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BMIと認知症リスクの関連、50歳前後で変化する可能性 日本人対象「JPHC研究」からの知見

国立がん研究センターなどによる多目的コホート研究(JPHC研究)から、日本人のBMIと認知症リスクとの関連が報告された。「Alzheimer's & dementia」に論文掲載されるとともに、国立がん研究センターのサイトにニュースリリースが掲載されたので紹介する。中年期と初期高齢期では、この関連が異なり、前者ではBMI高値、後者ではBMI低値の場合に認知症リスクが高いことや、中年期以降の体重増加と体重減少はいずれも認知リスクと有意な関連があるが、体重減少との関連のほうがより強いことなどが示されている。

50歳よりも前と後で、BMIと認知症リスクとの関連が異なる可能性 日本人対象「JPHC研究」からの知見

日本人のBMIや体重変化と認知症リスクとの関連を年齢層別に解析

国立がん研究センターの研究グループでは、生活習慣とがん・脳卒中・心筋梗塞などとの関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防と健康寿命の延伸に役立てるための研究を継続して行っている。

今回発表された研究は、平成2年(1990年)に秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部の3保健所管内に、また平成5年(1993年)に茨城県水戸と高知県中央東の2保健所管内(保健所の呼称は2019年時点)に居住し、年齢が40~59歳であった人のうち、研究開始時のアンケートと10年後のアンケートの両方に回答した約3万7千人の男女を対象とした。2件のアンケートから求めた、体格指数(Body Mass Index;BMI)および体重変化と、アンケート回答後の平成18年(2006年)~28年(2016年)までの介護保険要介護認定情報から把握した要介護認知症(以下「認知症」)との関連を調べた。

これまでの研究で、肥満と認知症の関連は年齢によって異なることが指摘されている。中年期の肥満は認知症のリスク因子であるとされる一方、高齢期の肥満は認知症のリスクとは関連せず、むしろ中年期から高齢期にかけて体重が減った人のほうが認知症を発症しやすいとする研究が多くみられる。ただし、これらの知見の多くは肥満者が多い欧米からの報告に基づいており、欧米人に比べて体格が小さいアジア人を対象とした研究や、中年期においてやせていることの認知症リスクに関する研究は不足していた。また、体重と認知症の関連について男女差があるかについては一致した見解は得られていない。

そこでJPHC研究のデータを用いて、中年期と高齢期初期それぞれの時期におけるBMI、および中年期から高齢期初期へかけての体重の変化に着目し、その後の認知症リスクとの関連を男女別に検討した。

研究方法の概要

BMIと認知症の関連を調べる際には、研究開始時および10年後のアンケートへの回答から、それぞれの時点におけるBMIを、(1)やせ(14.0~18.9)、(2)やせ気味(19.0~22.9)、(2)標準体重(23.0~24.9)、(4)過体重(25.0~26.9)、(5)肥満(27.0~39.9)という五つのグループに分けた。

一方、体重変化と認知症の関連を調べる際には、10年間の体重の変化率[(10年後の体重-研究開始時の体重)/研究開始時の体重×100]を男女別に四分位数に基づき4群に群分けしてから、(1)体重減少群(第1四分位群:男性は-3.44%以下、女性は-3.70%以下)、(2)体重変化なし群(第2~3四分位群:男性は-3.44%~+4.00%、女性は-3.70%~+4.26%)、(3)体重増加群(第4四分位群:男性は+4.00%超、女性は4.26%超)という3群に分けた。

解析では、地域、年齢、喫煙状況、飲酒状況、降圧薬の内服、糖尿病の既往、脳卒中の既往、虚血性心疾患の既往、消化管潰瘍の既往について、統計学的に調整し(体重変化の解析では研究開始時のBMIも調整に加えた)、これらによる影響をできるだけ取り除いた。

中年期と高齢期初期とではBMIと認知症のリスクとの関連が異なっていた

平成18年(2006年)~28年(2016年)までに、3,019人(8.1%)が認知症と診断されていることを確認した。

図1の上半分が、研究開始時のBMIと認知症リスクとの関連について調べた結果。

図1 研究開始時および10年後調査時のBMIと認知症リスク

研究開始時および10年後調査時のBMIと認知症リスク

(出典:国立がん研究センター)

標準体重のグループと比較して、肥満のグループ(男女両方)に加え、やせ気味(男性)、やせ(女性)のグループでも認知症リスクが高いことがわかった。さらに、図1の下半分に示しているように、研究開始から10年経過した時点でのBMIについては、男女とも、やせのグループでのリスクが肥満のグループでのリスクよりも高い結果となった。

中年期からの体重増/減はいずれもリスクと関連するが、体重減がより強く関連

図2は、研究開始から10年間の体重変化と認知症リスクとの関連について調べた結果。

図2 研究開始時から10年間の体重変化と認知症リスク

研究開始時から10年間の体重変化と認知症リスク

(出典:国立がん研究センター)

体重変化なしのグループと比較して、男女とも体重増加、体重減少どちらのグループにおいても認知症リスクが高くなっていたが、体重減少のグループでのリスクは体重増加のグループでのリスクを上回っていた。

今回の研究からみえてきたこと

中年期の肥満とやせていることの両方が認知症リスクと関連すること、そして、中年期以後は、やせていることと認知症リスクとの関連がより強くなること、さらに、このことに矛盾しない結果として、中年期以後は体重増加よりも体重減少の方が認知症リスクとの関連が強いことを、日本人を対象とした研究で確認できた。また、これらの関連には男女差はみられなかった。

肥満の人では、認知症リスクを高める血管健康度の低下やインスリン抵抗性が生じやすく、また内臓脂肪の蓄積と関連するホルモンや炎症性サイトカインも認知症リスクに影響するとされている。一方、中年期以後の体重減少と認知症リスクとの関連についてはメカニズムが未解明。認知症では、認知機能低下の症状が現れるより前に、脳内の病理学的変化が起こるとされている。その結果、食欲をつかさどる脳の機能変化、また、嗅覚の変化や意欲の低下によって食事の摂取が減り、体重が減少する可能性が指摘されている。従って、体重減少は認知症の前段階の症状であり、体重減少そのものが認知症を引き起こすわけではないと考えられる。

今回の結果は、中年期以後の適正な体重維持が認知症予防につながること、とくに、中年期の体重減少に対して注意を払う必要があることを示している。なお、今回の研究では、中年期より前の時期の体重が認知症リスクに関連するかについては調べていないため、さらなる研究が必要。

関連情報

体格および体重変化と認知症との関連(国立がん研究センター 多目的コホート研究(JPHC Study))

文献情報

原題のタイトルは、「Body mass index, weight change in midlife, and dementia incidence: the Japan Public Health Center-based Prospective Study」。〔Alzheimers Dement (Amst). 2023 Nov 23;15(4):e12507〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)

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