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イソマルツロース(パラチノース)摂取で競技後半の大事な場面のパフォーマンスに差がつく可能性

持久系スポーツの競技開始前に、消化吸収が緩徐な糖質であるイソマルツロース(パラチノース)を摂取しておくことで、競技後半のスタミナ切れを抑えられ、かつ、結果を左右するような大切な場面で、より大きなパワーを発揮できる可能性を示すデータが報告された。日常的にトレーニングを行っている男性アスリートを対象とするクロスオーバー試験により、スクロース(砂糖)との比較で、ウインゲートテストの評価結果などに有意差が認められたという。日本大学薬学部の小沼直子氏、昭和女子大学大学院生活機構研究科の山中健太郎氏らのグループの研究によるもので、「BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation」に論文が掲載された。

イソマルツロース(パラチノース)摂取で競技後半の大事な場面のパフォーマンスに差がつく可能性

イソマルツロースで競技の後半の瞬発力を高められるか?

イソマルツロース(パラチノース)は、グリセミックインデックス(glycemic index;GI)が低いことを特徴とする糖質。摂取後の消化吸収が穏やかなため、急峻な血糖上昇が生じず、かつ摂取後の長時間、血糖値が安定した状態が維持される。

この特徴がさまざまな領域で活用されており、スポーツにおいては主として持久系競技の後半でのグリコーゲン枯渇によるパフォーマンス低下、いわゆる“スタミナ切れ”対策としての利用が広がっている。ただし、長時間の運動を行っている最終段階での無酸素運動能力に差が生じるか否かは、まだ十分明らかになっていない。

小沼氏、山中氏らの研究グループは、この点に関する以下の検討を行った。

90分間のトレッドミル走行に続くウインゲートテストでパフォーマンスを比較

研究の対象は、大学の運動部や社会人のスポーツクラブに在籍している男性アスリート13人。行っている競技は、陸上が6人、トライアスロン5人、バレーボール2人。年齢21.5±2.1歳、BMI20.9±1.4、VO2max62.0±6.4mL/kg/分で、喫煙者や何らかの薬剤を服用中の者は除外されている。

研究デザインはクロスオーバー法で、イソマルツロースまたはスクロースを摂取後に、後述のような同一のパフォーマンステストを行い、エネルギー消費量や無酸素性運動能力を比較した。試行順序はバランスをとったうえで無作為化した。両条件ともに前日の21時以降は絶食としたうえで、概日リズムに配慮して同じ時間帯にテストを行った。また、前日から激しい運動を禁止した。

イソマルツロースまたはスクロース75g摂取の60分後にテスト開始

研究室到着後、心拍数や呼気ガスの安静時の値を測定。続いて、外見や香りなどからは区別がつかないように調整された、イソマルツロースまたはスクロース75gを含む500mLの水溶液を摂取してもらった。摂取60分後から、まずトレッドミルにて50~60%VO2maxで45分のランニングを、10分間の休憩を挟んで2回(計90分)実施。休憩中にはトイレや水分摂取を可とした。

2回目のランニング終了後、直ちに自転車エルゴメーターにて、体重の7.5%の負荷で30秒間のウインゲートテストを施行し、無酸素性運動能力を測定した。研究仮説は、イソマルツロースを摂取した場合には、ランニング中のグリコーゲン消費が抑制され、その後のウインゲートテストで高いパワーが観察されるというものだった。

持久運動の後半のグリコーゲン利用、および、その後のパワーに有意差

イソマルツロース条件では持久運動の後半でも糖質が温存される

ベースライン時点(試験飲料〈イソマルツロースまたはスクロース〉摂取前)の心拍数や、呼気ガス分析によるエネルギー消費量は、条件間に有意差はなかった。

90分間のトレッドミル走行中、両条件ともに心拍数は経時的にやや上昇、エネルギー消費量は不変で、エネルギー基質は糖質の酸化が経時的に減少し、脂質の酸化が上昇した。これらの変動に、条件間の有意差は認められなかった。走行距離や平均速度、運動強度にも有意差はなかった。

次に、エネルギー基質の経時的な変化をより詳細に検討するため、試験飲料摂取後からトレッドミル走行終了までを8区間に分け、それぞれの時点の糖質酸化率を基に回帰直線を算出して比較した。すると、スクロース条件では-19.4±9.6%/時の傾きで糖質の酸化が減少していたのに対して、イソマルツロース条件では-13.3±7.5%/時と、傾きが緩やかであり、条件間に有意差が認められた(p<0.01)。

この結果は、イソマルツロースを摂取することによって、持久系運動の後半になってもグリコーゲンが維持されやすいことを意味する。

持久運動後のパワーもイソマルツロース条件で高値

続いて行われたウインゲートテストでは、条件間の相違がより顕著だった。すなわち、イソマルツロース条件での最大パワー(p<0.01)と平均パワー(p<0.05)が、スクロース条件に比べて有意に高値だった。

なお、最大パワーに至るまでの所要時間は条件間に有意差がなかった。この点について著者らは、ウインゲートテストにおける最初の数秒間で達成される最大パワーまでの到達時間は、解糖系ではなくアデノシン三リン酸-クレアチンリン酸系に依存するためではないかとの考察を加えている。

持久系スポーツではイソマルツロースの利用が賢明か

まとめると、スクロース摂取後と比較してイソマルツロース摂取後には、長時間の持久運動中の糖質利用が急激に低下することなく、後半に至るまで比較的高い状態で維持されていた。さらに、長時間の持久運動終了直後の無酸素運動でのパワーは、イソマルツロース摂取条件のほうが高かった。

著者らは、「持久系競技での後半のスタミナ切れや消化器症状の発現リスクを考慮すると、消化吸収の緩徐なイソマルツロースは、他の糖質に比べてより適切な選択肢ではないか」と述べている。一方、本研究の限界点として、サンプルサイズが少なく女性が含まれていないこと、エネルギー消費量を血液でなく呼気ガスから分析していることなどを挙げ、さらなる研究の必要性も指摘している。

本研究は、昭和女子大学大学院生活機構研究科、日本大学薬学部、日本大学スポーツ科学部、DM三井製糖株式会社DM三井グループ研究所による研究成果である。

文献情報

原題のタイトルは、「Pre-exercise isomaltulose intake affects carbohydrate oxidation reduction during endurance exercise and maximal power output in the subsequent Wingate test」。〔BMC Sports Sci Med Rehabil. 2023 Jul 24;15(1):89〕
原文はこちら(Springer Nature)

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