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持久系スポーツの疲労を栄養と水分でコントロールする メタ解析からの知見

持久系スポーツの成績を左右する大きな要因として、競技中の疲労をいかに抑制するかが挙げられる。これに関して、栄養と水分の摂取がどの程度の影響を及ぼし得るかを、システマティックレビューとメタ解析により検討した結果が報告された。炭水化物の摂取により疲労に至るまでの時間が延長し、心拍数は低下することなどが確認されたという。

暑熱順化は、生理的順化+人工環境下でのトレーニングでパフォーマンスが向上する可能性

「疲労」に焦点を当てて、栄養戦略の有効性をメタ解析

アスリートの疲労は、競技時間が数十分以上続く場合に問題になりやすい。例えばサッカー、アメフト、ホッケーなどの団体競技、またはマラソン、トライアスロン、クロスカントリースキーなどの個人競技などでは、疲労が生じてくる競技の後半に、求められる運動強度を維持できなくなりやすい。

スポーツ中の疲労の程度には、グリコーゲン枯渇、低血糖、高アンモニア血症、体温調整能低下、電解質欠乏、代謝産物の蓄積、心理状態などの関与が想定されている。これらの一部に対して栄養戦略が拮抗作用を発揮することが考えられる。例えば低血糖はグリコーゲン枯渇により生じるため、これに対しては炭水化物の摂取が予防的に働くと考えられ、またそれによって体タンパクの異化により生じる高アンモニア血症も抑制される。電解質の欠乏や体温調節能低下に対しても、微量栄養素や水分の摂取が有効とされる。

ただ、本論文の著者によると、それらの戦略を「疲労」という観点から検討したメタ解析は、これまで行われていないという。

システマティックレビューについて

この研究は、システマティックレビューの事前登録(PROSPERO)のうえ、PRISMAに準拠して行われた。2022年6月15日までに、PubMed、Web of Science、SPORTDiscus、EBSCOという四つの文献データベースに収載された論文を対象として、研究参加者が18~65歳の健康な成人であるこのトピックに関する論文のうち、英語またはスペイン語、イタリア語、ポルトガル語で執筆されているものを適格とした。

介入の影響を調べるためのテストの持続時間は、45分以上3時間の研究とした。上限を3時間とした理由は、それを超える競技は一般的に超持久系競技としてカテゴライズされ、今回の検討対象の競技とは異なる戦略がとられることが多いため。その他の除外基準は、短報、レター、レビュー論文など、および研究に用いた介入の手法・評価項目が、少なくとも三っ以上の研究で採用されていない場合。

重複削除後の4,088報を2名の研究者が独立して、タイトルと要約に基づくスクリーニングを行い467報に絞り込み、全文を精査。最終的に34件の研究が包括基準を満たしていると判定された。

メタ解析対象研究の特徴について

34件の研究の参加者数は介入群が合計464人、対照群が472人であり、年齢の範囲はどちらも18~46歳だった。行っている競技は自転車、ランニング、テニスなどのほか、兵士を対象とする1件の研究も含まれていた。

介入には、炭水化物単独、炭水化物+タンパク質、水分などの条件が設定されていた。タンパク質に関してはホエイタンパク、トリプトファンによる介入を行ったものもあった。評価されていた指標は、疲労に至るまでの時間、乳酸レベル、心拍数、自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)などだった。

炭水化物と水分摂取が疲労を遠ざける可能性

それでは、メタ解析の結果をみていこう。この研究では、炭水化物やタンパク質、水分による介入、評価タイミング(運動負荷テストの最中か終了後か)、気温、標高などの条件別に解析している。

炭水化物摂取のみによる介入

炭水化物摂取の疲労困憊至るまでの時間の影響は、5件の研究で検討されていた。メタ解析の結果は標準化平均差(standardized mean difference;SMD)=1.45(95%CI;0.96~1.97)であり、介入による有意な延長が示された(p<0.001)。また、心拍数に対してはSMD=-0.59(同―1.07~―0.09)であり、介入による有意な低下が示された(p=0.018)。体重や乳酸値は有意差がなかった。

炭水化物+タンパク質摂取による介入

心拍数への影響が7件、自覚的運動強度(RPE)への影響が3件の研究で評価されており、有意な影響は認められなかった。乳酸値に対しては、テスト後の評価で有意な影響を認めなかった。

水分摂取による介入

水分摂取のRPEへの影響が3件で検討されており、SMD=0.29(0.05~0.52)と、水分補給による自覚的運動強度の低下が確認された(p=0.016)。

暑熱環境での検討

暑熱環境で何らかの栄養戦略がとられた場合、3件の研究からRPEが有意に低下することが示された(SMD=2.18〈1.67~2.68〉、p<0.001)。一方、寒冷な環境で行われた乳酸値への影響は非有意だった。

このほかに、高地条件でRPEや心拍数への介入効果を調べた結果は、いずれも非有意だった。

実践への応用

著者らは、「メタ解析の結果から、持久力テスト中の適切な水分補給戦略と併せて、炭水化物または炭水化物+タンパク質を摂取することが、疲労の発症を遅らせるために不可欠である可能性が示された」とまとめている。その背景として、「持久力運動中に血糖値が上昇することで主要なエネルギー源として解糖系の利用能が高まり、筋肉や肝臓のグリコーゲン貯蔵量の枯渇、および嫌気性代謝経路の出現が遅れる可能性があるためと考えられる。これにより代謝ストレスが低下し、パフォーマンスと疲労感の双方に影響を与えるのではないか」と考察。

また、「栄養戦略がパフォーマンスや疲労感の決定要因となるため、とくに暑い環境で45分~3時間の競技やトレーニングを行う場合、アスリートやスポーツ栄養士は適切な栄養戦略を考慮すべき」と付け加えている。

文献情報

原題のタイトルは、「Influence of Exogenous Factors Related to Nutritional and Hydration Strategies and Environmental Conditions on Fatigue in Endurance Sports: A Systematic Review with Meta-Analysis」。〔Nutrients. 2023 Jun 9;15(12):2700〕
原文はこちら(MDPI)

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