ICU患者へのタンパク質1.2g/kg以上の投与で、筋肉量が維持されて死亡率が低下 オランダの研究
ICU(Intensive Care Unit。集中治療室)の患者に対してタンパク質を1.2g/kg以上投与すると、筋肉量の減少が抑制されるだけでなく、60日死亡率が有意に抑制されるとするメタ解析の結果が報告された。オランダの栄養学研究者らの研究によるもの。
ICU患者へタンパク質の投与はもろ刃の剣の可能性もある
ICUに入室中の患者は急速に筋肉量の減少が進行し、退室後の回復遅延、QOL低下の遷延などにつながる。これに対してタンパク質の投与が筋肉量減少の抑制や体質後のQOLの改善につながる可能性があるが、一方で高用量のタンパク質投与によってオートファジーが抑制されるという負の影響が生じる懸念もある。そのため、ICU患者に十分なタンパク質を投与することが予後にとって良いのかそうでないのか、現在のところ明確にされていない。
今回紹介する論文の研究は以上を背景として、これまでに行われたこのトピックに関連する研究報告のシステマティックレビューとメタ解析により、タンパク質1.2g/kg以上と未満のいずれが優れているのかが検討されている。
システマティックレビューの手法について
文献検索は、PubMed、Embase、コクランライブラリーなどに2002~2022年10月19日に収載された論文を対象として、2人の研究者が独立して行った。包括基準は、18歳以上の患者を対象とする研究で、ICU滞在期間が2日以上であり、タンパク質の平均投与量1.2g/kg以上または未満での比較分析が可能であって、両群間の平均投与量の差が0.2g/kg以上開いている研究。症例報告、症例対照研究、学会発表、レビュー、総説、および英語以外で執筆されている論文、全文を入手できない論文は除外した。
一次検索で3,306報がヒットし、参考文献のハンドサーチで1,541報を追加後、重複削除とタイトル・アブストラクトに基づくスクリーニングで269報に絞り込んだ後に全文精査。最終的に、日本からの4報を含む29報の研究論文が的確と判断された。このうち無作為化比較試験が14件、前向き観察研究が5件、後方視的観察研究が8件であり、2件は前向き研究と後ろ向き研究を統合して行っていた。
合計患者数は7,190人で、そのうち1,972人に1.2g/kg以上のタンパク質が投与され、5,218人は1.2g/kg未満が投与されていた。
主要評価項目は死亡率とされた。死亡率以外には、3件以上の研究で検討されていたすべてのアウトカムについてメタ解析を行った。抽出された報告の大半は経腸栄養としてタンパク質が投与されており、経口栄養が併用されていた研究は4件だった。ICU入室理由は、術後管理、脳損傷、敗血症、新型コロナウイルス感染症などさまざまだった。
複数の評価項目で高タンパク質投与を支持する結果
死亡率
死亡率は、25件の研究で報告されていた。28日死亡率が10件で比較され、30日死亡率および42日死亡率が各1件、60日死亡率および90日死亡率が各4件、6カ月死亡率が3件で比較されていた。
高用量のタンパク質投与を支持する有意な結果が、60日死亡率でのみ認められた(リスク比〈risk ratio;RR〉0.72〈95%CI;0.52~0.99〉、p=0.32)であり、異質性(I2統計量)は0.14%で低かった。60日以外での死亡率はすべて信頼区間が1を跨いでおり非有意だった。
窒素バランス
窒素バランスは、5件の研究で検討されていた。窒素バランスが評価されたタイミングは、入院2~4日目の間の1回である場合や、入院期間全体の累積または平均など、さまざまだった。メタ解析からは、高用量タンパク質投与を支持する結果が得られた(標準化平均差〈standardized mean difference;SMD〉1.2〈95%CI;0.3~2.1〉)。ただし、研究間の高い異質性が観察された(I2=92%)。
筋肉量の変化
筋肉量の変化は6件の研究で評価されていた。評価手法は、CTスキャンによる大腿四頭筋の断面積、超音波検査での大腿四頭筋層組織、上腕周径などが用いられていた。また評価時点は、ベースラインが入院当日か2日以内であり、その後5週間目までの間で変化量を割り出していた。メタ解析の結果、高用量タンパク質投与を支持する結果が得られた(SMD0.8〈95%CI;0.4~1.3〉)。I2統計量は71%であり、研究間の異質性がやや高かった。
その他の検討されていた指標
上記のほかに、3件以上の研究で評価されていたアウトカムとして、ICU滞在期間または入院期間、人工呼吸器管理期、退院時転帰、肺炎を含む感染症の発症、身体パフォーマンス、メンタルヘルスなどが検討されていた。それらは有意な群間差が示されなかった。
急性腎障害(AKI)では高用量タンパク質投与が逆効果のことも
これらの結果を基に著者らは、「ICU入室患者において、1.2g/kg以上の高用量のタンパク質の投与が、窒素バランスや短期的な筋萎縮抑制などの栄養上のアウトカムを改善し、また生存率を向上させる可能性があるようだ。ただし、後者の点について有意差は、60日生存率でのみ認められた」と総括している。なお、既報研究からの考察として、「急性腎障害(acute kidney injury;AKI)を来した場合は高用量タンパク質の投与の負の側面が強く現れる可能性があり、また敗血症患者では高用量タンパク質の投与のメリットを得られない可能性がある」と述べられている。
文献情報
原題のタイトルは、「High protein provision of more than 1.2 g/kg improves muscle mass preservation and mortality in ICU patients: A systematic review and meta-analyses」。〔Clin Nutr. 2023 Dec;42(12):2395-2403〕
原文はこちら(Elsevier)