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アスリートの摂食障害は非アスリートの摂食障害とどう違う? 臨床的特徴や治療成績を比較

摂食障害のあるアスリートと、アスリートでない摂食障害の患者と比較して、臨床的な特徴や性格特性、治療成績などに差があるか否かを調査した結果が報告された。治療成績は全体的な比較では群間差がないが、アスリートの患者はボディイメージへの不満や心理的苦痛が少ないことや、審美的競技のアスリートでは治療反応が良くないことなどが明らかになったという。スペインとドイツの研究者の報告。

アスリートの摂食障害は非アスリートの摂食障害とどう違う? 臨床的特徴や治療成績を比較

アスリートの摂食障害は、非アスリートの摂食障害と異なるのか?

摂食障害(eating disorder;ED)の生涯リスクは約5%との報告があり、まれなものではない。また新型コロナウイルス感染症のパンデミック以降、摂食障害(ED)患者数の増加や治療状態の悪化が多く報告されている。EDでは死亡リスクが高まり、一般集団の5倍以上ハイリスクとされている。おもな死因は身体合併症と自殺である。そのような死亡リスク抑制のためにも治療継続が欠かせないが、ED患者の多くは十分に治療されていない、または治療を受けようとしない。

一方、アスリートはEDリスクの高い集団であることが、多くの研究によって明らかにされている。ある研究によると、競技会参加レベルのアスリートでは86%以上が閾値下EDのリスクを有しているという。このような、アスリートのED有病率に関する調査結果は、さまざまな競技・種目、あるいは異なる競技レベルごとに、数多く報告されてきている。

それにもかかわらず、アスリートのEDを非アスリートのEDと比べて、臨床的特徴や治療反応性などを検討した研究はみられず、アスリート集団のEDが特異なものなのかどうかがこれまで不明だった。これを背景にこの論文の著者らは、傾向スコアマッチングにより背景因子の一致するアスリートと非アスリートのED患者のデータセットを作成し、両者を比較するという手法によって、アスリートのEDの特徴を探る検討を行った。

傾向スコアマッチングで背景因子が一致する非アスリート患者群と比較

研究対象は104人のED患者であり、その半数の52人がアスリートで他の52人は非アスリート。非アスリート群は、傾向スコアマッチングを用いて、アスリート患者のEDの病型、年齢、性別、罹病期間が一致する患者を、多数の患者集団から抽出した。なお、EDの診断は専門医により、半構造化面接と米国精神医学会の「精神障害の診断と統計マニュアル第5版」(diagnostic and statistical manual of mental disorders;DSM-5)に基づき診断されている。除外基準は、16歳未満、知的障害を有する、以下の質問票への回答が不十分、研究参加への不同意。

臨床症状や性格特性などの評価には、91項目からなる質問票(eating disorders inventory-2;EDI-2)、一般的精神症状を評価する90項目からなる質問票(symptom checklist-90-revised;SCL-90)、性格や気質傾向を評価する240項目からなる質問票(temperament and character inventory-revised;TCI-R)を用いて把握した。

両群ともに標準化された治療法で介入

EDに対する治療は、有効性に関するエビデンスが確立している認知行動療法に基づいて、精神医学的治療および栄養学的治療が、同期間の入院および外来通院によって施行された。その治療介入が終了した時点で、前記の指標を用いた再評価がなされ、完全寛解、部分寛解、不変の3群に分類された。

完全寛解は、診断基準に含まれている症状が連続4週間にわたって現れていないことで定義された。なお、医師が治療終了を判断する以前に外来通院が中断された場合は、ドロップアウトとして分類した。

アスリート群の患者背景

アスリートの参加者は、スポーツで生計を立てているプロ選手、助成金を受けたりスポーツを通じてパフォーマンスの対価を受け取っている選手、およびプロレベルの競技を行っているアスリートで構成されていた。行っている競技は16種類にわたり、サッカー、バスケットボール、バレーボール、カヌー、水泳、自転車、ランニング、空手、ボディビル、登山、フィギュアスケート、新体操、トライアスロン、スノーボード、およびダンスなどだった。ダンスは厳密にはスポーツの範疇とされないこともあるが、審美的スポーツとみなされることもあるため、研究に組み入れた。

本研究では、非アスリート患者群との比較のほかに、アスリート患者群内で、個人競技と団体競技、および、審美系競技と非審美系競技に二分しての比較検討も行っている。

非アスリート群とほぼ同様の臨床的特徴だが一部に有意差

研究参加者は、平均年齢25.4±6.8歳、女性75%、独身者81.7%で、問題のある摂食行動の発症年齢は19.0±6.1歳、罹病期間は6.4±5.8年。EDの病型は、神経性食欲不振症38人、神経性過食症36人、過食症4人、およびその他のEDが26人であり、年齢や女性・独身者の割合、発症年齢、罹病期間、病型の分布は、両群間に有意差がなかった。

アスリート患者群はボディイメージの不満や心理的苦痛が少ない

アスリート群と非アスリート群との比較で有意差が認められた点は、ボディイメージの不満(6.13±9.46 vs 17.25±8.52、p=0.019)、および心理的苦痛(2.10±0.65 vs 2.35±0.58、p=0.046)であり、いずれもアスリート患者群でスコアが低かった。

そのほかに評価された臨床的特徴や性格特性には有意差がなかった。また、治療の反応性(完全寛解、部分寛解、不変の分布)およびドロップアウトの割合にも有意差がなかった。

個人/団体、審美系/その他でも一部に有意差

次に、アスリート患者群内で比較検討した結果をみると、罹病期間については個人競技のアスリートのほうが団体競技アスリートより有意に長かった(7.85±6.41 vs 2.50±1.43年、p=0.012)。審美系か否かの比較では、罹病期間に有意差はなかった。一方、ボディイメージの不満は審美系競技のアスリートのほうが有意に高かった(15.56±9.30 vs 10.36±9.05、p=0.047)。

治療反応性については、個人競技と団体競技の比較では有意差がなかった。しかし、審美系か否かの比較では、審美系競技アスリートはドロップアウト率が有意に高く(44.4 vs 12.0%、p=0.014)、また、治療効果判定のカテゴリーの寛解が少なかった(完全寛解は29.6 vs 36.0%、部分寛解は11.1 vs 32.0%、p=0.05)。

以上に基づき著者らは、「アスリートのEDは非アスリートのEDと、臨床的な大きな差異は観察されなかったことから、治療戦略は両者同様のもので適切と言えるのではないか。ただし、ボディイメージや心理的苦痛については、アスリート群において行っている競技による差異が認められた。これらの知見は、今後の治療アウトカム改善に役立つ可能性がある」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Athletes with Eating Disorders: Analysis of Their Clinical Characteristics, Psychopathology and Response to Treatment」。〔Nutrients. 2023 Jun 30;15(13):3003〕
原文はこちら(MDPI)

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