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炭水化物や脂質の極端な摂取は寿命に影響を与える 日本人8.1万人を9年間追跡

炭水化物や脂質の摂取量が極端な食習慣が、長期的な生命予後(寿命)に影響を与えるとする研究結果が報告された。低炭水化物食の推奨や高脂質食の制限は、必ずしも良いとは言えない可能性があるという。名古屋大学の研究グループの研究によるもので、「The Journal of Nutrition」に論文が掲載されるとともに、同大学のサイトにプレスリリースが掲載された。研究者らは、「将来の死亡リスクを考えるうえで食事バランスの重要性が示唆される」と述べている。

炭水化物や脂質の極端な摂取は寿命に影響を与える 日本人8.1万人を9年間追跡

研究の背景:低炭水化物食などの日本人でのエビデンス構築を目指す

低炭水化物食(いわゆるローカーボ食)や低脂質食は、体重減少や血糖値の改善などを促し、生活習慣病の予防にとって有用ではないかと考えられている。しかし、このような食習慣がもたらす長期的な生命予後(長生きできるかどうか)についてはいまだ明らかでない。

欧米をはじめとする諸外国における近年の疫学研究※1は、極端な炭水化物と脂質の摂取習慣が死亡リスクを高めることを示唆しており、低炭水化物食・低脂質食がもたらす「短期的な効果」と「長期的な生命予後」の間に大きな矛盾があるため、国際的な関心が高まっている。しかし、欧米人よりも炭水化物摂取量が多く、脂質摂取量が少ない日本人を含む東アジア人での知見はほとんどない。

そこで本研究グループは、国内で実施されているコホート研究※2「日本多施設共同コーホート研究(J-MICC研究)」※3の参加者の追跡調査データに基づいて、日本人の炭水化物・脂質摂取量と死亡リスクとの関連を評価した。

※1 疫学研究:ヒト集団を対象として疾患や健康に関する要因を調べる研究の総称。近年は大規模な疫学調査データを取り扱うことが多く、ヒトの生活習慣だけでなく遺伝的な要因も組み合わせて、死亡率や罹患率の違いなどを評価する。疾病予防、公衆衛生上の政策の立案に重要な役割を担っている研究。
※2 コホート研究:「ある要因を持つ集団(コホート)」と「ある要因を持たない集団」を未来に向かって追跡し、各集団で発生する将来の結果(死亡率や罹患率など)の違いを評価することができる研究で、さまざまな要因と結果の関連を調べることができる。コホート研究は、対象者がもつ要因を結果が生じる前に把握したうえで、長期にわたって結果を追跡するため、信頼性の高いエビデンスを示すことができる。
※3 日本多施設共同コーホート研究(J-MICC研究):日本全国でおよそ10万人の参加者の健康状態(がん罹患や死亡など)を20年にわたって追跡し、どのような人がどんな病気になりやすいかを調べる研究。本研究は2005年に調査を開始し、現在は全国13の研究グループによって運営されている。研究参加者の生活習慣だけでなく、遺伝的な背景も考慮して病気の原因を調査しており、日本ではじめての大規模分子疫学コホート研究。

方法:約8万人を9年間追跡して解析

研究対象者は、J-MICC研究のベースライン調査(第一回目調査)の参加者のうち、分析に必要なデータがすべて整っており、がん・心血管疾患の既往歴を有しない男性3万4,893名および女性4万6,440名。平均追跡期間はおよそ9年。

対象者の1日あたりの炭水化物・脂質摂取量(g)は食物摂取頻度調査票※4によって推定し、エネルギー比率※5(%)で表した。関連を評価するにあたっては、死亡リスクに大きな影響を与える喫煙や飲酒などの交絡要因※6を分析モデルで考慮している。

※4 食物摂取頻度調査票:どのような食品をどれくらいの頻度と量で摂取しているかを調べるために使用するアンケートで、特定の食品項目(例えば大豆、小魚、ヨーグルト、緑茶など)が一覧になっており、研究参加者はそれぞれの食品や飲み物をどのくらいの頻度と量で摂取するかを選択肢から回答する。本調査票の回答に基づいて、栄養素摂取量や食品群摂取量を推定することができる。本調査票の目的は、その人がどのような食習慣あるいは栄養素摂取の傾向を持っているかを把握し、他の生活習慣データや追跡調査データとあわせて、健康への影響を正しく評価すること。
※5 エネルギー比率(%):全エネルギー摂取量のうち、特定の栄養素によるエネルギー摂取量が占める割合のことで、食事バランスの目安の一つ。エネルギー比率は、栄養調査や疫学研究だけでなく、食事摂取基準を策定する際にも活用される。なお、炭水化物1gは4kcal、脂質1gは9kcalのエネルギーを生成する。
※6 交絡要因:研究対象とする要因以外の要因のうち、1)結果に影響を与えること、2)研究対象とする要因と関連すること、3)研究対象とする要因と結果の中間要因ではないことの三つの条件を満たす要因。交絡要因が正しく制御できない場合、「見かけ上の関連(他の要因による誤った関連)」が観察されることがあるため、交絡要因の制御は因果関係の推論に欠かせない。

研究成果:男性の低炭水化物食、女性の高炭水化物食は死亡リスクを高める

炭水化物摂取量と死亡リスク

男性

図1は男性の炭水化物摂取量と死亡リスクとの関連を示している。

図1 男性の炭水化物摂取量と死亡リスクとの関連

男性の炭水化物摂取量と死亡リスクとの関連

(出典:名古屋大学)

50~55%未満の群を1(基準群)としたとき、低炭水化物摂取群(40%未満群)の全死亡リスクは1.59倍(傾向性p=0.002※7)、がん死亡リスクは1.48倍(傾向性p=0.071)に増加していた。また中程度の低炭水化物摂取群(45~50%未満群)では、循環器疾患死亡リスクが2.32倍に増加していた(傾向性p=0.002)。

精製炭水化物摂取(米飯、パン、めん類、和菓子、洋菓子)と、非精製炭水化物摂取に分けて分析したところ、炭水化物摂取量全体での分析結果と同様の傾向を認めた。

※7 傾向性p値:関連の傾向(要因が増えるほどリスクが上昇または低下すること)を評価し、その有意性を判断するために用いられる統計学的な指標。「原因と結果の関連が偶然によるものかどうか」を明らかにし、p値が小さいほど(通常は0.05未満)その関連が偶然ではない可能性が高くなる。

女性

図2は女性の炭水化物摂取量と死亡リスクとの関連を示している。

図2 女性の炭水化物摂取量と死亡リスクとの関連

女性の炭水化物摂取量と死亡リスクとの関連

(出典:名古屋大学)

女性では本関連における比例ハザード性※8がやや認められなかったため(炭水化物摂取の死亡リスクへの影響が一定ではなく時間経過によってやや変化したため)、追跡期間を5年(追跡期間の中央値の約半分)に区切って分析を行った。

※8 比例ハザード性:比較するグループ間のハザード比(リスクの比)が時間に依存せず、どの時間においても一定である性質(比例ハザードモデルによる解析を行うときに要因が満たすべき条件の一つ)のこと。

追跡期間が5年以上の場合、50~55%未満群を1(基準群)としたとき、高炭水化物摂取群(65%以上群)で全死亡リスクが1.71倍に増加し(傾向性p=0.005)、がん死亡リスクでも同様の傾向を認めた(傾向性p=0.003)。追跡期間が5年未満の場合、45~50%未満群と60%以上群で循環器疾患死亡リスクが増加していた(それぞれ4.04倍、3.46倍)。

精製炭水化物と非精製炭水化物に分けた分析では、明らかな関連は観察されなかった。

脂質摂取量と死亡リスク

男性

図3は男性の脂質摂取量と死亡リスクとの関連を示している。

図3 男性の脂質摂取量と死亡リスクとの関連

男性の脂質摂取量と死亡リスクとの関連

(出典:名古屋大学)

20~25%未満群を1(基準群)としたとき、高脂質摂取群(35%以上群)でがん死亡リスクは1.79倍、循環器疾患死亡リスクは脂質摂取量とともに増加していた(傾向性p=0.020)。

脂質摂取の質を考慮するため、飽和脂肪酸摂取(肉類、乳製品、加工食品に多く含まれる脂質)と、不飽和脂肪酸摂取(魚、植物油、ナッツ類に多く含まれる脂質)に分けて分析したところ、不飽和脂肪酸の摂取量の少なさが全死亡リスクとがん死亡リスクを高めていた。

女性

図4は女性の脂質摂取量と死亡リスクとの関連を示している。

図4 女性の脂質摂取量と死亡リスクとの関連

女性の脂質摂取量と死亡リスクとの関連

(出典:名古屋大学)

脂質摂取量が増加するほど全死亡リスクとがん死亡リスクが減少する傾向が観察された(傾向性p値はそれぞれ0.054、0.058)。飽和脂肪酸摂取と不飽和脂肪酸摂取に分けて分析したところ、飽和脂肪酸の摂取量の増加が全死亡リスクとがん死亡リスクを低下させる傾向にあった。

今後の展開

本研究は、喫煙や飲酒などの交絡要因を統計学的に調整したうえで、日本人の極端な炭水化物摂取および脂質摂取が「長期的な生命予後」に影響を与える可能性を示した。「ローカーボ食またはハイカーボ食がよい」、「脂質摂取はできるだけ控えたほうがよい」とする食事習慣の考え方の見直しを提案するものと言える。

J-MICC 研究の追跡調査を続けることによって、解析可能な症例数が多くなることから、今後はより細かな死因ごとの検討やがん部位別での評価が可能になる。また、他研究による日本人一般集団での本関連の再現性、分子生物学的なメカニズムの探索と解明が期待される。

プレスリリース

炭水化物・脂質の摂取と死亡リスクとの関連〜極端な食事習慣が生命予後(寿命)に影響を与えることを発見〜(名古屋大学)

文献情報

原題のタイトルは、「The tactile thickness of the lip and weight of a glass can modulate sensory perception of tea beverage」。〔J Nutr. 2023 Jun 2;S0022-3166(23)72198-6〕
原文はこちら(Elsevier)

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