生まれた時の体重は成人後の生活習慣病リスクと有意に関連 40~74歳の日本人、約11万人を調査
出生児体重と成人期後期の生活習慣病リスクが有意に関連しているとする研究結果が報告された。国立がん研究センター 予防研究グループの研究によるもので、研究の成果が日本疫学会発行の「Journal of Epidemiology」に論文掲載されるとともに、同センターのサイトにニュースリリースが掲載された。
日本での低出生体重児の増加は、今後の疾患構成にどのように影響するのか?
同センターでは、生活習慣や生活環境と、がんなどの生活習慣が関係する疾病との関連を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っている。今回の発表は、平成23~28年(2011~16年)に、次世代多目的コホート研究(Japan Public Health Center-based Prospective Study for the Next Generation;JPHC-NEXT)の対象地域に居住していて、本研究の参加に同意した40~74歳の成人約11万人を対象に、出生体重と心血管疾患を含む五つの生活習慣病の既往歴との関連を調べた結果。
低出生体重は、生活習慣病、とくに心血管疾患、高血圧、糖尿病のリスク因子になることがヨーロッパを中心とした疫学研究で報告されているが、日本人の大規模集団では調べられていなかった。国内では1980年から2000年にかけて低出生体重児の割合が約2倍に増加したため、1980年以降に出生した世代が成人期後半を迎えるにあたって、生活習慣病の発症が増加することが懸念されている。
そこで、出生体重と成人期後期(40~74歳)における心血管疾患を含む5種類の生活習慣病の既往歴との関連を調べた。なお、出生体重と成人期後期の生活習慣病との関連を報告したのは、本邦ではこれが初めて。
研究方法の概要
ベースライン調査で実施したアンケートから把握した出生体重によって、対象者を五つのグループ(1.5kg未満、1.5~2.4kg、2.5~2.9kg、3.0~3.9kg、4.0kg以上)に分類。同じアンケートから、心血管疾患、高血圧、糖尿病、高脂血症、痛風という5種類の生活習慣病の既往歴を把握し、出生体重が3.0~3.9kgのグループを基準として、調整有病率比(adjusted prevalence ratio)を算出した。
なお、解析の際には、年齢、出生年、性別、教育歴、循環器疾患の家族歴、10歳時点の受動喫煙、ベースライン調査時の身長、年長の兄弟姉妹の有無について、統計学的に調整した。
低出生体重は心血管疾患・高血圧・糖尿病と関連
解析の結果、出生体重が低いことは心血管疾患(図1)、高血圧(図2)、糖尿病(図3)の既往歴と有意な関連を認めた。出生体重が低いことと高脂血症の既往歴の間には弱い関連を、痛風との間には関連を認めなかった。
図1 心血管疾患(心筋梗塞、脳梗塞など)を経験したことがある割合
図2 高血圧を経験したことがある割合
図3 糖尿病を経験したことがある割合
今回の研究結果からわかること
本研究の結果は、これまで主にヨーロッパで報告されていた、出生体重が生活習慣病のリスク因子の一つであるという報告と同じ結果だった。複数の研究の結果をまとめたメタアナリシスでは、出生体重が2.5kg未満の人は、2.5kg以上の人よりも心血管疾患のリスクが1.3倍高いことが示されている。
本研究では、出生体重3〜3.9kgの人を基準とすると、心血管疾患は1.5~2.5kgの人は1.25倍(95%信頼区間1.12~1.39)、1.5kg未満の人は1.76倍(同1.37~2.26)と、調整有病率比が高いことが示された(図1)。心血管疾患のリスク因子である高血圧、糖尿病についても、出生体重が少ない人の調整有病率比が高いという結果となった(図2~3)。
低出生体重は、早産や胎内での栄養不良といった環境を反映していると考えられている。つまり本研究は、胎児期の環境因子が成人期の生活習慣病のリスクになることを示している。
妊娠中の低栄養から生じる代謝ストレスが引き金となり、胎児にエピジェネティックな変化、レプチンの低下、ネフロン数の減少、インスリンシグナル経路の変化などを引き起こし、それが出生後の栄養過多(胎児期と比較した相対的な過多も含む)と相まって、成人期の糖尿病、高血圧、心血管疾患を引き起こす一因となるという機序が想定されている。
なお、本研究はサンプルサイズが大きいことが特徴だが、出生体重は自己申告に基づくことが研究の限界点として挙げられる。しかし、自己申告による出生体重は実際の出生体重とよく相関するということが、別の研究で示されている。
このほか、本研究における出生体重と心血管疾患の関連は、回答者が生存していて、かつ調査に参加できるだけの健康を有する人に限られているため、選択バイアスが存在することに注意が必要。さらに、本研究の参加者は1937~1977年生まれの人で、低出生体重児の増加が問題となっている最近の世代とは、低出生体重児となった原因が異なる可能性もあることに留意しなければならない。
研究グループでは、「今後はより最近の世代を対象とした研究が必須と考えられる」としている。
関連情報
自身の出生体重と成人期後期の生活習慣病の関連について (国立がん研究センター 予防研究グループ)
文献情報
原題のタイトルは、「Association between birth weight and prevalence of cardiovascular disease and other lifestyle-related diseases among Japanese population: JPHC-NEXT Study」。〔J Epidemiol. 2023 Nov 18〕原文はこちら(J-STAGE)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jea/advpub/0/advpub_JE20230045/_article