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ボクシング選手の試合前の減量で、肩外旋筋、肩内旋筋、大腿四頭筋、ハムストリングの筋力が低下

2024年09月06日

エリートレベルのボクサーを対象に、試合前の短期間での減量が体組成や筋力に及ぼす影響を調査した結果が報告された。減量を行わなかった群に比較して、評価した肩外旋筋、肩内旋筋、大腿四頭筋、ハムストリングの筋力がすべて有意に低値となっていたという。トルコおよびルーマニアの研究者の報告。

ボクシング選手の試合前の減量で、肩外旋筋、肩内旋筋、大腿四頭筋、ハムストリングの筋力が低下

急速な減量による筋力への影響をエリートレベルのボクサーで検討

体重別階級のある競技アスリートは、有利な条件で戦うために、しばしば試合前の短期間で減量を行い、本来の体重より低いカテゴリーで対戦する。とくに軽量級のボクシングでは、試合前の急速な減量が一般的となっている。

体重の5%以上の減量は格闘技におけるパフォーマンスを低下させる可能性を指摘した報告があるが、ボクシングにおける影響は十分調査されていない。今回紹介する論文の著者らは、トルコのエリートレベルのボクサーを対象にこの点を検討する研究を行った。

摂取エネルギー量を500kcalマイナスにした群では30日後の筋力が有意に低下

研究対象は、トルコ選手権または全国大会への参加経験を条件とし、30人(19~24歳、競技歴平均7.4年)の男性ボクサーがリクルートされた。統一されたプロトコルでの栄養・トレーニングを実施するため、参加者全員、30日間のキャンプに参加してもらった。

参加者は、トレーニングを行わない対照群(C群)、トレーニングと通常の食事を続ける群(E+D1群)、トレーニングとエネルギー量を-500kcal/日とした食事を続ける群(E+D2群)、およびの3群に各10人ずつ割り付けられた。各群のベースラインデータは、年齢はC群20.2±0.2歳、E+D1群20.5±0.3歳、E+D2群20.0±0.2歳、体重が同順に69.9±1.7kg、70.5±1.8kg、70.2±1.6kg、BMI23.3±0.47、23.2±0.39、23.3±0.53、競技歴7.4±1.2年、7.3±1.3年、7.4±1.2年と、いずれもバランスよく割り付けられていた。

3日間の食事摂取記録と身体活動量を基に、必要なエネルギー量は2778.9kcalと計算され、E+D1群はそれに等しい食事が3食およびトレーニング前に分けて提供され、E+D2群は平均2,250kcalの食事が提供された。この2群のトレーニングは1日90分の統一されたメニューで行われた。

評価項目は、体重や体脂肪量、筋肉量、上腕や下肢の周囲長、肩外旋筋・内旋筋、大腿四頭筋、ハムストリングの筋力などの変化だった。

体重・体組成の変化の比較:E+D2群では体重・体脂肪量が有意に低下

まず体重と体組成に着目すると、ベースラインにおいて、体重、BMI、体脂肪率はいずれも群間に有意差がなかった。また、30日間のキャンプ終了時に、トレーニングと摂取制限を課さない対照群(C群)と、トレーニングを課し摂取制限は課さない群(E+D1群)は、これら3指標の有意な変化は生じていなかった。

それに対して、トレーニングと-500kcalの摂取制限を課す群(E+D2群)は、これら3指標がすべて有意に低下していた。また、キャンプ終了時において、E+D2群の体重、BMI、体脂肪率はいずれも他の2群より有意に低値となっていた。

なお、上腕や下肢の周囲長については、ベースラインにおいて有意な群間差がなかった。30日間のキャンプの前後での比較でも、全群ともに有意な変化はなく、群間差は非有意だった。

筋量・筋力の変化の比較:E+D2群では評価したすべての部位で筋量と筋力が低下

次に筋量に着目すると、ベースラインにおいて、左右の上肢・下肢の筋量はいずれも群間に有意差がなかった。また、30日間のキャンプ終了時に、C群とE+D1群は、いずれも有意な変化は生じていなかった。それに対してE+D2群はすべての部位の筋量が有意に低下していた。また、キャンプ終了時において、上肢の筋量の他群との差は有意水準未満だったが、下肢の筋量は他の2群よりも有意に低値となっていた。

続いて筋力に着目すると、ベースラインにおいて、肩外旋筋、肩内旋筋、大腿四頭筋、ハムストリングという4部位の筋力は、最大筋力および最大下筋力ともに、いずれも群間に有意差がなかった。30日間のキャンプ終了時に、C群とE+D1群は、いずれも有意な変化は生じていなかった。それに対してE+D2群はすべての部位の筋力(最大筋力および最大下筋力とも)が有意に低下していた。また、キャンプ終了時において、評価したすべての部位の筋力(最大筋力および最大下筋力とも)が、他の2群よりも有意に低値となっていた。

水抜きの影響や試合の結果への影響の調査が今後の課題

以上を基に論部の結論は、以下のように総括されている。

試合前に体重カテゴリー上の優位性を得るために体重を減らすことは、BMI、体重、体脂肪率という点では良い結果をもたらすように見えるようだ。しかしパワーには負の影響を及ぼす。これは試合でのパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性がある。よって、ボクサーはシーズンを通して競技体重を維持することが望ましいのではないか。

また本研究の限界点として、対象が男性ボクサーのみであること、急速な減量のために頻用される水分摂取制限(水抜き)の影響を評価していないこと、減量後に実際の試合パフォーマンスへの影響を評価していないことなどを挙げ、これらの検討を今後に行われる研究の課題として提案している。

文献情報

原題のタイトルは、「Effects of short-term pre-competition weight loss on certain physiological parameters and strength change in elite boxers」。〔PLoS One. 2024 May 23;19(5):e0304267〕
原文はこちら(PLOS)

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