同じ運動をしたとしても、屋外より屋内のほうが運動強度が高く感じるのはなぜか
屋外での運動は屋内での運動よりも、自覚的運動強度(RPE)が低くなりやすいことを示すデータが報告された。VO2や心拍数が同等の場合、RPEは屋内のほうが高いという。著者らは、屋外では視覚や聴覚などのさまざまな外部刺激によって、運動負荷により発生する内部刺激がマスクされるのではないかとの考察を述べている。スウェーデンからの報告。
屋外では運動強度を弱く感じるというのは本当か?
この論文の研究背景には、これまでに報告されている3件の研究が紹介されている。それらによると、ランニングやサイクリングには環境効果が存在する可能性があるという。つまり、屋外では木々の緑をはじめとする自然環境などが、自覚される運動負荷を軽減するように作用すると考えられるとのことだ。そこで本論文の著者らは、実際にそのような現象が起こっているのか否かを、科学的に検証した。
自転車通勤をしている20人で、研究室内での運動負荷と通勤時のRPEを比較
この研究は、ふだん自転車で通勤している人を対象に、研究室内で自転車エルゴメーターを用いた負荷試験を行い、VO2や心拍数が同等となる条件での自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)を比較するという手法で行われた。
研究参加者の特徴
研究参加者は、ストックホルムに居住し、ふだん電動アシスト付きでない自転車のみで通勤していて(歩行など他の手段を用いずに)、高血圧に罹患しておらず、心拍数に影響を及ぼし得る薬剤を服用していない男性10人と女性10人。平均年齢は男性43.6±4.1歳、女性44.0±2.6歳、BMIは同順に24.7±3.0、22.6±2.5、安静時心拍数は58.3±9.2bpm、59.6±5.6bpm、1年間での通勤距離は3,532±1,742km、2,320±756km。
研究室内での検討方法
まず、研究室内の自転車エルゴメーターを用いて、3段階の最大下強度の負荷でVO2と心拍数を測定した。負荷は、男性は100W、150W、200Wとし、女性は50W、100W、150Wとした。ただし2回目の条件(男性150W、女性100W)で、心拍数が150bpm、RPEが15を超えた場合は、3回目の負荷は男性175W、女性125Wとした。
この際、ケイデンス(ペダル回転数)は50rpmに固定した。また試行の時間帯は、被験者のふだんの通勤時間帯と一致させた。
20人の被験者全員が2回目の試行(負荷強度が中レベルまで)を終了したが、3回目の試行(負荷強度が最も強いレベル)を終了したのは14人だった。
このほかに、ケイデンス80rpmで最大運動負荷テストを行い、最大心拍数とVO2maxを計測した。
通勤時の検討方法
研究室での検討から13±9日をおいて、実際の通勤時の検討を行った。20人中18人は朝のラッシュアワー、他の2人は夕方のラッシュアワーに試行。被験者は自分の自転車を用いてルートは任意とした。走行ルートはGPSによって把握され、モバイル代謝システムによるモニタリングが行われた。
走行距離は、男性が9.61±2.20km、女性は651±1.51km、速度は同順に20.1±2.7km/時、16.8±1.9km/時であり、走行ルートの環境は、都会と郊外の中間だった(都会を0、郊外を2とする評価で、男性は1.10±0.32、女性は0.90±0.57)。
被験者が目的地に到着次第、直ちに自覚的運動強度(RPE)が評価された。なお、本研究においてRPEは、研究室と通勤時ともに、呼吸の苦しさの主観的評価と、下肢運動のつらさの主観的評価を行っている。
分析の手法
分析ではまず研究室で得られた、3段階の最大下運動負荷での心拍数、VO2からRPEを予測する線形回帰式を求め、通勤時のRPEがその回帰直線の上にあるか下にあるかを検討した。
健康のための運動は屋外で!
研究室内での試行により、最大強度の運動を負荷した際の心拍数は、男性174±7bpm、女性175±10bpm、VO2maxは同順に3.99±0.55L/分、2.63±0.32L/分であり、自覚的運動強度(RPE)は呼吸が17.8±1.4、18.3±1.5、下肢が18.3±1.2、17.9±1.2だった。
一方、通勤時には心拍数が男性136±13bpm、女性137±7bpmであり、最大心拍数に対して78.5±8.3%、78.0±3.6%で、心拍予備能(%heart rate reserve;%HRR)は67.6±12.6%、66.7±4.1%であって、RPEは呼吸が12.8±1.0、12.4±2.0、下肢が11.5±1.1、11.5±2.5だった。
縦軸をRPE、横軸を%HRRまたは%VO2maxとして、研究室で把握されたRPEをプロットしたものに通勤時に把握されたデータを乗せると、通勤時のRPEは回帰直線の下に位置した。つまり、心拍数やVO2が同等の場合、通勤時のRPEは研究室内よりも低値になることが示された。
より具体的に、通勤時に観察された心拍予備能(%HRR)の全体平均である67.2±9.2%において、回帰式で計算されるRPEは呼吸が14.2±2.0であるのに対して実際は12.6±1.6で1.6±2.0低値であり(p=0.004)、下肢のRPEについては回帰式からは14.2±2.0と計算されるのに対して実際は11.5±1.9と2.7±2.4低値だった(p<0.001)。
同様に、通勤時に観察された%VO2maxの全体平均である65.2±10.4%において、回帰式で計算されるRPEは呼吸が14.0±2.0であるのに対して実際は12.6±1.6で1.4±2.2低値であり(p=0.018)、下肢のRPEについては回帰式からは14.0±2.1と計算されるのに対して実際は11.5±1.9と2.5±2.6低値だった(p=0.001)。
全体的に、屋外での自転車通勤時のRPEは、屋内での同レベルの負荷時に比べて19~30%程度低かった。
このようにRPEの差が生じるメカニズムとして著者らは、屋外では外部からの刺激を受けること、周囲の人や車両への注意を傾けることで、内部で発生する刺激がマスクされることが関係している可能性があるとしている。ただし、その他の要因も関与している可能性も否定できず、例えば研究室内は室温が20℃に保たれていたが、屋外は10℃前後であり、かつ風速4mほどの風が吹いていたとしている。
このような限界点を挙げたうえで、屋外の運動のほうが負荷が軽く感じるとしたら、健康のための運動は屋外で行ったほうが、より有効ではないかとの推論も付け加えられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Perceived exertion can be lower when exercising in field versus indoors」。〔PLoS One. 2024 May 29;19(5):e0300776〕
原文はこちら(PLOS)