厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」報告書を公表 食物繊維の目標量など主な変更点
厚生労働省は10月11日、「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書を取りまとめて公表した。新たに、骨粗鬆症とエネルギー・栄養素との関連についての解説が加えられたほかに、食品中の食物繊維含有量の測定法が近年変更されたことに触れ、その目標量がやや変更された。また、鉄の耐容上限量が削除された。
2005年から5年ごとに改定されてきた「食事摂取基準」
「日本人の食事摂取基準」は2005年に策定以降、5年ごとに改定が重ねられている。今回の改定では、令和6年度にスタートした「健康日本21(第三次)」で、「生活習慣の改善、主要な生活習慣病の発症予防・重症化予防の徹底を図るとともに、社会生活を営むために必要な機能の維持・向上等の観点も踏まえた取り組みを推進する」とされていることなど、健康・栄養政策の動向を踏まえた内容となった。
その一環として、「生活習慣病及び生活機能の維持・向上に係る疾患等とエネルギー・栄養素との関連」の節の中で、生活機能の維持・向上の観点から、生活習慣病に加えて新たに、骨粗鬆症とエネルギー・栄養素との関連が加えられた。
鉄の耐容上限量の削除
鉄に関しては、2020年版では耐容上限量(成人男性では50mg/日、成人女性では40mg/日)が設定されていた。しかし、一般的な食事等に由来する鉄が過剰に臓器に蓄積する事例には、鉄吸収制御に関わる遺伝子等の異常が関係していて、遺伝子の異常がない場合には食事からの鉄の摂取が多くても、ヘプシジンによる調節によって吸収量が正常な範囲に維持されるため、過剰障害のリスクは無視できるとの報告があることなどから、耐容上限量の設定が見合わせられた。
なお、月経のある日本人女性における鉄欠乏の最大の要因は、月経に伴う鉄損失であって、鉄摂取量とは関連がないという報告があり、推奨量を超えて鉄を摂取しても必ずしも貧血の予防にはつながらない可能性がある。また、健常者であっても、長期にわたる鉄サプリメントの利用や食事からの過剰な鉄摂取が、臓器への鉄蓄積を介して、健康障害を起こす可能性を否定できないとされている。これらから、推奨量を大きく超える鉄の摂取は、貧血の治療等を目的とした場合を除き、控えるべきと記されている。
食物繊維の測定法の変更
食物繊維はその定義が定まっておらず、測定法の進歩により測定可能な物質が増加するに従って、食物繊維の枠に含まれる物質が増えている。「日本食品標準成分表(七訂)」では、食物繊維はプロスキー変法で測定されており、この方法で測定されるのは高分子量水溶性食物繊維と不溶性食物繊維であった。
一方、「日本食品標準成分表(八訂)」では、従来のプロスキー変法に変わり、AOAC.2011.25法により測定した値が採用された。AOAC.2011.25法では、プロスキー変法で測定される食物繊維に加え、低分子量水溶性食物繊維と難消化性でん粉も測定される。これにより、多くの食品の食物繊維の成分値が上昇した。ただし、測定法の変化による成分値の変化率は食品により異なり、一律に係数などを使用して換算することは困難。
「日本人の食事摂取基準」では食物繊維に関し目標量を定めているが、この根拠としたメタ解析に含まれる個々の研究のほとんどが、「日本食品標準成分表(七訂)」相当の食物繊維測定法で測定された値で検討されていると考えられる。よって、仮にAOAC.2011.25法を用いた調査研究に基づき目標量を算定すると、2025年版の目標値(下記)よりも相当に高い値となることが予想される。
よって、「日本食品標準成分表(八訂)」を用いて栄養計算を行い、食事提供や摂取量評価を行う際には、下記の目標量と同等あるいは少し超える値を提供(摂取)できていたとしても、生活習慣病予防の観点からは不十分である可能性がある。
なお、2025年版の食物繊維の目標量は、以下のようにやや変更されている。
男性
2020年版では18~64歳が21g/日以上、65歳以上は20g/日以上であったものが、2025年版では18~29歳は20g/日以上、30~64歳は22g/日以上、65~74歳は21g/日以上、75歳以上は20g/日以上。その他の年齢層は変更なし。
女性
2020年版では6~7歳が10g/日以上→2025年版では9g/日以上、以下同順に、12~14歳は17g/日以上から→16g/日以上に、65~74歳は17g/日以上から→18g/日以上に。その他の年齢層は変更なし。骨粗鬆症と栄養
「生活習慣病及び生活機能の維持・向上に係る疾患等とエネルギー・栄養素との関連」として、従来、高血圧、脂質異常症、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)が取り上げられていたが、2025年版ではこれに骨粗鬆症が加えられた。
骨粗鬆症の病態の解説に続いて、カルシウムについては、「十分なカルシウム摂取量は骨量の維持に必要であり、カルシウム摂取量が少ないことは低骨量のリスク因子になるといえるが、中高年においてカルシウム摂取量を増やしても、骨密度の低下や骨折を予防する効果は小さいと考えられる。また、主にサプリメントを用いた介入研究は多いが、特に1,000mg/日以上のカルシウムサプリメントを用いた場合に心筋梗塞のリスク上昇が報告されている」として、「1,000mg/日以上のカルシウムサプリメントの使用には慎重になるべきであろう」とされている。
ビタミンDについては、「血中25-ヒドロキシビタミンD濃度を20ng/mL以上に保つことは、骨粗鬆症の予防の観点から重要と考えられる。しかしながら、サプリメントによる介入研究の結果を含めても、ビタミンDの付加による骨粗鬆症リスクの低減効果については、今後の検証が必要。体内のビタミンDの維持のため、食事からの摂取を行うとともに、適切な日光曝露を図ることが望ましい」と記された。
タンパク質については、「タンパク質の摂取量の不足の回避は重要であるが、現時点では骨粗鬆症の予防の観点から、タンパク質摂取量の影響の程度について一定の結論を出すことは難しい」とされている。
これらのほかにビタミンC、ビタミンKなどについての考え方が記されている。
今後の「食事摂取基準」
報告書には「今後の食事摂取基準の在り方」という項目が設けられていて、「これまで我が国の食事摂取基準については、厚生労働省が行政政策として検討会を設置し、5年ごとの改定を行ってきたが、社会背景の変化や科学的知見の集積状況等によっては、適切な改定時機が異なる場合も想定される。加えて、今後も引き続き質の高い見直しを行うためには、最新の科学的知見や諸外国の動向等の情報を常時確実に収集・検証することが前提である。必要な時機を逸せずに見直し作業を行うための体制の検討及びその構築が急務であることが指摘された」ことが記されている。
関連情報(詳細はこちら)
日本人の食事摂取基準(厚生労働省)
「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書(厚生労働省)