1960年代と比べ仕事中の活動強度は1割以上低下 過去70年間の職業上の身体活動強度を調査
1953~2022年にかけての日本国内での職業上の身体活動強度の、長期的な推移が明らかになった。平均活動強度が少なくとも1割以上低下しているという。東京大学の研究グループの研究結果であり、「日本公衆衛生雑誌」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが発表された。著者らは、「健康政策として、仕事中の座業時間の短縮や、仕事以外の場面での身体活動促進などを含めた多面的な取り組みが求められる」と述べている。
産業構造の変化や機械化で職業上の身体活動強度はどのくらい変わってきているのか?
この研究では、1953~2022年の労働力調査データを用いて、職業ごとの身体活動強度のデータと組み合わせることで、日本全体で職業上の身体活動強度がどのように変化してきたかが分析された。その結果、過去70年間で、強度の高い職業から低強度・座業中心の職業への転換が進み、身体活動強度の平均値は一貫して低下していることがわかった(図1)。この研究は日本における職業上の身体活動の長期推移を推計した初めての研究成果であり、今後の健康政策や働き方を考える上での基礎資料として役立つことが期待される。
図1 日本における全職業の平均身体活動強度の推移(1953~2022年)
これまでの先行研究では、身体活動量の長期的推移に関する定量的データが少ないという問題点があった。とくに、日本で40年以上の長期的推移を示すデータはなく、また、生活全体の身体活動量のうち最も大きな割合を占める職業上の身体活動について定量的に長期推移を示すデータはなかった。このたび、同研究チームは日本における職業上の身体活動強度の長期的な推移を初めて詳細に分析した。
本研究では、日本の職業分類別の就業者数を労働力調査※1より取得し、1953年から2022年までの推移を確認した。次に、米国の標準職業分類の身体活動強度を示した先行研究のデータと方法を参考に、日本標準職業分類の計329の職業(小分類)それぞれに活動強度(Metabolic equivalents;METs※2)を割り当て、10~11の職業分類(大分類)の活動強度を代表する値を算出した。その上で、各職業分類の年間の就業者人口で重み付けをした活動強度の重み付け平均値を算出し、各年の平均身体活動強度とした。また、各職業分類の活動強度をもとに、座業中心(≦1.5METs)、低強度(1.6~2.9METs)、中強度(≧3METs)に再分類し、その就業者割合の推移を算出した。
少なくとも1割は身体活動強度が弱くなっている
その結果、過去70年間で中強度の職業が著しく減少し、座業中心と低強度の職業が増加する傾向が見られた(図2)。職業上の身体活動強度の平均値(平均職業METs)は、70年間で一貫して低下し続けており、分類方法に大きな変更のなかった1962~2010年の48年間では、2.60METsから2.35METsと約1割(9.6%)の低下が見られた。
なお、本研究では、各職業個別の活動強度が調査期間を通じて一定という仮定の下で推定を行っているため、実際は機械化等により職業上の身体活動強度はさらに大きく低下してきた可能性がある。
図2 身体活動強度別就業者割合の推移(1953~2022年)
これらの結果から、日本では労働者の職業がより低い活動強度の職業へと移行しており、全職業の平均活動強度が低下し続けていることが示された。世界保健機関(WHO)や厚生労働省のガイドラインでは、1.5METs以下の「座位行動(座りっぱなし)の時間が長くなりすぎないように注意する(立位困難な人も、じっとしている時間が長くなりすぎないよう、少しでも身体を動かす)」ことを推奨している。健康づくりに向けた取り組みとして、座業(デスクワーク)中心の職業においても、昇降デスクの活用や仕事中の座業時間の短縮を図り、また、仕事以外の場面での身体活動・運動を促進するなど、多面的な取り組みが求められる。
プレスリリース
日本における70年間の職業上の身体活動強度の変遷―1960年代から1割以上の平均活動強度の低下が明らかに―(東京大学)
文献情報
原題のタイトルは、「日本における職業上の身体活動強度の長期推移」。〔日本公衆衛生雑誌 advpub (早期公開), 2024〕
原文はこちら(J-STAGE)