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スポーツ栄養における性別とジェンダー 現状と今後の方向性

今回は、アイルランドの研究者による「スポーツ栄養研究における性別とジェンダー:ギャップを埋める(Sex and gender in sports nutrition research: bridging the gap)」という総説論文の要旨を紹介する。

スポーツ栄養における性別とジェンダー 現状と今後の方向性

初めて女性が参加したパリ五輪、選手数が男女同数になったパリ五輪

女性が初めてオリンピックに参加したのは、1900年のパリ五輪だった。合計997人の選手のうち、22人の女性が、テニス、セーリング、馬術、ゴルフなどに出場した。その後、女性が参加する競技が徐々に増え、2012年のロンドン大会で女子ボクシングが加わり、すべての競技に女性が参加するようになった。今年のパリ五輪では、男性選手と女性選手がほぼ同数となっている。

ただしこの間、栄養管理を含めてスポーツ研究におけるデフォルトは、男性アスリートとされている期間が長かった。そのため、女性アスリート特有の生理的および栄養的ニーズは、いまだ十分に理解されていない。女性の体は男性の体とはさまざまな点で異なり、女性アスリートには女性に特化した栄養学的アプローチが必要とされる。

スポーツ栄養の学術的な発展は1930年代に、持久力運動を行うアスリートの炭水化物と脂質の代謝に関心が高まったことに始まる。その後、競技アスリートや兵士、あるいるは宇宙飛行士の栄養ニーズの研究などにも幅を広げながら進歩してきた。1980年代に入ると、現在のスポーツ栄養ガイドラインに結びつくようなエビデンスが蓄積されるようになってきた。それとともに、スポーツ栄養研究における性別とジェンダーの多様性に関する視点の欠如が明確になった。多くの研究において、性別とジェンダーのいずれかまたは両方を考慮していないことが指摘されることが少なくない。さらに、「性別」と「ジェンダー」という用語の混同もみられる。

論文ではこのようなイントロダクションに続いて、エネルギーと主要栄養素、水と電解質、微量栄養素、エルゴジェニックエイドについて、女性アスリートの要件が男性アスリートのそれとどのように異なるのか、および、現在までの研究が不足している点などを整理して、今後の研究の方向性に言及。さらに、ジェンダーアイデンティティーと栄養の関係について考察を加えた後に、要旨を箇条書きで総括している。それら最後の2章の要点を簡単にまとめる。

ジェンダーアイデンティティーと栄養

性別は男性と女性の生物学的属性を指すのに対し、ジェンダーは女性的であることや男性的であることなどを意味する。社会が作り上げた「男らしさ」や「女らしさ」の概念やその概念に基づく期待が、スポーツにおける性別の役割に影響を与える可能性がある。例えば、女性アスリートは伝統的に女性的なスポーツに参加することが期待されてきたと言えるだろうし、男性アスリートはより攻撃的または競争的なスポーツに参加することが期待されてきたと言えるだろう。

スポーツ栄養士という存在が、アスリートの食習慣に与える影響に関する研究は限られている。男性アスリートは女性アスリートに比べて、ファストフードを含む外食の頻度が高く、競技シーズン中のアルコール摂取量も女性アスリートよりも多いことが報告されている。女性アスリートは男性アスリートに比べて、食事を用意することや、朝食を欠かさない傾向が強い。しかし一方で、女性アスリートは男性アスリートに比べて、摂取エネルギー量と微量栄養素の摂取量が少ない。

性自認が栄養代謝、水分補給状態、運動能力に与える影響とその関連性の研究があり、出生時に割り当てられた性別と一致する性自認を持つ男性アスリートと女性アスリートの間で、栄養代謝、水分補給状態、運動能力に違いがあるかどうかが調査された。その研究では、男性アスリートと女性アスリートの間に有意な違いは見られず、性自認はこれらの生理学的結果に大きな影響を与えない可能性があると述べられている。

一方、トランスジェンダーのアスリートにとって、栄養に関する課題は臨床的かつ心理社会的なものである可能性がある。体組成、体重、骨や脂質プロファイルの変化、摂食障害のリスクなどは考慮されるべき要素であろう。

現状と今後の方向性

1. 多様性の欠如

スポーツ栄養に関する研究の多くは、主に男性アスリートに焦点を当てており、研究対象に女性はあまり含まれていない。この状況は改善してきているが、その進歩は遅い。

2. サンプルサイズが小さい

スポーツ栄養研究に女性が含まれる場合でも、そのサンプルサイズが小さいことが多く、研究結果の一般化が制限されることが多い。

3. 月経周期への配慮が限定的

月経周期がスポーツパフォーマンスと栄養に与える影響についての研究は複数あるが、ホルモンの変動が栄養要件やパフォーマンスにどのように影響するかを完全に理解するには、さらに研究が必要。このような研究はアスリートに負担をかける可能性があり、とくにエリートレベルのアスリートでの研究には時間を要する可能性がある。閉経前後の栄養要件についてもさらに研究が必要。

4. 標準化されたプロトコルの欠如

スポーツ栄養に関する研究では、栄養所要量や運動に対する反応を測定するために異なるプロトコルが使用されることが多く、研究間で結果を比較することが困難なことがある。体系的な方法でデータ収集し比較を容易にする標準化されたツールが必要の可能性がある。

5. 長期研究の欠如

スポーツ栄養に関する研究の多くは短期的なものであり、栄養摂取と運動が長期的な健康とパフォーマンスにどのように影響するかについての理解が不足している。具体的には、骨粗鬆症や心血管疾患などの慢性疾患の予防におけるスポーツ栄養の役割を理解するための研究が必要。

6. ノンバイナリーの個人への視点が限られている

ノンバイナリーのアスリートは独自の栄養要件と運動に対する反応を持つ可能性があるが、スポーツ栄養関連の研究は不足している。性自認の影響を理解するための研究が必要とされる。

7. メンタルヘルスとスポーツ栄養

男性と女性のアスリートのメンタルヘルスに対するスポーツ栄養の影響について、さらなる研究が必要。具体的には、アスリートの気分、不安、抑うつに対する栄養摂取の役割を理解するための研究が求められる。

文献情報

原題のタイトルは、「Sex and gender in sports nutrition research: bridging the gap」。〔Proc Nutr Soc. 2024 Jul 1:1-7〕
原文はこちら(Cambridge University Press)

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