夏季五輪での女性アスリートへのドーピング検査の実施状況と判定結果 3カ国(2地域)での比較
夏季オリンピック競技を行っている女性アスリートを対象として行われたアンチ・ドーピング検査の実施状況、および検出された禁止物質を、フランスとオーストラリア、ニュージーランドという3カ国のデータを用いて解析した結果が報告された。競技カテゴリーや国(地域)によって、使用される薬物の種類などの一部に異なる傾向が認められたという。
夏季五輪競技の女性アスリートのドーピングの実態に焦点を当てて調査
この研究報告に先立ち、昨年報告されたフランスでの研究によると、女性アスリートがドーピングを行う場合の薬物の使用量は男性アスリートの場合よりも少ないこと、使用する薬物の種類の傾向に差があることなどが示されている(doi: 10.3389/fspor.2022.839976)。しかし、その時の調査は、解析対象サンプル数が少なく、フランス1カ国のみの調査であり、かつ、違反が疑われる薬物が検出された報告(adverse analytical finding;AAF)の後に治療使用特例(therapeutic use exemption;TUE)が認められたケースが除外されておらず、実際のドーピングと判定された頻度を過大評価しているという限界点があったという。
このような限界点を補うために、オセアニア(オーストラリアとニュージーランドの2カ国。以下、AUS/NZと省略)の女性アスリートのデータを追加し、TUE審査の前後の比較、および地域による差異も含めた検討を行った。解析の基となるデータは、各国のアンチ・ドーピング機関から匿名化されたデータの提供を受けた。解析対象は夏季オリンピック競技アスリートの2013~2022年のデータ。
ドーピング検査の対象競技は同じような傾向、使用される薬物はやや異る傾向
検体採取状況
対象期間中に採取された検体数は、AUS/NZで1万799件、フランス(以下、FRと省略)で1万2,932件であり、どちらの国・地域でも競技別にみた採取検体数の上位は陸上競技、水泳、自転車だった(順位は異なる)。競技別にみた採取検体数と、総採取検体数に占めるその割合、および治療使用特例(TUE)審査前段階での違反が疑われる報告(AAF)件数の一部(採取検体数がAUS/NZとFRの双方で500件以上の競技)を抜粋して、競技名のアルファベット順に以下に示す。
水泳は、AUS/NZでは採取検体数1,160件、総採取検体数に占める割合10.7%、AAF件数2件、FRでは同順に957件、7.4%、10件。以下同順に、陸上競技はAUS/NZが1,481件、13.7%、6件、FRは3,794件、29.4%、28件。バスケットボールはAUS/NZが522件、4.8%、1件、FRは636件、4.9%、2件。自転車はAUS/NZが1,703件、15.8%、3件、FRは1,164件、9.0%、9件。フットボールはAUS/NZが841件、7.8%、2件、FRは646件、5.0%、1件。トライアスロンはAUS/NZが604件、5.6%、2件、FRは904件、7.0%、13件。重量挙げはAUS/NZが588件、5.4%、6件、FRは574件、4.5%、5件。
競技・地域別で最多のAAFはFRの陸上競技の28、次いで同じくFRのトライアスロンの13だった。
一方、アーチェリー、クライミング、馬術、空手、近代五種、セーリング、テコンドー、卓球という7競技は、AAFが報告されていなかった。
禁止薬物のカテゴリー別報告数、治療使用特例(TUE)審査前・後での比較
次に、禁止薬物のカテゴリー別の違反が疑われる報告(AAF)件数を、地域および治療使用特例(TUE)審査前と後で比較した結果をみてみよう。
オーストラリア/ニュージーランド(AUS/NZ)
AUS/NZではS1(蛋白同化薬)とS6(興奮薬)が、TUE審査前はともに11件であり、この二つで総数(30件)の3分の2以上を占めていた。これらのうち、蛋白同化薬が検出された11件の全例がTUE審後にドーピング行為と判定され、興奮薬の11件のうち3件はTUEが認められていた。
フランス(FR)
一方、FRではTUE審査前における最多カテゴリーはS9(糖質コルチコイド)の42件であった(AUS/NZでは2件のみ)。2位は興奮薬の14件、3位は蛋白同化薬とS5(利尿薬および隠蔽薬)がともに7件、5位はS2(ペプチドホルモン、成長因子、関連物質および模倣物質)、S3(β2作用薬)、S7(麻薬)がそれぞれ6件だった。
これらのうち、糖質コルチコイドが検出された42件中21件はTUE審後にドーピング行為と判定されていた。興奮薬が検出された14件、蛋白同化薬が検出された7件、利尿薬および隠蔽薬が検出された7件、ペプチドホルモン、成長因子、関連物質および模倣物が検出された6件、麻薬が検出された6件は、全例がTUE審後にドーピング行為と判定されていた。β2作用薬が検出された6件のうち2件はTUEが認められていた。
AAFが認められた検査のタイミング
違反が疑われる報告(AAF)のあった検査タイミングを競技会内/外で分けてカウントすると、AUS/NZ、FRともに競技会内で実施された検体採取での発見が多くを占めており、とくにFRではその傾向が強かった。詳細は以下のとおり。
AUS/NZでは、治療使用特例(TUE)審査前にAAFと判定されていた30件のうち20件が競技会内で採取された検体であり、TUE審査後にドーピングと判定されていた25件のうち15件が競技会内で採取された検体だった。
FRでは、TUE審査前にAAFと判定されていた95件のうち87件が競技会内で採取された検体であり、TUE審査後にドーピングと判定されていた72件のうち65件が競技会内で採取された検体だった。
著者らは、「フランスとオーストラリア/ニュージーランドとの間で、女子アスリートのドーピング検査データに類似点と相違点が検出された。検査対象とされた競技の上位3競技は、両地域で共通しており、また違反が疑われる検体の多くは両地域ともに競技中に採取されたものだった。プレドニゾロン(糖質コルチコイド)は、全体的に最も多く検出された物質であることが判明した」と総括している。
なお、著者の見解にある「糖質コルチコイドが最も多く検出された」という点は、論文に報告されているデータでは、前述のようにオーストラリア/ニュージーランドでは必ずしも当たっておらず、「フランスにおいて多い」という意味と解される。
文献情報
原題のタイトルは、「Summer Olympic sports and female athletes: comparison of anti-doping collections and prohibited substances detected in Australia and New Zealand vs. France」。〔Front Sports Act Living. 2023 Sep 8:5:1213735〕
原文はこちら(Frontiers Media)