重量挙げ選手の急速な減量の実態 英国代表レベル選手の調査結果
重量挙げ選手の競技前の急速な減量(RWL)の実態が報告された。英国のオリンピック出場レベルの選手を対象とした調査の結果であり、全米ストレングス&コンディショニング協会発行の「Journal of Strength and Conditioning Research」に論文が掲載された。男子選手よりも女子選手のほうが、過去の試合での最大減量幅が大きいことなどが明らかにされている。
重量挙げ選手のRWLはこれまで十分調査されていなかった
体重別階級のある格闘技に参加してるアスリートの中には、試合前の計量に向けて急速な減量(rapid weight loss;RWL)を行う選手が少なくない。重量挙げは格闘技ではないが、体重がパフォーマンスに影響するため、やはり体重別階級制をとっており、試合前の計量が行われる。
これまでにも、RWLの実態やパフォーマンスへの影響を検討した研究の報告は少なくない。しかし今回紹介する論文の著者によると「驚くべきことに、オリンピックレベルの重量挙げ選手のRWLの実態を調査した研究は存在しない」という。また、重量挙げは夏季五輪の種目の中で唯一の筋力スポーツであり、かつ、他の体重別階級のある競技に比べ、計量のタイミングが試合前2時間以内と極めて短時間内での実施が義務付けられているという特異性を、著者らは強調している。
選手の85%がRWLを行っている
この研究は、英国の19~43歳の重量挙げ選手39人に対するアンケート調査として行われた。アンケートの質問項目は23項目で、競技歴や急速な減量(RWL)の実践について質問された。
回答者のおもな特徴は、平均年齢27.6±6.4歳、男性56.4%、競技歴4.1±2.6年で、過去1年間での参加競技会数は3.4±2.2回であり、シンクレア係数(体重を考慮した挙上記録)は239.4±59.4だった。
39人のうち、RWLを行っている選手は33人(84.6%)だった。
RWLを行っている選手の特徴
急速な減量(RWL)を行っている33人の特徴は、平均年齢27.9±6.8歳、男性51.5%、競技歴4.5±2.7年で、過去1年間での参加競技会数3.6±1.8回であり、シンクレア係数は240.6±62.2だった。また、過去1年間で参加した競技会のうち、61.1%でRWLを行ったことを報告し、平均的な減量幅は体重の3.8±1.7%、過去最大の減量幅は6.1±3.2%であり、競技会後の1週間で平均3.3±1.4%増量していた。
RWLの実践状況を性別で比較すると、過去1年間で参加した競技会数に占めるRWLを行った回数は男子が58.1%、女子が63.4%、平均的な減量幅は同順に3.5±1.3%、4.1±2.0%であり、いずれも女子のほうがやや高値だったが有意差はなかった。ただし、過去最大の減量幅は4.9±2.0%、7.4±3.7%であり、女子のほうが有意に高値だった(p=0.045)。競技会参加後の体重の回復は同程度だった。
次に、シンクレア係数の三分位で全体を11人ずつの3群に分けると、各群のシンクレア係数の平均は最低位群(下位3分の1)から順に、179.2±22.7、231.2±15.0、311.5±43.3となった。RWLの実践状況に関しては、これら3群で有意差は認められなかった。
RWLの方法や影響力のある存在
食事のスキップと水分摂取制限が多く用いられている
RWLに際して用いられることのある方法を掲げ、それぞれについて行う頻度を「いつも使う(always)」、「時々使う(sometimes)」、「ほとんど使わない(almost never)」、「使ったことがない(never used)」、「使ったことがあるが今後は使わない(no longer use)」 の中から選択してもらった。
すると、「常に」または「時々」が最も多く選択された方法は、水分摂取制限(81.9%)、2週間以上かける段階的減量(81.8%)だった。それら以外に、1日の中で食事を1~2回スキップする(48.5%)、断食(36.4%)、トレーニング量を増やす(33.4%)などが選択された。
「常に」のみでみると、2週間以上かける段階的減量(54.5%)が最も多く挙げられ、続いて水分摂取制限(45.5%)だった。この二つは「使ったことがない」の最下位でもあり、2週間以上かける段階的減量を行ったことがないのは3.0%、水分摂取制限を行ったことがないのは9.1%だった。
RWLの実践に強い影響力のある存在はコーチと栄養士
続いて、選手のRWLの実践に影響を与えている可能性のある存在を掲げ、それぞれから影響を受けている程度を「非常に影響される(very influential)」、「多少影響される(some influence)」など5段階の選択肢の中から選んでもらった。
すると、「非常に影響される」または「多少影響される」が最も多く選択された存在は、コーチ(68.8%)、同じ競技のアスリート(46.9%)、インターネット(31.3%)、栄養士(25.0%)などが選択された。一方、「非常に影響される」のみでみると、コーチ(21.9%)に続き、栄養士(12.5%)が挙げられた。
実践への応用:安全で効果的なRWLのために
これらの結果に基づき論文の末尾には、以下のような総括が述べられている。
「オリンピックレベルの重量挙げ選手というこのコホートで認められた、RWLによる減量幅3.8%という値は、競技パフォーマンスを考慮した場合にも許容範囲内と言える。一般的にRWLを行う場合、段階的なダイエットや水分摂取制限などにより体重の3~4%程度の範囲内の減量にとどめる必要がある。ただし本研究では、女子選手の過去最大減量幅がこの範囲を超過しており、パフォーマンスの低下が観察されるレベルだった。重量挙げでは計量から競技までの時間が2時間未満と短時間であるため、RWLの実践に注意が必要とされる。重量挙げ選手やコーチは、安全で効果的な体重管理に関して栄養士をはじめとする専門家からアドバイスを受けることが推奨される」。
文献情報
原題のタイトルは、「Rapid Weight Loss Practices Within Olympic Weightlifters」。〔J Strength Cond Res. 2023 Oct 1;37(10):2046-2051〕
原文はこちら(National Strength and Conditioning Association)