their Consumption」。〔Sports (Basel). 2024 Oct 8;12(10):270〕
原文はこちら(MDPI)