持久系競技の選手とラグビー選手のエネルギー出納はどのくらい違うのか?
持久系アスリートとラグビー選手のエネルギー出納を比較した場合、前者のほうが摂取量はより少ないであろうと想像できるが、実際にどの程度の差があるのかを同じ方法で計測し、利用可能エネルギー(EA)を比較した研究結果が報告された。予想どおり持久系アスリートのほうがEAが低く、至適レベルにある選手は認められなかったという。
持久系アスリートとラグビー選手のLEAリスクを比較
トレーニングで大量のエネルギーを消費することになるアスリートは、エネルギー出納が負に傾きやすい。最近の研究の中には、さまざまな競技のアスリートの約25%が利用可能エネルギー(energy availability;EA)が低い状態にあるという報告もある。利用可能エネルギー不足(low energy availability;LEA)がスポーツによって生じている状態である「REDs(relative energy deficiency in sport;REDs)」は、パフォーマンスの低下や怪我の好発、選手寿命の短縮、種々の健康リスクと関連すると考えられ、近年注意が喚起されている。
サイクリストや長距離ランナーでその割合が高いこともしばしば指摘されてきている。加えてそれらの競技では、BMIが低いことがパフォーマンス上有利と考えられる傾向がある。また、最適なエネルギー摂取量に関するアスリートやサポートスタッフの理解が不足していて、そのことがそのような考え方の拡散につながっているとの指摘もある。
このような側面は、ラグビーのような有酸素運動と無酸素運動が複合したチームスポーツでは、相対的に少ないと考えられる。ただし、これら2タイプの競技アスリートのエネルギー出納がどれほど異なるのかという指摘で検討した研究は限られている。これを背景として、今回取り上げる論文の著者らは、エネルギー需要がともに高いながら特徴が異なる競技を行っているアスリートのEAレベルと体組成を評価するという研究を行った。
持久系アスリートとラグビー選手とで、条件を揃えてEAや体組成を評価
この研究は、以下の二つの集団を対象に実施された。
一つ目の集団は、長距離走、自転車、水泳などに参加している持久系アスリートで、男性15人、女性3人、平均年齢は47.61±11.37歳、BMI23.92±1.67。二つ目の集団は男子ラグビー選手36人を含む団体競技アスリートでBMIは26.15±1.62kg。
持久系アスリートは、週3~4日以上、1回約3時間のトレーニングを行い、水泳選手については毎日少なくとも2時間のトレーニングを行っていた。ラグビー選手は週3回、1回3時間のトレーニングを行い、週末には試合を行っていた。
利用可能エネルギー不足(LEA)等の評価方法
利用可能エネルギー不足(LEA)リスクの評価には、女性アスリートに対しては「女性のLEAに関する質問票(Low Energy Availability in Females Questionnaire;LEAF-Q)」、男性アスリートに対してはLEAM-Qが使用された。
実際エネルギー摂取量(energy intake;EI)はインタビューによる24時間想起法で把握し、運動によるエネルギー消費量(exercise energy expenditure;EEE)は、「国際標準化身体活動質問票(International Physical Activity Questionnaire;IPAQ)で把握した
このほか、体組成は温度と湿度を一定に保った研究室内で、生体インピーダンス法により測定した。測定の12時間前からアルコール摂取と激しい運動、サウナ利用を禁止し、2時間前からは水分の摂取を禁止した。
EAの判定について
現在、一般的に、除脂肪体重(fat-free mass;FFM)あたりの利用可能エネルギー(EA)が30kcal/FFM未満の場合に、利用可能エネルギー不足(LEA)と判定される。本研究でも、性別にかかわらず30kcal/FFM未満の場合は臨床レベルのLEAとし、男性では30~40kcal/FFM、女性では30~45kcal/FFMではLEAの潜在的なリスクのある状態と定義。至適状態は、男性は40kcal/FFM以上、女性は45kcal/FFM以上の場合と定義した。
では、次項から結果をみていこう。
持久系ではほぼ全員がLEA、ラグビー選手も多くは潜在的リスクのあるレベル
除脂肪体重(FFM)は、持久系アスリートが57.81±7.62kg、ラグビー選手が67.61±5.01kgだった。エネルギー摂取量(EI)は同順に1,796.26±405.46kcal、3,237.28±158.80kcal、運動によるエネルギー消費量(EEE)は1,144.41±311.32kcal、839.51±463.78kcalであり、利用可能エネルギー(EA)は11.72±9.05kcal/FFM、35.44±6.63kcal/FFMであって、持久系アスリートの平均値はLEAの臨床レベルにあり、ラグビー選手では潜在的リスクレベルだった。
より細かくみると、持久系アスリートのうち17人が臨床的LEAレベルにあり、1人のみが潜在的リスクレベルにとどまっていた。つまり、至適レベルにあった選手はいなかった。ラグビー選手では、7人が臨床的LEAレベルにあり、22人が潜在的リスクレベルであって、7人は至適状態にあった。
他方、体組成に関する指標は、おおむね健康と判定される範囲内にとどまっていた。論文の結論は、「持久系アスリートはラグビー選手に比べてEAが低いが、体組成は健康なレベルに維持されていた。ただし、EAが指摘範囲にない場合にLEAがパフォーマンスや怪我のリスク、および潜在的な健康障害に及ぼす長期的な影響について、今後のさらなる研究が必要である」とまとめられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Energy Availability and Body Composition in Professional Athletes: Two Sides of the Same Coin」。〔Nutrients. 2024 Oct 16;16(20):3507〕
原文はこちら(MDPI)