EAAサプリが有酸素運動による認知機能向上効果の一部を高める 若年成人でのクロスオーバー研究
有酸素運動が認知機能に対して保護的に働くことが知られているが、必須アミノ酸サプリメントの摂取を併用することで、その効果をより高められる可能性を示唆する、ヒト対象の研究結果が報告された。立命館大学大学院スポーツ健康科学研究科の橋本健志氏らと味の素株式会社との共同研究によるもので、「Scientific Report」に論文が掲載された。
EAAは運動による身体機能の向上だけでなく、認知機能向上効果も高めるのか?
認知症の増加は世界的な健康課題となっており、認知機能を改善する効果的な薬剤のない現状において、薬物介入以外の方法で認知機能を改善し得る手段の模索が精力的に続けられている。なかでも有酸素運動の有用性については既に多くのエビデンスによって支持されている。
有酸素運動を行う際に、適切な栄養素摂取を組み合わせることで、身体機能に対する効果がより向上することが知られている。例えば、必須アミノ酸(essential amino acid;EAA)、なかでも分岐鎖アミノ酸(branched chain amino acids;BCAA)は、運動による筋タンパク質合成刺激を高めるため、アスリートならびに高齢者においても活用される。
一方、EAAは動物実験において、脳萎縮の抑制や神経伝達物質欠乏の改善などの作用が報告されており、ヒトを対象とする研究でも注意力などを改善する可能性が示されている。ただし、有酸素運動の認知機能、特に高次な認知機能(実行機能や記憶機能)に対する効果をEAAがより高めるのかどうかは不明。今回の橋本氏らの研究は、このような視点で行われた。
若年男性を対象に二重盲検クロスオーバー法で検討
研究参加者は若年男性22人(22±2歳、VO2peak 42±5mL/分/kg)。疾患罹患者や認知機能に影響を及ぼし得る薬剤の服用者は除外されており、また後述の認知機能テストのため、色覚異常や視力低下等のある者も除外されている。
試験デザインは、プラセボ対照二重盲検クロスオーバー法で、各条件の試行には1週間のウォッシュアウト期間を設けた。研究期間中、参加者には激しい運動を控えるよう指示し、またテスト試行の24時間前からはカフェイン、アルコールの摂取を禁止した。
研究に用いた必須アミノ酸(EAA)サプリおよびプラセボはどちらも4.7g。EAAサプリの組成は、ロイシン(1.61g)、イソロイシン(0.43g)、バリン(0.44g)というBCAA主体で、プラセボはマルチトール(4.3g)に香料など。
有酸素運動は自転車エルゴメーターにより、中強度(60%VO2peak)で30分とした。
認知機能の評価方法
認知機能は、実行機能と再認記憶力を評価した。
実行機能の評価には、カラーワードストループテスト(color-word Stroop task;CWST)を用いた。これは、ディスプレー上にランダムで表示される4色(赤、青、緑、黄色)の色の名前(文字そのものの色ではなく文字の意味)を、できるだけ速く正確に回答するというもの。
再認記憶力の評価には、ディスプレー上に表示される30語の単語を記憶してもらい、その5分後に表示される60語の中から、5分前に表示された30の単語をできるだけ速く正確に選択するというテスト(memory recognition task;MRT)を用いた。
CWSTとMRTは、ベースライン(サプリまたはプラセボ摂取前)と有酸素運動終了後に施行し、またCWSTは摂取15分後(有酸素運動を行う前)にも施行した。
その他の測定項目
上記のほかに、ベースライン、サプリ摂取15分後、および有酸素運動後に採血し、脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor;BDNF)や各種アミノ酸のレベルを測定した。また、有酸素運動中には心拍数と自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)をモニタリングした。
有酸素運動後の実行機能はEAAサプリ摂取条件の方が優れていた
論文では前述の評価項目の解析結果が詳細に述べられているが、ここでは主要なポイントに絞って紹介する。
まず、認知機能に着目すると、実行機能は両条件ともにベースラインに比べて有酸素運動後に改善していた(p<0.01)。条件間の差は非有意だったが、条件と時間の相互効果は有意水準に近い差が観察されたことから(p=0.06)、アドホック解析(評価項目として事前に設定されていなかった解析)として、ベースラインから有酸素運動の前と後にかけての実行機能の変化(CWSTのスコアの変化)を条件間で比較した。
すると、有酸素運動の前までの変化は条件間の差がない一方(p=0.33)、有酸素運動後までの実行機能の変化は、EAA条件の方が優れていることが確認された(p=0.02)。
一方、再認記憶力に関しては、条件間の差は認められなかった。
実行機能の上昇は血中アミノ酸濃度と相関
続いて、ベースラインから有酸素運動後までの実行機能の変化(CWSTのスコアの変化)と血中EAA濃度との関連を検討。すると、CWSTスコアの改善幅は、ロイシン、イソロイシン、バリン、リジン、フェニルアラニンの血中濃度と有意に相関していることが示された(すべてp<0.05)。
これらのEAAは脳内の神経伝達物質であるドパミンやノルアドレナリン、グルタミン酸などの前駆体として使われる。著者らは論文の考察において、「EAAサプリの摂取によって神経伝達物質が増え、それが有酸素運動による認知機能改善効果を押し上げるのではないか」と述べている。
研究の限界点として、有酸素運動を行わない対照群を設定していないこと、および有意な結果の一部はアドホック解析によるものであることなどを挙げたうえで、「有酸素運動の前にEAAを摂取することが、認知機能のうちの実行機能を改善する戦略になる可能性がある」との結論がまとめられている。
文献情報
原題のタイトルは、「Essential amino acid supplements ingestion has a positive effect on executive function after moderate-intensity aerobic exercise」。〔Sci Rep. 2023 Dec 19;13(1):22644〕
原文はこちら(Springer Nature)