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健康的な日本の食事習慣は、欧米の食事習慣と比較して老化を遅らせる 高齢男性144名を調査 早稲田大学

高齢男性を対象に、健康的な日本型食事パターンおよび欧米型食事パターンと生物学的老化との関係を調査した結果、欧米型の食事パターンは生物学的老化と関連しないことが示唆された一方で、健康的な日本型食事パターンは、日本人高齢男性における生物学的老化の遅延と関連することが明らかになった。早稲田大学などの研究グループによる研究であり、論文が「Frontiers in Nutrition」に掲載されるとともに、同大学のサイトにニュースリリースが掲載された。

健康的な日本の食事習慣は、欧米の食事習慣と比較して老化を遅らせる 高齢男性144名を調査 早稲田大学

これまでの研究でわかっていたこと

老化は、さまざまな疾患の発症や死亡の最大の危険因子であり、近年では疾患や臓器別に細分化された医療に加えて、老化を標的としたその抑止法の開発が、主に米国を中心に進められている。これまで、経口剤の投与などにより、マウスなどのモデル動物の生物学的老化※1が遅延・逆転されることが明らかにされている。一方で、ヒトを対象とした研究により、運動や飲酒・喫煙などの生活習慣が生物学的老化の進行や遅延と関連することも明らかにされている。

※1 生物学的老化:生まれてからの年数を表す「暦年齢」に対して、「生物学的年齢」は個々の生物学的状態を表す用語で、必ずしも暦年齢とは一致しない。「生物学的老化」は、この「生物学的年齢」に基づき推定される生物の老化度のことで、個々の遺伝的要因や環境要因によって決定されると考えられている。現在、この生物学的老化度を定量化するためのバイオマーカーの開発競争が世界的に繰り広げられている。

また、食事パターンと生物学的老化の関係を調査した研究も行われており、野菜や果物が豊富に組み込まれた食事パターンや、魚介類やオリーブオイル、赤ワインなどの摂取量によって特徴付けられる地中海食などが、生物学的老化の遅延と関連することが報告されている。しかし、これらの先行研究は、主に欧米人を対象としており、食文化が大きく異なるアジア人、とくに世界有数の長寿国である日本人を対象とした研究は行われていない。

本研究に先立ち、研究グループでは、ビタミンやミネラルなどの微量栄養素の豊富な摂取が、体格指数(BMI)や喫煙で調整した後でも、日本人高齢男性における生物学的老化の遅延と関連することを明らかにした。しかし、生物学的老化の遅延に有効な食習慣を人々に推奨する際には、栄養素レベルではなく、より包括的な単位である食事パターンを用いたさらなる調査が必要であると考えられた。

今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと

本研究では、「早稲田大学校友を対象とした健康づくり研究(Waseda Alumni’s Sports, Exercise, Daily Activity, Sedentariness and Health Study:以下WASEDA’S Health Study)」※2に参加している65~72歳の高齢男性144名を対象に、簡易型自記式食事歴法質問票(以下BDHQ)を用いた食事調査を実施した。

※2 WASEDA’S Health Study:早稲田大学校友の元気で長生きの秘訣を、運動や食事、ストレス等、生活習慣の観点から明らかにすることを目的としたコホート研究。20年間という長期にわたる追跡調査を通じて、校友のみならず、日本国民の今後の疾病予防や寝たきり予防、ストレス対策に役立つデータを蓄積し、社会に提供していくことを目指している。WASEDA’S Health Studyには、AコースからDコースの4コースがあり、Aコースではインターネットによる健康調査、BコースではAコースの内容+郵送による活動量計調査、Cコースでは、Bコースの内容+全国拠点での健康診断、DコースではBコースの内容+早稲田大学所沢キャンパスに来校しての健康・体力測定をそれぞれ実施している。

得られた食事状況のデータから、主成分分析※3という方法を使って、健康的な日本型食事パターンと欧米型食事パターン※4と名付けた二つの食事パターンを特定した。あわせて、参加者から得られたDNAサンプルを用いてメチル化測定を行い、そのプロファイルから、現在のところ最も信頼性の高い老化バイオマーカーの一つとされるDNAメチル化老化時計※5を算出した。

※3 主成分分析:多くの量的な変数をより少ない変数に要約する手法。本研究では、52の食品・飲料項目から、最終的には、健康的な日本型食事パターンと、欧米型の食事パターンという二つの食事パターンを同定した。
※4 健康的な日本型食事パターンと欧米型食事パターン:健康的な日本型食事パターンは、野菜、果物、大豆製品および魚介類の摂取が多いという特徴を有しており、欧米型食事パターンは、肉類や加工肉、卵、マヨネーズ・ドレッシングの摂取が多いという特徴を有している。
※5 DNAメチル化老化時計:DNA上のシトシン、グアニンが繰り返し配列される領域「CpGアイランド」におけるシトシンのメチル化レベルを網羅的に測定し、そのプロファイルに基づき、ヒトや生物サンプルの年齢を推定するためのバイオマーカー。初期に開発された第1世代のDNAメチル化老化時計は、生まれてからの年数で表される暦年齢を高い精度で推定可能であり、また、その後に開発された第2世代の時計は、加齢性疾患の発症や死亡リスクの予測に優れていることが先行研究において明らかにされている。

より具体的には、生まれてからの年数で表される暦年齢の予測に優れた第1世代の時計(Horvath clock, Hannum clock, BioAge4HAStatic, DNAmSkinBloodClock)と、加齢性疾患の発症や死亡の予測に優れた第2世代の時計(DNAmPhenoAge、DNAmGrimAge、DNAmFitAge、DNAmTL※6)、計8種類のDNAメチル化年齢に加えて、暦年齢とメチル化年齢の差を表すDNAメチル化年齢加速値および年齢調整値※7をそれぞれ算出し、生物学的老化度の指標とした。あわせて、BMI、喫煙・飲酒状況、運動習慣および配偶者の有無、教育状況、所得水準などの社会経済的要因の調査・測定を実施した。

※6 DNAmTL:「DNAメチル化に基づくテロメア長」の略語で、DNAメチル化プロファイルに基づいてテロメア長を間接的に推定するための時計のこと。テロメアは遺伝情報が含まれた染色体の末端部分に存在するDNAとタンパク質から構成された部位のこと。テロメア長は、細胞分裂のたびに短くなることが知られており、老化や健康状態を反映する指標として老化・長寿研究において頻繁に測定される。DNAmTLは、死亡までの期間、冠動脈性心疾患までの期間、心不全までの期間など、実際のテロメア長と比べても、加齢に伴う病態と強く関連することが先行研究において報告されている。
※7 DNAメチル化年齢加速値および年齢調整値:両値ともに、DNAメチル化プロファイルに基づき算出された推定年齢(DNAメチル化年齢)や推定テロメア長の値を年齢および性別で調整することにより算出される。これらの値を用いることで、全世代の男女のデータを一律で比較することが可能となる。これまで、DNAメチル化年齢加速値や年齢調整値が正の値を示す人では、加齢性疾患の発症や死亡のリスクが高まることが報告されている。例外的に、DNAmTL年齢調整値については、負の値を示した場合(推定テロメア長がより短い場合)にこれらのリスクが高まることが報告されている。これらのことから、DNAメチル化年齢加速値や年齢調整値を制御するための介入戦略の確立が求められている。

結果として、健康的な日本型食事パターンは、第2世代の時計であるDNAmGrimAge、DNAmFitAgeおよびDNAmTLの年齢加速値および年齢調整値と有意な負の相関または正の相関があることが明らかになった(図1)。共変量で調整した後も、健康的な日本型食事パターンとDNAmTL年齢調整値との間には有意な正の相関がみられた。対照的に、欧米型の食事パターンは、検討された年齢加速値や年齢調整値のいずれとも有意な相関は観察されなかった。

図1 食事パターンとDNAメチル化年齢加速値または年齢調整値との相関関係

食事パターンとDNAメチル化年齢加速値または年齢調整値との相関関係

図中の値は相関係数と偏相関係数を表しており、また、赤色は正の相関、青色は負の相関を表しています。色が濃い方が両者の間により強い相関があることを意味している。偏相関分析は、体格指数(BMI)、喫煙と飲酒状況、運動習慣、および婚姻状況、教育状況、収入レベルなどの社会経済的要因を調整した。
AgeAcce:加齢加速、AdjAge:年齢調整値、TL:テロメア長。
p<0.05およびp<0.01での有意な相関は、*および**で、それぞれ示されている。
(出典:早稲田大学)

回帰分析の結果、健康的な日本型食事パターンは喫煙と比べると、年齢加速値や年齢調整値に対する寄与率が低いことが示唆された。これらの結果から、欧米型の食事パターンは生物学的老化と関連しない可能性がある一方で、健康的な日本型食事パターンは日本人高齢男性における生物学的老化の遅延と関連することが示された。

本研究の知見は、健康的な日本型食事パターンが、日本人高齢男性における生物学的老化の遅延に対して好影響を及ぼすことを示唆している。

研究の波及効果や社会的影響

野菜、果物、海藻および納豆などの摂取量の高さを特徴とする健康的な日本人型食事パターンが、生物学的老化の遅延と関連するという本研究の知見は、老化を標的としたその抑止法の確立に大きく貢献し得るものであり、その社会的意義は大きいと考えられる。また、日本人を対象に、食事パターンと生物学的老化との関係を調査した先行研究は存在せず、そればかりか、日本人を対象としてDNAメチル化老化時計に基づき生物学的老化度を評価した研究自体もわずか数編しか存在しない。そのため、本研究の学術的価値は高く、本研究の成果は栄養学や健康科学の分野のみならず、老化分野における高い波及効果が期待できる。

今後の課題

今後は、健康的な日本人型食事パターンと生物学的老化の両方を追跡した縦断研究により、両者の因果関係を解明する必要がある。また、本研究の知見が、異なる年代や性別、国籍の人でも再現されるのか否かを検証する必要がある。加えて、より対象者の人数を拡大した検証も必要であると考えられる。

研究グループでは、「現在のところ、老化抑止法に関する研究の多くは、抗老化薬の開発を最終目標としている。しかし、将来的に抗老化薬が開発された場合であっても、生活習慣を管理することで健康な老化(Healthy Aging)を実現させることがより優先されるべきであると考えている」と述べている。

関連情報

健康的な日本人の食事パターンは高齢男性の生物学的老化の遅延と関連する(早稲田大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Healthy Japanese dietary pattern is associated with slower biological aging in older men: WASEDA'S health study」。〔Front Nutr. 2024 May 24:11:1373806〕
原文はこちら(Frontiers Media)

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