ボート競技選手の摂食障害の有病率は一般人口と同等だがハイリスク状態 ハンガリーでの調査
ボート競技選手の摂食障害の有病率を調査した結果が、ハンガリーから報告された。全体としての有病率が一般人口に比べて高いわけではなかったものの、ハイリスク状態にある選手も認められたという。
これまで報告が少ない、ボート競技アスリートの摂食障害の有病率を調査
アスリートは摂食障害の有病率が高いことが知られている。とくに持久系競技や審美系競技でその高さを強調する報告が少なくない。しかし、ボート競技選手の摂食障害についてはこれまでスポットが当てられることが少なく、国際的にもほとんどデータがない。これを背景として本研究では、ハンガリーのボート選手の摂食障害の有病率を横断的に検討した。
この調査は2023年に同国のボート選手権大会に出場した222人を対象に実施された。対象者の主な特徴は、年齢が23.29±12.23(範囲13~67)歳、男性53.15%、身長176.87±9.39cm、体重70.25±13.82kgで、BMIは22.31(範囲15.53~32.93)だった。
222人のうち57人(25.67%)が軽量級で、165人(74.33%)は無差別級だった。軽量級は男性と女性選手がほぼ半数ずつ(男性50.88%)であり、無差別級は男性選手がやや多かった(54.55%)。
競技レベルについては、「過去に参加した大会で最も誇ることのできる大会」を回答してもらったところ、3%がオリンピック、5%が世界選手権または欧州選手権、13%が世界または欧州のユース選手権、8%がU23の世界または欧州選手権、50%が国内選手権を挙げ、そのほかに21%がジュニアナショナルチームのメンバーと回答した。
EDIおよびDSM-Vで摂食障害を評価
摂食障害の評価には、摂食障害評価尺度(Eating Disorder Inventory;EDI)を用いた。EDIは1983年に開発された質問票で、64項目についてリッカートスコアで評価する。以下の八つのサブスケールがある。やせ願望(drive for thinness)、過食(bulimia)、身体不満(body dissatisfaction)、無力感(ineffectiveness)、完璧主義(perfectionism)、対人不信(interpersonal distrust)、内受容感覚の意識低下(interoceptive awareness)、成熟恐怖(maturity fears)。
このほかに、米国精神医学会の「精神疾患の分類と診断の手引(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders;DSM-V)」に基づき、神経性やせ症/神経性無食欲症(anorexia nervosa;AN)、神経性過食症(bulimia nervosa;BN)を評価した。
DSM-Vで摂食障害の疑いありと判定される選手はいないが、ハイリスク選手が存在する
EDIの評価では数人の選手に摂食障害のリスクを認める
前記の摂食障害評価尺度(EDI)のサブスケールのうち、最初の3項目のいずれかがカットオフ値を超えた場合に摂食障害のリスクありと定義。やせ願望のカットオフ値(14点)を超えたのは3人(軽量級1人、無差別級2人)、過食のカットオフ値(12点)を超えたのは4人(すべて無差別級の選手)、身体不満のカットオフ値(21点)を超えたのは4人(軽量級1人、無差別級3人)だった。
サブスケールごとにスコアを軽量級と無差別級で比較した場合、完璧主義(軽量級3.91±4.18、無差別級3.08±4.16)と内受容感覚の意識低下(同順に3.62±5.08、2.76±5.04)に有意差が認められ、ともに軽量級のスコアが高かった。そのほかの6項目は有意差がなかった。
DSM-Vに基づき摂食障害と判定される選手は認めず
米国精神医学会のDSM-Vに基づき、神経性やせ症/神経性無食欲症(AN)や神経性過食症(BN)と判定された選手はいなかった。詳細は以下のとおり。
神経性やせ症/神経性無食欲症(AN)
DSM-Vでは、BMIが17.5未満、かつEDIのやせ願望、過食、身体不満が独自のカットオフ値以上のすべてを満たした場合に、神経性やせ症/神経性無食欲症(AN)の疑いありと判定する。本研究の対象のうち、BMI17.5未満は6人(すべて軽量級)であり、EDIの各サブスケールのカットオフ値以上の選手も複数存在していたが、すべてが該当する選手はいなかった。つまり、DSM-Vに基づきANの疑いありと判定される選手はいなかった。
神経性過食症(BN)
DSM-Vでは、EDIのやせ願望、過食、身体不満がすべて、独自のカットオフ値以上の場合に、神経性過食症(BN)の疑いありと判定する。本研究の対象のうち、各サブスケールのカットオフ値以上の選手は複数存在していたが、すべてが該当する選手はいなかった。つまり、DSM-Vに基づきBNの疑いありと判定される選手はいなかった。
以上の結果に基づき論文の結論は以下のようにまとめられている。「本研究からは、ボート競技選手の摂食障害有病率が高いというエビデンスはみられなかった。ただし、アスリートの摂食障害の予防および乱れた食行動は常に重要な臨床課題であり、定期的な栄養カウンセリングを含む継続的で適切な教育が、選手の健康に必要とされる」。なお、本研究結果の解釈上の留意点として著者らは、「臨床面接を行っていない限り、質問票や操作的診断だけで摂食障害の有無やカテゴリーづけはできない」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Prevalence of Eating Disorders among Competitive Rowers」。〔Sports (Basel). 2024 Sep 24;12(10):264〕
原文はこちら(MDPI)