高用量β-アラニンで世界トップレベルの自転車ロードレース選手の上り坂パフォーマンスが向上
1回5gを1日に4回、計20gという高用量のβ-アラニンを摂取すると、ワールドツアー参加クラスのサイクリストのパフォーマンスが向上することを示すデータが報告された。著者らは、高用量を複数回に分けて摂取することが副作用を抑制し、ハイレベルのアスリートでも有用性を期待できる可能性を述べている。
ハイレベルのアスリートでもβ-アラニンの副作用を避けつつ効果を期待できるか?
β-アラニンはカルノシンの前駆体として筋肉中に存在し、細胞内の緩衝能を高め、短時間の高強度無酸素運動のパフォーマンスを向上させる。自転車競技は有酸素性能力が重要な持久系競技に分類されるが、上り坂やレース終盤での順位争いでは無酸素性パフォーマンスも重要となることから、β-アラニンの作用がプラスに働く場面が存在する。
一方、β-アラニンはスポーツパフォーマンス上の有用性に関するエビデンスが豊富なサプリメントの一つではあるものの、サイクリスト対象に行われたこれまでの研究の多くは、実験室環境で実施されたものであって競技環境とは異なり、また研究参加者が非エリートレベルであるものが多い。一般にサプリメントの有用性は競技レベルが高くなるほど小さくなることが知られており、β-アラニンについてもワールドツアーに参加するレベルの選手で有用性を示したデータはほとんどない。
エリートレベルの選手でサプリメントの有用性を得るには、非エリート選手よりも高用量が必要な可能性がある。とはいえ用量を増やすことは有害事象のリスク増大と表裏一体であり、ことβ-アラニンに関しては、チクチクとした刺激感などの感覚異常が用量依存的に生じやすくなることが知られている。
この課題に対して、今回紹介する論文の著者らは以前に、高用量であっても1日複数回に分けて摂取することで、感覚異常のリスクを回避しながらパフォーマンス上のメリットを得られる可能性を既に報告している。
関連ページ→
世界トップの自転車競技アスリート、高用量・短期間のβ-アラニン摂取でパフォーマンスが改善
https://sndj-web.jp/news/001504.php
以上を背景として著者らは今回、とくに上り坂でのパフォーマンスに焦点を当て、ワールドツアーサイクリストの7日間のトレーニングキャンプ中に、無作為化二重盲検比較試験(RCT)を実施した。
ワールドツアーサイクリスト対象の7日間にわたるRCT
研究の対象は、国際自転車競技連合(UCI)のロードレースの上位5チームに所属するワールドツアーサイクリスト12名。ただし1名(β-アラニン群)は競技スケジュールの関係で脱落したため、最終解析は11名で行われた。研究参加の条件として、UCIワールドチームに所属している男性の現役サイクリストであり、除外基準は、慢性疾患の罹患、過去1カ月間以内の怪我、過去2カ月以内のβ-アラニンの摂取、過去15日以内のパフォーマンス向上サプリメントの摂取とされていた。
研究期間はシーズン最初のキャンプ(1月)中の連続7日間とされた。無作為に2群に分け、最初のテストセッション後にβ-アラニンまたはプラセボの摂取を開始。摂取は7日間続き、1日4回(朝食、昼食、軽食、夕食時)とした。
β-アラニン群はβ-アラニン5g、L-ヒスチジン37.5mg、カルノシン12.5mgを1回量とし、β-アラニンの1日量は20gであり、研究期間での総摂取回数は31回で総摂取量は155gだった。プラセボはデュラム小麦の製粉で、126Kcal、タンパク質3.8g、炭水化物23.1gだった。
参加者のベースライン特性は、年齢(両群ともに中央値25歳)、身長、体重に有意差はなかった。
スペイン・アリカンテで上り坂タイムトライアル
上り坂のタイムトライアルは、自転車ロードレースの開催地として有名なスペインのアリカンテで実施された。距離4.5km、傾斜5%の上り坂を、バイオメカニクス研究に基づいて各アスリートに合わせて調整された自転車で走行。走行タイムのほかに、平均パワー(絶対値と体重換算した相対値)と心拍数を計測。また、テスト前、直後、終了3分後に、指先採血により血中乳酸値を測定したほか、自覚的運動強度(RPE)を把握した。
なお、7日間のトレーニングメニューは全員同一とした。
タイムトライアルの成績とパワーに有意差
タイムトライアルはβ-アラニン群でのみ有意に向上
タイムトライアルの成績は、β-アラニン群はベースラインが606.6秒、介入後が588.0秒であり、有意に向上していた(p=0.043)。プラセボ群は同順に620.0秒、637.0秒であり、有意な変化は認められなかった(p=0.249)。
テスト中に観察されたパワーについては、絶対値ではβ-アラニン群がベースラインで456.3W、介入後が469.9W(p=0.080)、プラセボ群は438.19W、447.8W(p=0.600)であり、ともに有意な変化がなかった。ただし、体重換算した相対値では、プラセボ群は5.77W/kgから5.65W/kgへの変化で絶対値と同様に有意な変化がなかったのに対して(p=0.249)、β-アラニン群は6.05W/kgから6.1W/kgへと有意に上昇していた(p=0.043)。
心拍数や乳酸値、主観的運動強度には有意差がなかった。
以上に基づき論文の結論は、「ワールドツアーサイクリストの1週間のトレーニングキャンプ中に、高用量β-アラニンを摂取した場合の上り坂タイムトライアルパフォーマンスに対する有効性が実証された」とまとめられている。また、「高用量β-アラニンのわずか1週間の摂取で、筋肉内のカルノシンレベルの上昇を得られる可能性があり、とくに重い負荷をかけて厳しいトレーニングを行ったり、自分自身を限界まで追い込むときに価値があるかもしれない」と述べられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Effect of high-dose β-Alanine supplementation on uphill cycling performance in World Tour cyclists: A randomised controlled trial」。〔PLoS One. 2024 Sep 3;19(9):e0309404〕
原文はこちら(PLOS)