スポーツ栄養WEB 栄養で元気になる!

SNDJ志保子塾2023 ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー
一般社団法人日本スポーツ栄養協会 SNDJ公式情報サイト
ニュース・トピックス

BMIが高くない人のケトジェニック食は要注意? LDL-Cが約500mg/dLまで上昇した症例報告

ケトジェニック食を始めたことが原因と推測される、LDL-コレステロールが500mg/dL近くまで上昇した患者の症例が報告された。著者によると、このような反応は体脂肪量の少ない人に起こりやすいと考えられ、「ケトジェニック食開始後は脂質関連指標のモニタリングが不可欠だ」と述べている。

BMIが高くない人のケトジェニック食は要注意? LDL-Cが約500mg/dLまで上昇した症例報告

非肥満者のケドシェニック食にリスクあり?

エネルギー基質として脂質を利用することによりケトン体産生を増やす「ケトン産生食」は、厳格な糖質制限食と言える。もともと1世紀前からてんかんの治療法として行われていたが、近年は急速な体重減少や糖尿病患者の血糖管理で行われることが増えている。

ケトジェニック食では必要とされるエネルギー量の多くを脂質から得ることになるため、血清脂質値への悪影響が懸念される。ただし、一般的に、悪玉コレステロール(LDL-C)上昇は軽微であり、糖尿病患者などでは血糖管理改善による治療上のメリットが相対的に大きく現れやすい可能性がある。

しかし近年、糖代謝異常がなく、顕著な肥満でもないにもかかわらず、ダイエット目的、あるいはスポーツパフォーマンス向上目的でケトジェニック食を始める人が増えている。こうした人たちでは、血糖管理や減量という点でのメリットはほとんどないことから、わずかであってもLDL-C上昇に伴う心血管イベントリスク上昇という懸念が相対的に高くなる。

また最近、ケトジェニック食によってLDL-Cが極めて高値になる人がいることが報告されており、そのような人は非肥満者に多いことから、「lean mass hyper-responders」という言葉が使われるようになってきた。今回紹介する論文も、そのようなlean mass hyper-responderの症例報告であり、ケトジェニック食開始後にLDL-Cが500mg/dL近くに上昇したという。イスラエルからの報告。

基準値内だったLDL-Cが、ケドシェニックダイエット開始1年で496mg/dLに

この症例は、著明な高LDL-C血症のために脂質専門医を紹介受診した38歳の男性。BMIは21.6で身体活動の多い生活習慣であり、心血管疾患の既往歴や家族歴はなく、過去15年間にわたりLDL-Cは100~140mg/dLの範囲にあった。ただし高尿酸血症と痛風の治療のためにコルヒチンと尿酸降下薬の治療を受けていた。

紹介受診の1年前にケドシェニック食を開始。その後LDL-Cは496mg/dLまで上昇していた。ただし、Lp(a)、クレアチニン、肝逸脱酵素、空腹時血糖値、甲状腺刺激ホルモンなどの検査値は、いずれも基準値内だった。

紹介受診後に、飽和脂肪の摂取量を減らすことや、ストロングスタチンとエゼチミブによる脂質低下療法を開始するようアドバイスされた。冠動脈CT検査によるカルシウムスコアは「0」であり、石灰化の所見はみられなかった。

二度目の受診時にもLDL-Cは445mg/dLと極めて高値であったことから、飽和脂肪の摂取を減らす食事に変えること、およびエゼチミブ10mgによる治療が開始された。その後、数週間でLDL-Cは173mg/dLまで急速に低下した。HDL-Cは70mg/dL、トリグリセライドは67mg/dLだった。

ケトジェニック食開始後は定期的な血清脂質モニタリングが必要

論文の考察によると、この患者が家族性高コレステロール血症とは考えにくく、LDL-C上昇の原因はケトジェニック食である可能性が最も高いという。近年、ケトジェニック食開始後にLDL-Cが劇的に上昇したとする症例報告が増えており、それらの症例の多くは、ケトジェニック食開始前のBMIが高くなく、LDL-Cも平均的だという。このような人がケトジェニック食を行うと、リポ蛋白リパーゼの活性が亢進し、トリグリセライドの低下とともにLDL-CやHDL-Cの上昇が生じることがあるとのことだ。

また、本症例に対する治療で用いられたエゼチミブは、小腸でのコレステロール再吸収を阻害する薬剤であり、ケドシェニック食に伴い高脂質食となっているような状況で有効性が高い可能性があるとしている。なお、本症例のカルシウムスコアが0であり、冠動脈疾患の差し迫ったイベントリスクは認められなかったが、年齢が38歳と若年であるため、この結果のみの臨床的意義は限られると述べられている。

減量や代謝改善目的のケトジェニック食でも最長1年

この症例が報告されたイスラエルの栄養士会では、心血管疾患予防の目的として、減量や代謝改善が必要とされる場合においてケトジェニック食を試みる場合、最長1年とし、1年を超えて続けることはエビデンスがなく、推奨されないとしているとのことだ。また、一般的に脂質異常患者へはケトジェニック食は推奨されない。ただし本症例は、脂質異常のない健常者に生じた現象である。

論文の結論は、「ケトジェニックダイエットの結果として、著明な高コレステロール血症を発症する可能性があり、非肥満者に発生しやすいことが示唆されている。食事の変化に対するLDL-Cの反応は人によって大きく異なり、脂質異常症でない人にも極端なLDL-C上昇が起こることがあるため、ケトジェニックダイエットを行うすべての人の血清脂質プロファイルのモニタリングが不可欠だ。また、ケトジェニックダイエットに対する血中コレステロールの反応の個人差のメカニズム、長期的な安全性、動脈硬化性心血管疾患リスクへの影響の理解のため、さらなる研究が必要とされる」とまとめられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Extreme Hypercholesterolemia Following a Ketogenic Diet: Exaggerated Response to an Increasingly Popular Diet」。〔Cureus. 2023 Aug 18;15(8):e43683〕
原文はこちら(Cureus)

この記事のURLとタイトルをコピーする
志保子塾2024前期「ビジネスパーソンのためのスポーツ栄養セミナー」

関連記事

スポーツ栄養Web編集部
facebook
Twitter
LINE
ニュース・トピックス
SNDJクラブ会員登録
SNDJクラブ会員登録

スポーツ栄養の情報を得たい方、関心のある方はどなたでも無料でご登録いただけます。下記よりご登録ください!

SNDJメンバー登録
SNDJメンバー登録

公認スポーツ栄養士・管理栄養士・栄養士向けのスキルアップセミナーや交流会の開催、専門情報の共有、お仕事相談などを行います。下記よりご登録ください!

元気”いなり”プロジェクト
元気”いなり”プロジェクト
おすすめ記事
スポーツ栄養・栄養サポート関連書籍のデータベース
セミナー・イベント情報
このページのトップへ