男性のLDL-C低値と自殺リスクが関連? 韓国国民健康栄養調査の横断的解析
LDL-コレステロール(LDL-C)が低い男性は、希死念慮を抱いている割合が高いことが、韓国の国民健康栄養調査のデータ解析から明らかになった。女性ではこの関連は非有意だという。
希死念慮とは
こころの耳(厚生労働省)LDL-Cと自殺リスクという話題
LDL-Cは“悪玉コレステロール”とされ、動脈硬化性疾患のリスク抑制のための主要なターゲットであり、LDL-C低下によって動脈硬化性疾患の発症や進展が減るという強固なエビデンスがある。よって、高LDL-C血症を認めた場合には、食事・運動療法に加えて脂質低下薬のスタチンを中心とする薬物介入を行う。食事療法では、コレステロール摂取量を200mg/日未満にすること、トランス脂肪酸を含む菓子類、加工食品の摂取を抑えること、食物繊維や未精製穀類、大豆製品、海藻、野菜類の摂取を増やすことなどが推奨されている。
LDL-C低下による動脈硬化性疾患、とくに心血管疾患のリスクが抑制されることは、多くの縦断研究から確認されており因果関係が証明されているが、一方で横断研究からは、LDL-Cが低いことが、うつ病や自殺のリスクの高いことと関連することが古くから指摘されてきている。また、スタチンの使用が自殺リスクと相関することを示唆する横断研究の報告もある。基礎研究からは、コレステロールが脳内で重要な働きをもち、コレステロールレベルの変化が中枢神経系に影響を与える可能性も示唆されている。
自殺大国での横断研究
LDL-C以外のトリグリセライドやHDL-Cなどの血清脂質レベルと自殺リスクとの関連を示唆する報告もみられる。ただ、LDL-Cも含め、血清脂質値と自殺リスクとの関連を検討した研究の結果は一貫性が欠如しており、研究対象とした人種/民族による社会文化的背景、自殺傾向の強弱、国民の平均的な血清脂質レベルなども、このような研究の結果に影響を与えている可能性もある。
ところで、バブル経済崩壊後の日本の自殺者数は長らく年間3万人前後で推移し、日本は「自殺大国」と呼ばれてきた。近年は2万人ほどで推移している。一方、お隣の韓国もまた自殺者数が多い国として知られている。世界保健機関(WHO)のデータを基に日本の厚生労働省がまとめた資料によると、日本の自殺死亡率(人口10万人あたりの自殺による死亡者数)は19.5であるのに対して、同じ年に韓国では28.5であったことが示されている。率比でおよそ1.5倍である。
このような状況を背景として本論文の著者らは、韓国人のLDL-Cレベルと自殺リスクとの関連を横断的に検討した。
韓国国民健康栄養調査データを二次解析
この研究は、韓国国民健康栄養調査(Korea National Health and Nutrition Examination Survey;KNHNES)の2014~18年のデータを用いた二次解析として行われた。KNHNESの19歳以上の参加者1万8,847人のうち、血清脂質のデータがあり、自殺リスクを判定するための必要な質問(患者健康質問票〈Patient Health Questionnaire-9;PHQ-9〉)へ回答していた1万3,772人(男性41.5%)を解析対象とした。
自殺リスクに関しては、PHQ-9の9項目目の質問「過去2週間に、死んだほうがいい、あるいは自分を傷つけたいと感じたことはあるか?」という質問に対して、「まったくない」と回答した場合を「希死念慮なし」と定義。それ以外の回答(週に数日、半数以上、ほぼ毎日のいずれか)が選択された場合を「希死念慮あり」と定義した。
また、共変量として、年齢、BMI、世帯収入、教育歴、喫煙・飲酒・運動習慣、うつ病の既往、脂質異常症治療薬の処方、慢性疾患(脳卒中、虚血性心疾患、糖尿病、慢性腎臓病、悪性腫瘍、肝硬変、関節リウマチ、変形性関節症、喘息)の有無などを把握した。
男性のLDL-C低値が希死念慮と独立して関連
男性の4.7%、女性の7.5%が「希死念慮あり」と判定された。
血清脂質値と自殺リスクとの関連は、共変量未調整のモデル1(粗モデル)、年齢、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣を調整したモデル2、モデル2の調整因子に社会経済的変数、世帯収入、教育歴を追加したモデル3、モデル3の調整因子に脂質異常症治療薬の処方、うつ病、慢性疾患の有無を追加したモデル4という、4通りのモデルで、性別に解析された。
ここでは、モデル1(共変量未調整の粗モデル)と、モデル4(すべての共変量を調整したモデル)の結果を抜粋して紹介する。
男性では共変量調整後もLDL-C低値が希死念慮と有意に関連
まず男性での解析結果をみると、モデル1では、総コレステロール(TC)200~239mg/dLを基準として200mg/dL未満でOR1.453(95%CI;1.042~2.027)、LDL-C130~159g/dLを基準として100mg/dL未満でOR2.218(1.457~3.375)、100~129mg/dLでOR1.615(1.021~2.557)、トリグリセライド(TG)150mg/dL未満を基準として200mg/dL以上でOR1.489(1.016~2.181)という、有意なオッズ比の上昇が認められた。HDL-Cについては関連がみられなかった。
モデル4では、LDL-C100mg/dL未満でOR1.979(1.300~3.014)という有意な関連が認められ、またTC200mg/dL未満の場合にOR1.401(1.000~1.962)という境界域のオッズ比が示された。その他は非有意だった。
女性は共変量未調整では低HDL-C/高TGが有意
続いて女性での解析結果をみると、モデル1では、TG150mg/dL未満を基準として200mg/dL以上でOR1.777(1.355~2.330)、150~199mg/dLでもOR1.507(1.116~2.035)という、有意なオッズ比の上昇が認められた。また、HDL-Cについても60mg/dL以上を基準として40mg/dL未満の場合はOR1.741(1.229~2.464)であり、有意なオッズ比上昇が観察された。
モデル4では、TC200~239mg/dLを基準として100~129mg/dLの場合にOR1.326(1.000~1.759)という境界域のオッズ比が示されたが、100mg/dL未満では非有意であり、その他もすべて非有意だった。
著者らは、横断研究であるため因果関係は不明という限界点を述べたうえで、「19歳以上の韓国人男性において、LDL-Cレベルの低下と希死念慮との間に独立した関連のあることが示された」と結論づけている。
文献情報
原題のタイトルは、「Serum Lipid Levels and Suicidal Ideation of Adults: A Cross-Sectional Study Using the Korea National Health and Nutrition Examination Survey」。〔J Clin Med. 2023 Jun 26;12(13):4285〕
原文はこちら(MDPI)