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BCAAレベルは成人の睡眠には影響がなく、小児ではわずかな影響がある可能性

スポーツパフォーマンスに対するエルゴジェニックエイドとしてのエビデンスが豊富な分岐鎖アミノ酸(BCAA)は、睡眠に対する負の影響を指摘する声があるが、血液中のBCAAレベルの高さは成人の睡眠に影響がなく、小児の睡眠に対してはわずかに影響を及ぼし得る可能性を示唆するデータが報告された。オーストラリアからの報告。

BCAAレベルは成人の睡眠には影響がなく、小児ではわずかな影響がある可能性

BCAAがトリプトファンの脳への移行を減らす?

必須アミノ酸の一種であるトリプトファンは、睡眠関連ホルモンのメラトニンの前駆物質であるセロトニンの合成にかかわり、睡眠を促すように働くとされる。このトリプトファンが血液脳関門(blood-brain barrier;BBB)を通過する際に、やはり必須アミノ酸の一種である分岐鎖アミノ酸(branched-chain amino acid;BCAA)と競合することが近年報告され、BCAAレベルが高いことはトリプトファンの脳内への移行を低下させて、睡眠に影響を及ぼす可能性があるのではないかとの指摘がなされるようになった。

ただ、BCAAについてはこれまで、筋肉量の増大、疲労からの回復促進、スポーツパフォーマンスの向上という視点で多くの研究がなされているが、睡眠への影響という視点での研究は、成人対象のものはわずかであり、小児対象のものはほとんどない。今回紹介する論文は、このような背景のもとで実施された。

BCAAサプリの摂取による介入は行わずに、血中濃度との関連を検討

この研究には、オーストラリアで行われている小児の健康に関する縦断研究(Longitudinal Study of Australian Children;LSAC)の参加者の一部のデータを、横断的に解析するという手法で行われた。解析対象は、11~12歳の小児741人とその保護者941人。

睡眠に関しては、アクチグラフィーを8日間連続で腕に装着して生活してもらい、睡眠時間・時刻や睡眠効率(就床時間に占める睡眠時間の割合)を把握。また、睡眠障害については、過去1カ月間に、眠れないという体験をした頻度を5段階でのリッカートスコアで回答してもらい評価した。

BCAAレベルは静脈血採血により、ロイシン、イソロイシン、バリンの濃度を測定した。なお、本研究はBCAAのサプリメントなどを用いて、BCAAレベルを変化させてその影響を検討するというものではない。介入はせずに、研究参加者個人のBCAAレベルを測定して、その値と上記の睡眠関連指標との関連を解析している。

関連の解析に際しては、結果に影響を及ぼし得る共変量として、性別、BMI、世帯収入、保護者の教育歴、職業、および、思春期発達スケールで判定した小児の発達段階などを調整した。小児の年齢ではなく発達段階を調整因子とした理由は、研究参加対象小児の年齢が11~12歳の狭い範囲に限られており、かつ思春期にはアミノ酸代謝が発達とともに複雑に変化するため。

研究参加小児・保護者の特徴、睡眠時間・睡眠効率・睡眠障害

小児は年齢が11.9±0.4歳で女児が51.1%であり、睡眠時間は568±46分、睡眠効率は84±6%で、過去1カ月に眠れない体験をした頻度は、全くない(never)が30.5%、ほとんどない(almost never)が34.0%、時々(sometimes)が21.6%、しばしば(often)が9.9%、いつも(always)が4.0%。

保護者は年齢が38.8歳で女性が86.8%であり、睡眠時間は498±55分、睡眠効率は86±6%で、過去1カ月に眠れない体験をした頻度は、上記と同順に、9.1%、38.5%、37.5%、12.0%、2.9%。

BCAAレベルと睡眠の関連は小児ではわずかに有意、成人では関連なし

前記の性別、BMIなどのすべての交絡因子を調整したモデルでの解析結果をみると、小児の睡眠時間についてはバリンのレベルと有意な負の相関(バリン濃度が高いほど睡眠時間が短い)が認められた。睡眠時刻はすべてのBCAAレベルとの有意な相関があり、BCAA濃度が高いほど睡眠時刻が遅かった。睡眠効率はBCAAレベルと有意な関連がなかった。

睡眠障害については、ロイシン、イソロイシンのレベルが高いことは、自己報告による睡眠障害の程度の強さと正相関していた。

なお、関連が有意であった項目についても、その効果量はわずかであり、例えばロイシンのレベルが1標準偏差高い場合にも、それによる睡眠時刻への影響は4分にすぎなかった。

一方、保護者については、BCAAレベルとすべての睡眠関連指標との間に有意な関連が存在しなかった。

BCAAレベル自体ではなく、BCAAレベルを高めるような環境が睡眠に影響?

著者によると本研究は、アクチグラフィーと自己申告で評価した睡眠の状態とBCAAレベルとの関連を検討した初の研究であり、「BCAAと睡眠との関連の理解を深めることができた」としている。

BCAAレベルの高さは成人の睡眠には影響を及ぼしていなかったものの、小児にはわずかなに有意な負の影響が認められたことについては、「横断研究であるため因果関係は不明」としながらも、以下のような推察が述べられている。

「BCAAが豊富に含まれている、鶏肉、卵、サーモン、ナッツ、玄米などの自然食品は、一般的に子どもの好物というわけではない。よって、BCAAレベルの高いこどもは、健康をより意識した子育てスタイルを反映した結果である可能性がある。そうであれば、放課後の活動時間が長かったり、就床の間際まで学習をしている(させられている)可能性があり、それらの影響が睡眠時間の短さや睡眠時刻の遅さの一因かもしれない」。

文献情報

原題のタイトルは、「Branched-chain amino acids and sleep: a population-derived study of Australian children aged 11–12 years and their parents」。〔J Sleep Res. 2023 Aug;32(4):e13855〕
原文はこちら(John Wiley & Sons)

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