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ランニング後は低脂肪で高炭水化物の甘い物が食べたくなる 若年男性における報酬系の急性変化の検討

中強度の有酸素運動を行う前後で、食べ物に対する欲求の変化を検討した研究から、運動後には低脂肪(高炭水化物)で甘い物への欲求が高まることが明らかになった。早稲田大学スポーツ科学学術院運動代謝学研究室の宮下政司氏らが、健康な日本人若年男性を対象に行った無作為化クロスオーバー試験の結果であり、「Appetite」に論文が掲載された。

ランニング後は低脂肪で高炭水化物の甘い物が食べたくなる 若年男性における報酬系の急性変化の検討

急性の運動負荷の前後で食べ物の嗜好はどう変わるのか?

食欲は、恒常性のメカニズムと非恒常性のメカニズムによってコントロールされていると理解されている。前者の恒常性メカニズムはエネルギーバランスの調整にかかわり、後者の非恒常性メカニズムは快楽制御とも呼ばれる脳内の報酬系によって調整されている。一方、身体活動はエネルギーバランスを負に導き食欲を刺激するが、中~高強度の有酸素運動の直後には反対に食欲が低下するという急性変化も生じ得る。この急性変化は「運動誘発性食欲減退」と称され、しばしばアスリートの栄養管理上の課題となる。

運動誘発性食欲減退に関するこれまでの研究から、運動後には主として高脂肪食品への欲求が低下していることを示唆するデータが報告されている。ただしそれらの研究の多くは、運動後のみの食欲を評価しており、運動をしない場合との比較や運動前後での変化については、不明点が残されている。これを背景として宮下氏らは、それらの諸点を評価可能なデザインでの検討を行った。

若年男性14人を対象にクロスオーバー試験

研究対象は健康な若年男性14人。適格条件として、20~30歳の非喫煙者で、疾患に罹患しておらず薬剤やサプリメントを服用してなく、過去3カ月にわたり体重が安定していて体重増減を計画していないことなどが設定されていた。主な特徴は、年齢22.5±1.6歳、BMI20.8±1.7、VO2max56.5±7.0mL/kg/分(平均±標準偏差)。

研究デザインは無作為化クロスオーバー法であり、トレッドミルを用いた70%VO2maxで30分間のランニングを行う条件、および、30分間の安静座位を保つという2条件を試行した。両条件の試行には6日以上のウォッシュアウト期間を設け、同じ時間帯に実施した。代謝状態の差異を最小化するため、初回の試験前日に摂取したものをすべて記録し、2回目のテスト前日にも同じものを摂取してもらった。また、活動量計を貸与し、身体活動量が大きく変わらないようにしてもらった。事後評価により、両条件のテスト前日の摂取エネルギー量、主要栄養素バランス、身体活動量には有意差がなかったことが確認された。

食べ物に対する好みや欲求の評価方法

食べ物に対する好みや欲求の程度は、LFPQ(Leeds Food Preference Questionnaire)という指標の日本語版(LFPQ-J)を用いて評価した。これは、パソコンのディスプレーに表示される食品の画像を見て、その時点での満喫度、および、その時点で食べたいか否かという質問で、明示的な好み、明示的な欲求、暗示的な欲求、好みの相対的な評価を把握する。

より具体的には、食品を1品のみ表示し、「今、この食品を味わえるとしたら、どのくらい満喫できると思いますか?」という質問への回答を明示的な好みとして判定し、「今、この食品をどのくらい食べたいと感じていますか?」という質問への回答を明示的な欲求として判定。これらは100mmのビジュアルアナログスケール(VAS)で評価してもらった。また、複数の食品を表示し、「今、より食べたい食品はどちらですか?」という質問にできるだけ短時間で回答してもらい、食品の選択率と回答時間から暗示的な欲求を評価した。このほか、4つの食品グループ(高脂肪塩味、高脂肪甘味、低脂肪塩味、低脂肪甘味)における平均の高脂肪食品スコアーから平均の低脂肪食品スコアーを差し引いたスコアーあるいは平均の甘味食品スコアーから平均の塩味食品スコアーを差し引いたスコアーから好みの程度の相対的な評価を行った。

これらはすべて、運動(または安静)の直前および直後に評価し、その結果に基づき、脂肪性食品に対する好みと欲求の変化、および、塩味と甘味に対する好みと欲求の変化について、条件間の相違を解析した。このほか、運動負荷中には酸素摂取量、呼吸交換比(respiratory exchange ratio;RER)などを測定した。

運動負荷条件でのみ、食品の好みや欲求が有意に変化

運動負荷中のVO2は39.42±4.3mL/kg/分(69.7±2.6%VO2max)で、消費エネルギー量は347.6±42.6kcalだった。一方、安静座位条件では同順に4.8±1.0mL/kg/分、42.6±9.0kcalだった。呼吸交換比(RER)は前者が0.87±0.07、後者は0.80±0.04であり、前者で炭水化物酸化率が高かった(54.0±18.9 vs 31.8±12.4%)。

脂肪性食品に対する好みと欲求の変化

ベースライン(運動負荷または安静の直前)における脂肪性食品に対する好みと欲求は、評価した4指標(明示的な好み、明示的な欲求、暗示的な欲求、好みの相対的な評価)すべてについて、条件間の有意差がなかった。また、安静条件では4指標すべて、30分間の安静後にもベースラインからの有意な変化は観察されなかった。それに対して運動負荷条件では、明示的な好み以外の3指標が運動後に有意に低下していた。

塩味と甘味に対する好みと欲求の変化

ベースラインにおける塩味と甘味に対する好みと欲求は、評価した4指標すべてについて、条件間の有意差がなかった。また、安静条件では4指標すべて、30分間の安静後にもベースラインからの有意な変化が観察されなかった。それに対して運動負荷条件では、暗示的な欲求、および好みの相対的な評価において、塩味よりも甘味を好むという変化が生じていた。

運動負荷によって、低脂肪の甘い物が欲しくなるという急性の変化が生じる

まとめると、健康な若年男性において、中強度でのランニングは、高脂肪食品より低脂肪食品を欲するという明示的な欲求と暗示的な欲求が増大し、低脂肪食品の相対的評価が高まるという急性の変化が生じることが示された。また、塩味食品より甘味食品への暗示的な欲求が増大し、甘味食品の相対的な評価が上昇していた。著者らは、「これらの知見は、運動前後の食べ物に関する報酬系の急性変化に関する重要な視座を提供し、食欲の非恒常性メカニズムに対する運動の影響に関する今後の研究の方向性を指し示すものと言える」と総括している。

なお、論文の考察には、本研究に用いられた低脂肪食品(画像)の炭水化物含有量は高脂肪食品の2倍以上であったことから、運動によって炭水化物食品の魅力が増大したとの解釈も可能であること、さらに、高脂肪食品(画像)のエネルギー密度は低脂肪食品の3倍以上であったことから、運動によって高エネルギー食品の魅力が低下した可能性も考えられると述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Reward for fat and sweet dimensions of food are altered by an acute bout of running in healthy young men」。〔Appetite. 2024 Jun 14:200:107562〕
原文はこちら(Elsevier)

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