水泳、ランニング、自転車などは死亡リスク低下と関連 スポーツの健康上のメリットを競技別に解析
さまざまなスポーツによる健康上のメリットを、260万人以上のデータを用いて検討した結果が報告された。水泳、ランニング、自転車などは、全死亡リスクが2割以上低いことと関連していることなどが明らかにされている。
最新の研究報告も対象に含めたメタ解析を施行
スポーツが健康に良いことは広く知られている。実際にそのことをデータで示した研究も多数報告されており、さらにそれらの研究報告を対象としたメタ解析が既に行われていて、今回紹介する論文の著者らも約10年前にメタ解析の報告をしている(doi:10.1136/bjsports-2014-093885)。
その時の報告では、47件の研究データを統合した解析によって、サッカーが体脂肪量や安静時心拍数、VO2maxに良好な影響を与える可能性などが認められたが、その他のスポーツや健康アウトカムとの関連はデータが十分でなく、ナラティブレビューにとどまっていた。しかしその後、多くの研究報告の知見が蓄積されたことから、著者らは新たなデータも含めて改めてメタ解析を行った。
6種類の文献データベースから136報の論文を抽出
この研究は、PubMed/MEDLINE、Scopus、SPORTDiscus、Web of Scienceなどの6種類の文献データベースを用いて、システマティックレビューおよびメタ解析の優先報告項目(PRISMA)に準拠して行われた。初回の検索は2020年5月31日に行い、2022年5月30日に更新した。検索キーワードは、スポーツ、健康、フィットネスなどを用いた。
包括基準は、障害のない健康な18歳以上の一般成人を対象として、研究デザインは縦断的なコホート研究または症例対照研究、対照群のある介入研究により、何らかのスポーツによる健康上のメリットを検討した研究であり、英語、ドイツ語、またはフィンランド語で報告されているもの。エリートアスリート対象の研究、疾患や障害を有する対象での研究、評価アウトカムが健康指標ではなく、怪我の発生や急性疾患の発症である研究は除外した。採否は2人の研究者が判断し、意見の不一致は3人目の研究者の判断により解列した。
一次検索で2万7,429報、二次検索で3万2,250報がヒットし、重複の削除、およびタイトルと要約に基づくスクリーニングによって199報に絞り込み、これを全文精査の対象とした。最終的に、136報の報告を解析対象として採用した。
抽出された論文の特徴
抽出された136報のうち80報は46件の介入研究に基づく報告で、56報は30件のコホート研究に基づく縦断的な解析結果の報告だった。介入研究と縦断的研究の特徴は以下のとおり。
介入研究
介入研究は全体で約2,400人が研究に参加し、スポーツの競技数は19種で、フットボール(サッカー)、ランニング、水泳、アルペンスキー、ハンドボール、自転車、登山、バレーボール、空手、ラグビー、バスケットボール、バドミントン、テニス、卓球、柔道、ゴルフ、馬術、テコンドーなどたった。29件の論文は男性のみを解析対象とし、27件は女性のみ、24件は男性と女性の双方を対象としていた。
縦断的研究
縦断的研究は全体で約264万人を対象としており、競技数は18種で、バドミントン、バスケットボール、自転車、ボクシング/空手、サッカー、ゴルフ、ホッケー、アイススケート、ラケットボール、ボート、ランニング、野球、スキー、水泳、卓球、テニス、バレーボールなどだった。9件の論文は男性のみを解析対象とし、5件は女性のみ、42件は男性と女性の双方を対象としていた。
スポーツの種類ごとに健康アウトカムへ異なる影響
介入研究のデータを用いたメタ解析では、自転車、サッカー、ハンドボール、ランニング、水泳の健康リスクマーカーとの関連が解析されている。縦断的研究のデータを用いたメタ解析では、自転車、ランニング、水泳と死因別死亡リスクとの関連が解析されている。
介入研究のメタ解析結果
自転車競技
自転車競技については、体重、BMI、収縮期/拡張期血圧との関連が解析され、いずれに対しても有意な影響は認められなかった。
サッカー
サッカーについては、体重、BMI、体脂肪量・率、除脂肪体重などの体格関連指標のほかに、血液検査による糖・脂質代謝関連指標、血圧、VO2、骨代謝などとの関連が解析された。それらのうち、体重、BMI、体脂肪量・率、LDL-コレステロール、空腹時血糖値、収縮期/拡張期血圧、安静時心拍数、VO2max、骨塩量は、有意に良好な影響が観察された。一方で除脂肪体重、HDL-コレステロール、中性脂肪、最大心拍数、骨密度、カウンタームーブメントジャンプには、有意な影響は認められなかった。
ハンドボール
ハンドボールについては、体格関連指標のほかに、脂質代謝関連指標、血圧、安静時心拍数、VO2などとの関連が解析された。それらのうち、体脂肪量・率とVO2maxは、有意に良好な影響が観察された。一方で体重、除脂肪体重、脂質代謝関連指標、血圧、安静時心拍数には、有意な影響は認められなかった。
ランニング
ランニングについても、ハンドボールとほぼ同様の指標との関連が解析され、体脂肪量・率とVO2maxは、有意に良好な影響が観察された。また安静時心拍数についても有意に良好な影響が観察された。一方で体重、BMI、除脂肪体重、脂質代謝関連指標、血圧には、有意な影響は認められなかった。
水泳
水泳については体脂肪率と脂質代謝関連指標との関連が解析され、LDL-コレステロールへの影響が非有意であったことを除いて、体脂肪率、HDL-コレステロール、中性脂肪などには有意に良好な影響が観察された。縦断的研究のメタ解析結果
自転車
自転車については、全死亡(あらゆる原因による死亡。HR0.79〈95%CI;0.73~0.84〉)、癌死(HR0.90〈0.85~0.96〉)、心血管死(HR0.80〈0.74~0.86〉)などの死亡リスク低下との関連が認められた。
ランニング
ランニングについては、全死亡(HR0.77〈0.70~0.85〉)、癌死(HR0.80〈0.72~0.89〉)、心血管死(HR0.73〈0.57~0.94〉)のリスクとの関連が解析され、すべて有意なリスク低下が認められた。
水泳
水泳については全死亡リスクとの関連が解析され、有意なリスク低下が認められた(HR0.76〈0.63~0.92〉)。著者らは、本研究で解析が行われたスポーツ以外の競技について、「身体的健康上のメリットについてのメタ解析を可能にするためには、さらなる研究が必要とされる」と述べるとともに、「この領域における将来の介入研究は、評価の盲検化と交絡に対するより適切な調整が求められ、また脱落率を減らす努力を要する」と付け加えている。
文献情報
原題のタイトルは、「Health Benefits of Different Sports: a Systematic Review and Meta-Analysis of Longitudinal and Intervention Studies Including 2.6 Million Adult Participants」。〔Sports Med Open. 2024 Apr 24;10(1):46〕
原文はこちら(Springer Nature)