「健康的な食事とは何か?」国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)が共同声明を発表
国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)は10月24日、「健康的な食事とは何か?(What are healthy diets?)」というタイトルの共同声明を発表した。「適切(Adequate)」、「バランスがとれている(Balanced)」、「適度(Moderate)」、「多様(Diverse)」という四つの視点で、健康的な食事を定義している。内容を抜粋して紹介する。
健康的な食事の原則(Principles of healthy diets)
健康的な食事は、健康、成長、発達を促進し、活動的なライフスタイルをサポートして、栄養素の欠乏や過剰、感染性疾患および非感染性疾患(noncommunicable diseases;NCD)、食中毒を防ぎ、健康を増進する。栄養失調の予防、疾病予防、健康増進等における食事の重要な役割は、ますます明確にされてきている。それとともに、健康的な食事とは何か、そして環境を保護しながら健康的な食事を実現する方法について、さまざまな定義や見解が提示されるようになった。しかし、そのコンセンサスが欠如しているままでは、今後の取り組みの進歩が損なわれる可能性がある。
これらを背景として、国連食糧農業機関(Food and Agriculture Organization;FAO)と世界保健機関(World Health Organization;WHO)は、健康的な食事を構成するものの原則を策定した。健康的な食事は、人間の生物学に基づき、エビデンスに裏付けられた普遍的な適用が可能な、以下に掲げる四つの基本原則を満たす必要がある。
適切(Adequate)
適切な食事とは、年齢、性別、体の大きさと体組成、身体活動レベル、生理学的状態(妊娠など)、および病状に応じた栄養所要量を満たし、かつ超過しない食事である。
体は大半の必須栄養素を合成できないため、食事から摂取する必要があり、必須栄養素には、必須アミノ酸、必須脂肪酸、およびほとんどのビタミンとミネラルが含まれる。必須栄養素は、胎児や幼児の成長と脳の発達から臓器や筋肉の機能まで、すべての身体機能に関係している。
必須栄養素の摂取が不十分だと、欠乏症を引き起こす可能性がある。ただし、その多くは今では世界のほとんどの地域ではまれになった。とは言え、成長障害、脳の発達障害、免疫機能障害などは、現在も生じている。FAOとWHOは、エネルギー、タンパク質とアミノ酸、脂質と脂肪酸、ビタミンとミネラルの食事所要量を定義しており、また多くの国が自国民に対する値を設定している。これらの要件には、欠乏のリスクを防ぐ可能性のある摂取量と、過剰のリスクを制限するレベルが含まれる。
バランスがとれている(Balanced)
健康的な食事では、エネルギー摂取量は年齢、性別、身体活動レベル、妊娠および授乳中などによって変化するエネルギー必要量とのバランスがとれている必要がある。また主要なエネルギー源、つまりタンパク質、脂質、炭水化物のバランスもとれている必要がある。
その推奨摂取量は、タンパク質は10~15%エネルギーであり、脂質に関しては、成人は15~30%エネルギー(未成年は15~35%エネルギー)であって、脂肪酸は10%エネルギー未満、トランス脂肪酸は1%エネルギー未満、多価不飽和脂肪酸は6~10%エネルギーであり、炭水化物は45~75%エネルギーであって、遊離糖は10%エネルギー未満である。
なお、アルコールはエネルギー源ではあるものの、健康的な食事の一部とはみなされない。
適度(Moderate)
一部の栄養素は必須ではあるが摂取量が多いと健康に悪影響を及ぼす可能性がある。その他の必須ではない栄養素は、摂取量が多いと健康に悪影響を及ぼすため、適度に摂取するか、食事から除外する必要がある。
ナトリウムは必須ミネラルだが摂取量が多いと血圧が上昇し、心血管疾患につながる可能性がある。ナトリウムの摂取量は、成人では1日2グラム(食塩、つまり塩化ナトリウムでは5グラムに相当)に制限する。遊離糖は必須栄養素ではなく、摂取量は1日のエネルギー摂取量の10%未満に制限する必要があり、5%未満であれば健康上のメリットがある。遊離糖の摂取量を減らすには、非糖甘味料を使用せずに達成する必要がある。その理由は、非糖甘味料は長期的な体重管理や食事関連NCDのリスク軽減に役立たないというエビデンスがあるため。
適度(Moderate)とは、大量に摂取すると健康に悪影響を与える可能性のある食品を避ける、または摂取を控えることも意味する。この点で考慮すべき重要な点は、赤身肉と加工肉、および高度に加工された超加工食品である。
多様(Diverse)
さまざまな食品に基づく多様な食事は、ビタミンおよびミネラルの必要量を満たす可能性が高くなる。唯一の例外は、乳児が母乳のみを摂取すべき生後6カ月の間である。
複数の前向き研究で、食品群の多様性が高い人、食生活パターンの多様性が高い人は、死亡率と食生活関連NCD罹患率が低いことが報告されている。年齢、食環境、季節、食事制限(ベジタリアンなど)、文化的嗜好が異なる場合でも、十分に多様な食事をすることは不可能でない。
結論:健康的な食習慣を大切に(celebrating healthy dietary patterns)
健康的な食生活の原則は普遍的なものだが、食生活のパターン(長期にわたって摂取する食品と飲料の組み合わせ)は、状況に大きく左右される。食生活のパターンは、個人の好みや信念、文化、伝統、宗教、収入、食品の入手可能性と手頃な価格など、さまざまな社会的、経済的、環境的要因によって決まる。
多くの食生活のパターンは、上記の四つの基本原則を満たし、安全な食品で構成されていれば、健康的であると言えるだろう。状況に応じて推奨される健康的な食生活のパターンは、地域ごとの考慮すべき事項とエビデンスに基づき、各国の食生活ガイドラインで明確にされている。
食生活のパターンは、環境にも重要な影響を及ぼす。したがって、人々が健康的な食生活パターンへ移行するということは、食料生産システムの重要な柱となり得、もって現状において存在している健康的な食事へのアクセスの不平等の克服に貢献できる。