炭水化物を摂取しても運動に伴うFABP4の上昇は抑制されない 健康な男性でのクロスオーバー試験
脂質代謝等にかかわるタンパク質であり、代謝性疾患のリスクとの関連が近年注目されている脂肪酸結合タンパク質4(FABP4)は、運動に伴う急性反応として上昇することが報告されているが、その上昇は運動前に炭水化物を摂取したか否かにかかわらず生じるとする研究結果が報告された。著者らは、インスリン分泌の亢進による脂肪分解の抑制は、運動によるFABP4上昇の抑制につながらないと考えられると結論づけている。鹿屋体育大学スポーツ生命科学系の沼尾成晴氏らの研究によるもので、「BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation」に論文が掲載された。
運動は健康に良いものの、急性反応として種々のリスクマーカーが一過性に上昇する
脂肪酸結合タンパク質4(fatty acid-binding protein 4;FABP4)は、脂肪酸の輸送や代謝にかかわるタンパク質で、脂肪細胞やマクロファージに高発現しており、血中のFABP4レベルが高いことが種々の疾患リスクと関連することが明らかになってきている。外因性にFABP4を投与すると肝臓でのグルコース産生が増加することや、単離された心筋細胞の収縮振幅がFABP4への急性曝露によって減弱することなども報告されており、血中FABP4レベルの上昇を抑制することが、疾患リスクの低減につながると理解されている。ただし、血中FABP4レベルの動態については不明点が多く残されている。
一方、健康の維持・増進に対する運動の有効性に関しては多くのエビデンスがあり、とくに有酸素運動を習慣的に続けた場合に、糖・脂質代謝や血圧などの心血管代謝マーカーが改善することがよく知られている。ただし、運動に伴う急性の反応として、炎症マーカーや血圧・血糖などの一過性の上昇がしばしば観察される。これまでの研究でFABP4も同様に、運動に伴う急性反応として上昇することが報告されている。
このような運動に伴うFABP4の上昇は、運動時のエネルギー基質として脂肪分解が促進されるために発生する可能性が想定される。もし、運動時のインスリンレベルが高い状態であれば、インスリンは脂肪の合成を促進して分解を抑制するように働くことから、運動に伴うFABP4の一過性の上昇が抑制される可能性がある。とは言え、そのような視点での検証はこれまで行われていない。沼尾氏らは、以上のような理論的な仮説の下で、この疑問に関する以下の検討を行った。
クロスオーバー試験で運動に伴うFABP4の変化を比較
この研究は、習慣的にトレーニングを行っていない13人の健康な若年男性を対象とする、クロスオーバー試験として実施された。年齢が18歳未満または40歳以上、糖・脂質代謝異常を有する者、現喫煙者は除外した。また、女性は代謝への月経周期の影響のため結果解釈が困難になる可能性があることから除外した。
7人と6人に二分し、1群は炭水化物摂取(carbohydrate-ingestion exercise;CE)条件、他の1群は空腹(fasted exercise;FE)条件で自転車エルゴメーターによる運動負荷試験を行い、FABP4および糖・脂質関連パラメーターの変動を把握。1週間のウォッシュアウト期間の後、条件を切り替えて試行した。研究参加者の主な特徴は、年齢22.2歳(範囲21~28)、BMI23.3±1.6、体脂肪率16.5%、VO2peak38.1±2.4mL/kg/分。
運動負荷試験は前夜から12時間以上の絶食後に行われ、CE条件ではマルトデキストリンゼリーを0.8g/kg摂取し30分安静の後、40%VO2peakで40分の負荷を課した。運動開始直前と開始20分後にも、マルトデキストリンゼリーを0.4g/kg摂取させた。一方、FE条件では何も摂取せずに同様の負荷を課した。なお、両条件ともに水は自由に摂取可とした。また、各条件の試験3日前からは同じ食事を摂取し、24時間前からは激しい運動を控えるように指示した。
では、主な結果をみていこう。
運動強度とエネルギー基質の酸化
運動負荷前、および負荷中の10分おきにVO2、呼吸交換比(respiratory exchange ratio;RER)、消費エネルギー量、炭水化物と脂質の酸化を測定した。
VO2と消費エネルギー量は条件間に有意差がなく、RER(p=0.014)と炭水化物酸化(p=0.011)は炭水化物摂取(CE)条件のほうが高値、脂質の酸化は空腹(FE)条件のほうが高値(p=0.003)で推移した。
内分泌代謝関連パラメーターの変化
内分泌代謝関連パラメーターとして、運動負荷前と負荷終了直後、30分後、60分後の採血によりアドレナリン、ノルアドレナリン、グリセロール、遊離脂肪酸(free fatty acid;FFA)、インスリン、血糖値を測定した。
これらのうち、負荷終了直後において、アドレナリンとグリセロールはFE条件のほうが有意に高く、ノルアドレナリンはCE条件のほうが有意に高値であり、負荷終了直後以外のポイントではそれらの三つの指標に有意差は認められなかった。
遊離脂肪酸(FFA)についてはFE条件ではベースラインから有意な変化がなく、一方でCE条件では負荷終了直後から60分後にかけて有意に低下し、CE条件との比較でも有意に低い値で推移していた。インスリンに関しては、FE条件ではベースラインから有意な変化がなく、一方でCE条件では負荷開始前から負荷終了60分後にかけて有意に上昇し、CE条件との比較でも有意に高い値で推移していた。これにより、CE条件ではインスリン分泌亢進に伴い脂肪酸化の抑制、炭水化物酸化の亢進が生じていたことが裏付けられた。なお、血糖値もCE条件でのみ上昇し、条件間に有意差が観察された。
FABP4の推移と、グリセロールや遊離脂肪酸(FFA)との相関
FABP4は、両条件ともに運動負荷終了30分後と60分後において、ベースラインより有意に上昇していた(CE条件では30分後に77.9%、60分後に62.0%上昇、FE条件では同順に64.3%、63.2%上昇)。ただし、条件間の差は非有意だった。
運動負荷前後でのFABP4の変動幅と、グリセロールやFFAの変動幅との相関を検討したところ、いずれも有意な相関は認められなかった。
炭水化物を摂取しても、運動負荷に伴うFABP4レベルの一過性上昇は抑制されない
まとめると、健康な若年男性を対象とした本研究から、有酸素運動によってFABP4レベルが上昇すること、運動負荷前の炭水化物摂取によってインスリン分泌が亢進し、エネルギー基質は炭水化物中心になり脂肪分解は抑制されるものの、FABP4レベルの上昇は抑制されないことが示された。
炭水化物摂取条件では空腹条件に比べて脂肪分解が少ないにもかかわらず、FABP4レベルの変動に有意な影響が生じない理由について、著者らは「不明」としながらも、既報研究からの考察として、運動中のアドレナリンとノルアドレナリンの上昇による脂肪分解刺激が、インスリンによる脂肪分解抑制作用を部分的に打ち消すように働く可能性を挙げている。
文献情報
原題のタイトルは、「Carbohydrate ingestion does not suppress increases in fatty acid-binding protein 4 concentrations post-acute aerobic exercise in healthy men: a randomized crossover study」。〔BMC Sports Sci Med Rehabil. 2024 Mar 4;16(1):63〕
原文はこちら(Springer Nature)