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1960年代と比べ仕事中の活動強度は1割以上低下 過去70年間の職業上の身体活動強度を調査

2024年09月05日

1953~2022年にかけての日本国内での職業上の身体活動強度の、長期的な推移が明らかになった。平均活動強度が少なくとも1割以上低下しているという。東京大学の研究グループの研究結果であり、「日本公衆衛生雑誌」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが発表された。著者らは、「健康政策として、仕事中の座業時間の短縮や、仕事以外の場面での身体活動促進などを含めた多面的な取り組みが求められる」と述べている。

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この研究では、1953~2022年の労働力調査データを用いて、職業ごとの身体活動強度のデータと組み合わせることで、日本全体で職業上の身体活動強度がどのように変化してきたかが分析された。その結果、過去70年間で、強度の高い職業から低強度・座業中心の職業への転換が進み、身体活動強度の平均値は一貫して低下していることがわかった(図1)。この研究は日本における職業上の身体活動の長期推移を推計した初めての研究成果であり、今後の健康政策や働き方を考える上での基礎資料として役立つことが期待される。

図1 日本における全職業の平均身体活動強度の推移(1953~2022年)

日本における全職業の平均身体活動強度の推移(1953~2022年)

*:1953~1972年の値には、沖縄県分は含まれていない。
**:計算に用いた労働力調査が1962年と2010年に一部改訂されたことで平均職業METsの値が変動したため、グラフを分断して表示している。
(出典:東京大学)

これまでの先行研究では、身体活動量の長期的推移に関する定量的データが少ないという問題点があった。とくに、日本で40年以上の長期的推移を示すデータはなく、また、生活全体の身体活動量のうち最も大きな割合を占める職業上の身体活動について定量的に長期推移を示すデータはなかった。このたび、同研究チームは日本における職業上の身体活動強度の長期的な推移を初めて詳細に分析した。

本研究では、日本の職業分類別の就業者数を労働力調査※1より取得し、1953年から2022年までの推移を確認した。次に、米国の標準職業分類の身体活動強度を示した先行研究のデータと方法を参考に、日本標準職業分類の計329の職業(小分類)それぞれに活動強度(Metabolic equivalents;METs※2)を割り当て、10~11の職業分類(大分類)の活動強度を代表する値を算出した。その上で、各職業分類の年間の就業者人口で重み付けをした活動強度の重み付け平均値を算出し、各年の平均身体活動強度とした。また、各職業分類の活動強度をもとに、座業中心(≦1.5METs)、低強度(1.6~2.9METs)、中強度(≧3METs)に再分類し、その就業者割合の推移を算出した。

※1 労働力調査:労働力調査は総務省が実施する標本調査であり、毎回全国から約2,900の調査区を選定し、その中から約4万の調査世帯(住戸)を無作為に抽出して実施されている。職業分類別就業者数の年平均結果は1953年分から時系列にまとめられており、この職業の分類は日本標準職業分類に基づいている。日本標準職業分類は、2009年以降の現行版では12の大分類(例えば「建設・採掘従事者」など)、74の中分類、329の小分類(例えば「大工」「土木従事者」など)に分かれている。本研究の大分類に基づく推計では、「分類不能の職業」を除く10(1953~2010年)~11(2009年以降)の職業分類を用いた。2009年と2010年は新旧両方の分類を用いた情報が公開されており、分析に応じて適した分類方法を用いている。
※2 METs:Metabolic equivalentsの略記、メッツ。身体活動の強度を表す指標で、安静時のエネルギー消費量を1METsとして何倍に相当するかを表している。国際的な身体活動ガイドラインでは、3METs以上を中高強度の身体活動(Moderate-to-vigorous physical activity)、1.6METs以上3METs 未満を低強度、1.5METs以下を座業中心(sedentary;座って非活動的な状態)と分類することが多く、本研究でも同様に分類している。職業上の身体活動強度については「何METsなら健康に良い」という明確な基準はないが、世界保健機関(WHO)や厚生労働省のガイドラインでは、1.5METs以下の「座位行動(座りっぱなし)の時間が長くなりすぎないように注意する」ことを推奨している。

少なくとも1割は身体活動強度が弱くなっている

その結果、過去70年間で中強度の職業が著しく減少し、座業中心と低強度の職業が増加する傾向が見られた(図2)。職業上の身体活動強度の平均値(平均職業METs)は、70年間で一貫して低下し続けており、分類方法に大きな変更のなかった1962~2010年の48年間では、2.60METsから2.35METsと約1割(9.6%)の低下が見られた。

なお、本研究では、各職業個別の活動強度が調査期間を通じて一定という仮定の下で推定を行っているため、実際は機械化等により職業上の身体活動強度はさらに大きく低下してきた可能性がある。

図2 身体活動強度別就業者割合の推移(1953~2022年)

身体活動強度別就業者割合の推移(1953~2022年)

就業者割合の長期推移データが公開されている「大分類」のMETsの値を基に活動強度のカテゴリー分けをしているため、低強度(1.6~3.0METs)に含まれる大分類の中に1.5METs(座業中心)の職業が含まれているといった場合もある。
*:1953~1972年の値には、沖縄県分は含まれていない。
(出典:東京大学)

これらの結果から、日本では労働者の職業がより低い活動強度の職業へと移行しており、全職業の平均活動強度が低下し続けていることが示された。世界保健機関(WHO)や厚生労働省のガイドラインでは、1.5METs以下の「座位行動(座りっぱなし)の時間が長くなりすぎないように注意する(立位困難な人も、じっとしている時間が長くなりすぎないよう、少しでも身体を動かす)」ことを推奨している。健康づくりに向けた取り組みとして、座業(デスクワーク)中心の職業においても、昇降デスクの活用や仕事中の座業時間の短縮を図り、また、仕事以外の場面での身体活動・運動を促進するなど、多面的な取り組みが求められる。

プレスリリース

日本における70年間の職業上の身体活動強度の変遷―1960年代から1割以上の平均活動強度の低下が明らかに―(東京大学)

文献情報

原題のタイトルは、「日本における職業上の身体活動強度の長期推移」。〔日本公衆衛生雑誌 advpub (早期公開), 2024〕
原文はこちら(J-STAGE)

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