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タウリンの無酸素運動パフォーマンスにおける急性効果をエリートスピードスケート選手で確認

タウリン摂取が運動パフォーマンスに対して急性効果を発揮する可能性を示唆するデータが報告された。トルコのオリンピック候補であるエリートレベルのスピードスケート選手対象研究の報告。

タウリンの無酸素運動パフォーマンスにおける急性効果をエリートスピードスケート選手で確認

タウリンのスポーツパフォーマンスに対する急性効果を検討

タウリンについては疲労回復作用が古くから研究されているが、パフォーマンスの観点でのエビデンスはまだ多くない。しかし、タウリンの解糖系の緩衝作用または抗酸化作用などがパフォーマンスの向上につながるとも考えられる。

タウリンは、摂取後10分以内に血中濃度が上昇し始め、60分以内にピークに達し、6.5時間後にはベースライン値に戻る。タウリンの血中レベルが上昇したタイミングでは、スポーツパフォーマンスに対する急性効果が現れる可能性があり、本論文の研究ではその点が検討された。著者らによると、タウリンに関する研究の大半は慢性効果を検討しており、本研究のような急性効果を検討した研究は少ないという。

エリートレベルのスケート選手対象に研究

研究対象は、トルコのオリンピック準備チームに参加した経験をもつ30人の男子ショートトラックスピードスケート選手。論文によると、ショートトラックは走行中の姿勢のために下肢筋肉の酸素不足が生じやすい高強度運動であって、タウリンの解糖系緩衝作用などを検討する対象として適しているという。

参加者は以下の適格条件を満たしていた。過去3カ月以内にサプリメントを摂取していないこと、非喫煙者であること、心血管疾患・呼吸器疾患・代謝性疾患・整形外科的疾患のないこと。主な特徴は、年齢23.9±2.8歳、BMI23.9±3.7、トレーニング歴11.4±3.4年であり、スポーツ栄養士による評価によって、摂取エネルギー量は2,900±243kcal/日、炭水化物4.50±0.10g/kg/日、タンパク質2.20±0.10g/kg/日、脂質1.00±0.50g/kg/日と推測された。

研究デザインはプラセボ対照二重盲検クロスオーバー法であり、研究期間中のトレーニング効果の影響を最小化するため、両条件の試行は72時間のウォッシュアウトの前後で、概日リズムを考慮して同じ時間帯に実施した。この間、スポーツ栄養士が食事摂取状況をモニタリングし、両条件で摂取栄養素が大きく異ならないように配慮した。また、カフェインの摂取は禁止した。なお、タウリンの半減期は70~100分であるため、72時間のウォッシュアウト期間は十分であると判断された。

参加者は、各条件のパフォーマンス開始の60分前にタウリンまたはプラセボを摂取した。これは、タウリン摂取60分後に血中濃度がピークに到達するという既報データに基づくもの。

パフォーマンスの急性効果は、摂取60分後に行った自転車エルゴメーターによるウインゲートテスト(Wingate test;WAnT)、および、その直前と直後、3分後に行ったカウンタームーブメントジャンプ(countermovement jump;CMJ)によって評価した。著者らは、CMJは下肢筋力のパワーの評価とともに、神経筋の疲労の評価に有用なツールだと解説している。

このほか、WAnT前のCMJの直前、WAnT後のCMJの30秒後および3分30秒後に、指先採血により乳酸値を測定した。また、ボルグスケールによりWAnT中の自覚的運動強度(rating of perceived exertion;RPE)を報告してもらった。

平均・最大パワーや自覚的運動強度に有意差

ウインゲートテストの結果

ウインゲートテスト(WAnT)での平均パワーは、プラセボ条件の657.09±119.25Wに対してタウリン条件は683.90±105.20Wであり、有意に高値だった(p=0.002)。同様に最大パワーは10.84±0.89W/kg、12.80±1.87W/kg(p=0.003)、最大パワーに到達するまでの時間は8.85±0.77秒、6.82±1.03秒(p<0.001)であって、いずれもタウリン条件のほうが有意に優れていた。

また、自覚的運動強度(RPE)はプラセボ条件が17.11±3.77、タウリン条件が15.23±4.32であって、タウリン条件のほうが低値だった(p=0.002)。

乳酸値はタウリン条件で高値なのは、パワー向上の結果か?

次に乳酸値に着目すると、プラセボ条件、タウリン条件ともにウインゲートテスト(WAnT)の試行により有意に上昇し、その上昇幅はタウリン条件のほうが以下のように有意に大きかった。WAnT30秒後はΔ%=16.99(p<0.026)、3分30秒後はΔ%=4.96(p<0.041)。

タウリンは解糖系の緩衝作用を有するにもかかわらず、プラセボ条件より高い乳酸値が記録されたことについて、著者らは論文の考察の中で、上記のようにWAnT中にプラセボ条件より高いパワーが発揮されたことが関与しているのではないかと述べている。

CMJについてはWAnT前の値に有意差

カウンタームーブメントジャンプ(CMJ)の結果は、既報文献の計算式に基づき最大パワーに換算して評価した。その結果、ウインゲートテスト(WAnT)試行前の最大パワーは、プラセボ条件が3,900±860W、タウリン条件は4,780±548Wであり、後者のほうが有意に高値だった(p<0.022)。

WAnT後のCMJでは両条件ともに最大パワーが有意に低下し、WAnT直後および3分後の値は条件間に有意差がなかった。

結論と実践への適用

以上の総括として論文の結論は、「タウリンの急性摂取はエリートスピードスケート選手の無酸素パフォーマンスを向上させた。神経筋の回復には変化が認められなかった」とまとめられている。

この知見の実践への適用としては、「ショートトラックスケートはその性質上、中腰姿勢をとるため、筋肉に十分な酸素が届かず疲労が生じる。また、この競技では下肢のパワーの発揮も成功の要因となりる。タウリンが無酸素運動能力をサポートすることから、ショートトラック選手の使用を推奨できると言える。ただし、他の無酸素スポーツのパフォーマンスに対するタウリンの影響を調べるさらなる研究が必要。加えて、タウリンについては高度に訓練されたアスリートでの研究がまだ不足しており、今後はハイレベルのアスリートに焦点を当てた研究も求められる」と述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Taurine supplementation enhances anaerobic power in elite speed skaters: A double-blind, randomized, placebo-controlled, crossover study」。〔Biol Sport. 2023 Jul;40(3):741-751〕
原文はこちら(Termedia)

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