食べ物を選択する際の脳の働き 健康的な食生活を継続するには前頭前野が重要か? 同志社大学
人が「おいしいけれども健康によくない食べ物」に対して、「健康によいけれどもおいしくない食べ物」を選ぶときに、前頭前野が活動し、その活動は長期的な利益を最大にする自制心の強い人ほど大きくなることが報告された。群馬大学、同志社大学、自然科学研究機構生理学研究所、株式会社アラヤの共同研究の結果であり、「Cerebral Cortex」に論文が掲載されるとともにプレスリリースが発表された。研究者らは、「この知見は、人が健康を優先して食品の選択をする際、前頭前野の自制の機構が重要な役割を果たしていることを示唆している」と述べている。
なぜ、健康に良くないとわかっていながら食べてしまうのか?
食べ物を選ぶとき、おいしさや健康によいかは重要な視点。健康によい食事を摂ることは、自身の健康につながる。しかし、誰もがそのことを知っているにもかかわらず、おいしさを優先して健康に悪い食事を衝動的に選んでしまうことがよくある。例えば、脂肪分や糖分、炭水化物が不適切なほど多く含まれた食べ物が健康にはあまりよくないとわかっていながらも、つい手を伸ばしてしまう経験は誰にでもあるだろう。つまり、健康的な食べ物を優先して選択していくことは簡単ではない。
これは、おいしさより健康を重視して食べ物を選ぶためには、おいしさという目前の利益より、健康という長期的な利益を優先するための「自制」が必要だからといえる。それでは、健康を重視する食品選択を行う際に、人の脳はどのように機能しているのだろうか。そして、このときの脳活動は自制とどのようにかかわっているのだろうか。
目の前の小さな利益と、長期的な大きな利益のどちらを選ぶか?
研究グループでは、おいしさと健康を指標にした食べ物を被験者が選択する状況で、脳活動を計測した。
まず、被験者は食べ物を、おいしさと健康的かどうかで評価し、「おいしいけど健康によくない食品」、「健康にいいけどおいしくない食品」に分類した。そして、脳活動の計測中に、画面に表示されたこれらの2種類の食品のうち、どちらか食べたいほうを選択した(図1A)。ここで、「おいしいけど健康によくない食品」ではなく、「健康によいけどおいしくない食品」を選んだ場合、おいしさより健康を重視したことに相当する。
図1
加えて、将来得られる金銭報酬を選択する課題により、自制の強さを測定した(図1B)。この課題では、獲得までの時間と金額が異なる2種類の報酬について、どちらかほしいほうを一つだけ選ぶ。例えば、「いますぐ5,000円をもらう」、または、「1年後に10,000円をもらう」かのどちらかを選ぶ。
ここで、「いますぐ5,000円をもらう」という選択は目前の利益を優先した結果であり、衝動的といえる。一方で、「1年後に10,000円をもらう」という選択は目前の利益よりも長期的な利益を優先しており、自制心が強いことを意味する。すなわち、獲得するまで待つ必要があるが、報酬の量が多いという選択をする人は、自制心が強いということになる。
食べ物の選択における脳活動を調べたところ、「健康によいけどおいしくない食品」を選んだとき、すなわち、おいしさより健康を重視する選択を行ったとき、前頭前野の大きな活動が観察された(図1C左)。さらに、金銭報酬における長期的な利益を優先する、つまり、自制心が強い人ほど、これらの領域の脳活動が大きいということがわかった(図1C右)。
一方で、自制心の強さは認知の機能と関係があるとこれまで考えられてきたが、認知の機能は、食べ物の選択における健康の優先とは関係がないことが示唆された。
前頭前野における自制が健康的な食生活につながる
本研究の結果は、人がおいしさより健康を重視して食品を選ぶとき、長期的な利益を優先するという自制に関連した前頭前野の活動が重要な役割を果たしていることを示唆している。
この結果について研究グループは、「食べ物の選択は他の動物種にとっても大切な行動だが、健康を優先するという長期的な利益に基づく選択をすることは人に特徴的であると考えられ、人で最も発達している前頭前野が健康の優先に関与していることは興味深い。そして、健康的な食生活の継続には、この前頭前野における自制の機構が重要なのではないかと考えている」と述べている。
プレスリリース
健康を優先した食べ物の選択における脳機構を解明: おいしさの誘惑を乗り越える自制心(同志社大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Healthy dietary choices involve prefrontal mechanisms associated with long-term reward maximization but not working memory」。〔Cereb Cortex. 2024 Jul 3;34(7):bhae302〕
原文はこちら(Oxford University Press)