成績良好な医学生ほど健康的な生活を送る傾向 学業と食事・運動習慣に有意な関連
学業に集中するために食事や運動なでの配慮を犠牲にしている医学生も少なくないが、実際には健康的な食事・運動習慣の学生のほうが成績良好であることを示すデータが報告された。また、成績が良好な医学生は、精神的・身体的健康の満足度が高いという関連も認められたという。米国からの報告。
「学業のために健康への配慮を犠牲にする」のは意味があるのか?
医学生は多忙のあまり、手軽さを優先して栄養バランスの良くない食生活を送っていたり、運動をしていないことが多い。例えば医療系の学生で毎日野菜や果物を摂取しているのは3割足らずといった報告がある。健康に影響を及ぼす食事や運動にあてる時間を削って学業に励むことが、成績が良好であることと関連があるのであれば、限られた期間のそのような生活も甘受できるかもしれないが、そのような視点で実態を調査した研究はほとんどない。
このことから、今回紹介する論文の著者らは、米国ノバサウスイースタン大学のキランC.パテル オステオパシー医科大学の医学生を対象に、食事や運動習慣と成績との関連を調査した。なお、米国においてオステオパシー医は国家資格であり、他のメディカルドクターと同様に薬剤の処方や一般的な外科手術を行っている。
成績が良好な医学生ほど、健康的な食事・運動習慣
この研究は、同大学の1~2年生を対象とする横断研究として実施された。22~30歳の学生800人のうち、161人が調査に回答し、回答内容に欠落のあるものなどを除外して、141人を解析対象とした。なお、3年生以上は臨床実習のローテーションをしており、学業に関する評価は指導医の判断によるため、調査対象から除外されている。
解析対象141人の主な特徴は、年齢が25.62歳で83%が1年生であり、性別は男性38%、女性60%で他にノンバイナリーまたは不回答が3人いた。
18項目からなるアンケートにより、食事・運動習慣を把握。回答内容によって0点、1点、2点と単純なスコア(simple lifestyle indicator questionnaire;SLIQ)に変換して、スコアが高いほど健康的な生活と判定した。
学業成績については、成績指標値(grade point average;GPA)で評価し、2.30~2.99を学業成績「不良(low academic-achieving;LAA)」、3.00~3.59を「中等度(middle academic-achieving;MAA)」、3.60~4.00を「良好(high academic-achieving;HAA)」と3群に分類した。
食生活と学業成績の関係
食生活については、加糖飲料やファストフード、果物、野菜の摂取頻度が調査された。
結果を成績別にみると、LAA(成績不良)の学生の33%が加糖飲料を1日1回摂取しており、MAA(成績が中等度)の学生では週1回未満が36%を占め、HAA(成績良好)の学生では同42%であるのと対照的だった。また、ファストフードを週に1回摂取する割合は、HAAの学生は28%だがLAAの学生は33%だった。野菜の摂取頻度については、HAA学生の40%が1日1回以上と回答しLAA学生では34%だった。
全体として、HAAとLAAの学生との間に、SLIQスコアの統計学的有意差が認められた(p=0.0425)。
運動習慣と学業成績の関係
運動習慣については、軽強度・中強度・高強度運動の頻度が調査された。軽強度運動とはゆっくりとしたウォーキング、家事など、中強度運動はサイクリング、水泳、ダンスなど、高強度運動はウェイトトレーニング、サッカー、バスケットボールなどとした。
LAA学生の52%が、軽強度運動を週に1~3回実施していた。それに対してHAA学生での40%が週に4~7回、軽強度運動を行っていた。中強度運動の頻度については学業成績との関連がみられなかった。高強度運動については、HAA学生の40%が週に4~7回実施しており、この割合はLAA学生の24%やMAA学生の27%より有意に高かった。
全体として、強度が高い運動を実践している割合は、HAA学生で高かった(p=0.0117)。
ライフスタイルの満足度と学業成績の関係
医学部入学以来のストレスレベルを1〜9ポイントのスケールで評価してもらったところ(高値ほどストレスが強いことを意味する)、LAA学生の平均は7.23であるのに対し、HAA学生は6.16であり、ストレスレベルと学力の間に負の相関があることが示された。
また、著者らは「興味深いことに」と述べたうえで、勉強の時間を削ってでも運動をしている学生の割合は、HAA学生では42%であるのに対して、LAA学生では38%であった事実を記し、「成績が良好な学生は運動時間の確保を重視している」とし、「勉強時間を犠牲にして運動することが学力にプラスの影響を与える可能性があることを裏付けている」と考察している。
このほかに、LAA学生の19%は「自分の精神的健康に満足している」ことを強く否定し、「満足している」に強く同意したのは0%であったのに対して、HAA学生は「自分の精神的健康に満足している」に強く同意が16%、同意が58%を占めていた。身体的健康に対する満足度に関しても同様の傾向が認められた。
医学生の将来にとっても、健康的な食事・運動習慣は不可欠
以上の結果を基に著者らは、「医学部の学生の厳しさや競争は今後も変わりそうにないが、ライフスタイルの考え方または戦略は変わる可能性がある。われわれの研究結果は、効果的なワークライフバランスのメリットを医学生に伝え、教育するうえで有用と言える。健康的なライフスタイルの実践は、身体的および精神的健康に有益であるだけでなく、認知機能を改善し、その結果として学業成績を向上させる生理学的プロセスにおいて、重要な役割を果たす可能性がある。また、単に医学生の適切な食事と身体活動を増やすべきと結論づけるにとどめるべきでなく、これらの習慣は高度な学問を修めようとする医学生にとって不可欠であって、将来的には医師としての業績にも重要な役割を果たす可能性があるのではないか」と総括している。
文献情報
原題のタイトルは、「Cross-Sectional Analysis of the Effect of Physical Activity, Nutrition, and Lifestyle Factors on Medical Students’ Academic Achievement」。〔Cureus. 2024 Mar 17;16(3):e56343〕
原文はこちら(Cureus)