日本人女性の乳がんリスクは長時間の座りっぱなし生活が続くと高く、運動してもリスクは低下しない
日本人を対象とした大規模研究から、座っている時間が1日7時間以上の場合、乳がん罹患リスクが上昇することが初めて明らかになった。また、そのような集団では、余暇の運動量、余暇の運動頻度、1日の歩行時間のいずれも、乳がん罹患の予防効果が認められないという。京都府立医科大学大学院の研究グループの研究によるもので、「Cancer Science」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。
研究の概要
京都府立医科大学大学院の研究グループは、日本多施設共同コホート研究(J-MICC STUDY)の一環として、座っている時間と乳がん罹患の関係について研究を行った。3.6万人を超える日本人女性を9.4年間(中央値)追跡したデータを用い、世界で最も長い時間を座位で過ごすと言われている日本人について、1日7時間以上座っていることが乳がん罹患リスクを上昇させることを解明した。
日本人を対象とした過去のコホート研究では、余暇の運動や1日1時間以上の歩行時間と乳がん罹患リスク低下の関連が示されていた。しかし今回の研究結果では、1日7時間以上座って過ごしている集団においては、余暇の運動量、余暇の運動頻度、1日の歩行時間のいずれも乳がん罹患の予防効果を認めなかった。研究グループでは、「座っている時間を1日7時間未満にすると、乳がん予防の一つとなる。運動をまとめて行うよりも、こまめに行うことが効果的と考えられる」と述べている。
研究の背景と目的:座位時間が世界一長い日本人の乳がんリスクとは
乳がんは日本人女性で罹患率が最も高いがん。がんは生活習慣、環境要因、遺伝子など、さまざまな原因が組み合わさることで発症するが、35%ほどは生活習慣を改善することで予防できると言われている。日本人の乳がん罹患の原因のうち、およそ5%は運動不足に起因していると言われ、運動は乳がん罹患のリスクを下げる効果がある。しかし、年齢や性別、体格に差があるため、「一人ひとりの適度な運動量」を明確に提示することは困難。
近年、長時間の座位行動(横たわるなども含む)は、健康に悪影響を与えるものとわかってきており、2020年に改定されたWHO身体活動・座位行動のガイドラインにおいても「健康を害する行動」として位置づけられ、座位行動を減らすように推奨されている。また他国ではガイドラインを作成するなど、座位時間を少なくする対策が進められている。
国際標準化身体活動質問票2011年のデータ(日本人は約5,000人)によると、日本人の座位時間は、世界で一番長く、中央値は1日当たり7時間という結果が出ている(図1)。座位時間とがん罹患の関連についても指摘され始めているが、1日の座位時間と乳がん罹患の関係を示した報告はまだない。
図1 国別の座位時間
本研究では座位時間と乳がん罹患の関連を明らかにし、さらに運動することがその関連の解消になるかについて分析を行った。
研究内容・成果の要点:座位7時間以上では余暇時間の運動でリスクが相殺されない
本研究では3万6,000人を超える日本人女性を9.4年間(中央値)追跡したデータを用いて、1日の座位時間と乳がん罹患の関係を分析した。さらに、余暇の運動量として代謝当量(METs[hour/day])、余暇の運動頻度、1日の歩行時間と座位時間を掛け合わせた影響を分析した。
追跡期間中に554人の乳がん罹患が認められた。1日あたりの座位時間が7時間未満の集団と比較し、7時間以上の集団のほうが乳がん罹患リスクは36%高い結果となった。しかし、座る時間が長くなるほど乳がんの罹患リスクが上がり続けるわけではなかった(図2)。
図2 1日の座位時間と乳がん罹患リスク
次に、身体活動に関する項目と座位時間と乳がん罹患の関係を掛け合わせて解析した。
1日あたりの座位時間が7時間以上の集団は、余暇時間でのMETs 1 hour/day(1週間あたり1時間のジョギングをする運動量に相当する)以上の運動、余暇に週3回以上の運動、1日1時間以上の歩行などのいずれの身体活動を行っている場合においても、座位時間7時間未満の集団より、乳がん罹患リスクが高い結果となった(図3~5)。
図3 1日の座位時間×余暇の運動量と乳がん罹患リスク
図4 1日の座位時間×余暇の運動頻度と乳がん罹患リスク
図5 1日の座位時間×1日の歩行時間と乳がん罹患リスク
今後の展開と社会へのアピールポイント:在宅勤務ではこまめに体を動かすことを推奨
本研究は日本人女性における1日の座位時間と乳がん罹患との関連を評価した初の大規模研究。1日あたり7時間以上座って過ごすと乳がんリスクが36%上昇することがわかり、この結果は世界で最も長い時間を座位で過ごすと言われている日本人にとって重要。
また、1日7時間以上の座位時間では、余暇の運動や1日の歩行時間が増えても乳がん罹患リスクは低下していなかった。この結果は、乳がん罹患に対して、座位時間が運動よりも強い影響を与える要因である可能性を示している。
今回の研究で、1日あたりの座位時間を7時間未満にすることは、乳がん予防の一つとなることが明らかになった。研究グループでは以前にも座位時間の延長と死亡リスクの増加を報告しており、女性のみならず男性においても長すぎる座位時間を短縮することが推奨されている。
コロナ禍からのテレワーク普及により、今後も在宅業務による家庭内デスクワークの継続導入が予測される。在宅業務は、通勤時間が削減されるため、運動不足に加え、座っている時間の延長につながる可能性がある。
今回の結果より、普段の座りっぱなしによる運動不足を解消するために、余暇の時間にまとめて運動することよりも、普段から座位時間を短縮し、こまめに運動を取り入れることが効果的であると考えられる。研究グループでは、「座りっぱなしに気がついたら立ち上がってストレッチをしてみる、普段の移動にエスカレーターではなく階段を使ってみる、隙間時間に体操をしてみるなど、日々の小さな心がけで健康を維持していくと良いのでないか」としている。
なお、J-MICC STUDYは現在も進行中の研究であり、がん罹患や死因などの追跡調査を行っているため、乳がんのみならず他のがんと座位時間の関連も今後解明されていく可能性があるとのことだ。
プレスリリース
【論文掲載】座りすぎに注意! 1日7時間以上座っていると乳がん罹患リスクが上昇 ~1日7時間以上の座位時間では、運動を増やしても乳がん罹患リスクは低下しない~(京都府立医科大学)
文献情報
原題のタイトルは、「Seven-plus hours of daily sedentary time and the subsequent risk of breast cancer: Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study」。〔Cancer Sci. 2024 Feb;115(2):611-622〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)