ニュース・トピックス

アスリートの5人に1人は潜在的に鉄欠乏の状態で、全身持久力VO2peak低下に独立して関連

2024年09月30日

アスリート

アスリートの約20％が潜在的な鉄欠乏に該当し、とくに女性と若年者に多いという調査結果がドイツから報告された。また、潜在的鉄欠乏とVO2peak（最高酸素摂取量、全身持久力）低下との独立した関連が認められたという。

VO2peak（最高酸素摂取量、全身持久力）とは

全身持久力（最高酸素摂取量）について（厚生労働省『健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023』）

アスリートの鉄欠乏の有病率とパフォーマンスへの影響を調査

鉄欠乏症は3段階を経て進行する。第1段階は、血清フェリチンの低下で把握される、骨髄、肝臓、脾臓の細胞内の鉄貯蔵量のみが枯渇した状態。第2段階は、トランスフェリン飽和度の低下で把握される、細胞への鉄供給が減少した状態。第3段階は、ヘモグロビンの低下で把握される、貧血状態。前二者は通常、貧血症状を伴わない。

アスリートは、トレーニングに伴う鉄需要の増大、吸収の低下、発汗に伴う喪失、持久系の場合は足底への衝撃の繰り返しに伴う溶血などさまざまな要因により、鉄欠乏になりやすいことが知られている。潜在的な鉄欠乏にとどまらず、貧血を来している場合、アスリートのパフォーマンスが低下することはよく知られている。しかし、潜在的な鉄欠乏状態のスポーツパフォーマンスへの影響は明らかになっていない。

これを背景として今回紹介する論文の著者らは、ハイデルベルク大学（ドイツ最古の大学）付属病院のスポーツ医学科で、大会参加前のアスリートを対象に実施している医学的スクリーニングのデータを用いた検討を行った。

19.7％が鉄欠乏に該当し、鉄欠乏群は体脂肪率が高く、VO2peakが低い

2020年4月～2021年10月に受診したアスリートから、新型コロナウイルス感染症（COVID-19）罹患後のスポーツ再開のために受診した選手を除外。また、鉄欠乏は認められるものの貧血は来していないアスリートを対象とするという目的のため、ヘモグロビン値が11mg/dL未満の選手も除外して、1,190人（21.9±11.6歳、女性34.2％）を解析対象とした。

若年者や女性に鉄欠乏が多い

フェリチン値20μg/L以下を鉄欠乏と定義したところ、19.7％がこれに該当した。鉄欠乏とそうでない群を比較すると、前者は若年で（18.1±8.4 vs 22.8±12.1歳）、女性が多く（64.5 vs 26.8％）、BMIが低い（21.0 vs 23.0）という有意差が認められた（すべてp<0.001）。一方、体脂肪率は鉄欠乏群のほうが高かった（15.8 vs 10.8％、p<0.001）。

VO2peakは鉄欠乏群が43.4mL/kg/分、非鉄欠乏群が45.6mL/kg/分であり、後者のほうが高かった（p=0.022）。VO2peakが50mL/kg/分を超える選手の割合も、前者は8.5％、後者は16.1％で、後者のほうが高かった（p=0.003）。

なお、心機能（左室駆出率）や競技レベル（地方大会以上に参加している選手の割合）には有意差はなかった。

体脂肪率は鉄欠乏に独立して関連

鉄欠乏を目的変数とする多変量解析の結果、体脂肪率は鉄欠乏に独立した関連のあることが明らかになった（OR1.16〈95％CI;1.12～1.20〉）。

反対に、年齢（1歳高齢でOR0.97〈0.95～0.99〉）、男性（OR0.23〈0.17～0.32〉）、BMI（1高いごとにOR0.85〈0.81～0.90〉）は鉄欠乏と負の関連が認められた。

鉄欠乏はVO2peak低下と独立した関連因子

次に、年齢とBMIを調整のうえ、VO2peakが50mL/kg/分を超えることを目的変数とする多変量解析を施行。その結果、鉄欠乏ではOR0.42（0.25～0.69）となり、VO2peakが低値であることの独立した関連因子であることが示された。

なお、呼吸交換比（RER）を目的変数とした解析では、鉄欠乏は有意な関連が示されなかった。

本研究について著者は、単施設での遡及的デザインによる検討であること、COVID-19がフェリチン値に及ぼした影響を考慮できていないことなどを限界点として挙げたうえで、「アスリート（とくに女性と若いアスリート）には鉄欠乏が高率に認められる。鉄欠乏はVO2peakの低下およびVO2peakが50mL/分/kg超であることと、独立した負の関連が存在する」と総括している。