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車椅子アスリートのエネルギー可用性と栄養素摂取量 性別・トレーニングフェーズ別の検討結果

車椅子アスリートのエネルギーや栄養素の適切な摂取量を考察する一助となるデータが報告された。パラリンピック出場レベルのエリートアスリートを4カ月間にわたり追跡し、異なる四つの時点でデータを収集した結果であり、全体的に摂取量が少ない可能性が示されたという。スイスからの報告。

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パラアスリートの適切な摂取量とは?

アスリートの適切な栄養素摂取量とは、トレーニング内容・強度・時間、および、競技会で最高のパフォーマンスを発揮するための身体組成の最適化のための個人的な目標設定などによって異なる。エネルギー量については、摂取エネルギー量(energy intake;EI)から運動による消費エネルギー量(exercise energy expenditure;EEE)を差し引いた値である、健康と身体機能のために利用可能なエネルギー量(energy availability;EA)が、30kcal/kg除脂肪体重/日以下であると、EAが少なすぎる「利用可能エネルギー不足(low energy availability;LEA)」とされることが多い。LEAの状態が慢性化していると、トレーニング効果が減弱し、回復が不十分になり、パフォーマンスが損なわれてアスリートとしての活躍が制限されるだけでなく、骨密度の低下、微量栄養素の欠乏、内分泌異常、女性の場合は月経障害などの健康上の問題が生じてくる。

このようなエネルギー可用性低下(LEA)について、健常者アスリートでの研究は増えているが、車椅子アスリートでの研究はほとんどない。車椅子アスリートは健常者アスリートと比較して、筋骨格機能や胃腸機能、体組成が異なることが多く、それらの違いは安静時エネルギー消費量(resting energy expenditure;REE)や運動による消費エネルギー量(EEE)の違いとして現れ、最終的にはエネルギー可用性(EA)にも影響を与えると考えられる。脊髄損傷患者では健常者に比べてREEは最大27%低下し、EEEは最大75%低下していると報告されている。ただし、これらのデータの大半は、非アスリート集団での研究結果である。

さらに、車椅子アスリートのREEについては、脊髄損傷レベルと障害の程度によって異なる。つまり、健常者アスリートで設定されたLEAなどの閾値を、車椅子アスリートにはそのまま外挿できるとは限らない。しかし現状ではそれにもかかわらず、健常者アスリート向け推奨事項に基づいて車椅子アスリートの栄養要件を考慮することが多い。

車椅子アスリートにおいて、LEAが高頻度にみられるとする報告があるが、トップ車椅子アスリートのシーズンをとおして栄養素摂取量を評価した研究は極めて限られている。これを背景に今回紹介する論文の研究では、競技会参加前から連続する四つのトレーニングフェーズごとに、車椅子アスリートの食事摂取量とエネルギー可用性(EA)が評価され、さらに生化学検査値との関連が検討された。

パラリンピック出場レベルの車椅子アスリートを対象に調査

この研究には、スイスのエリート車椅子アスリートの健康に対する、プロ/プレバイオティクス摂取の影響を調査するランダム化クロスオーバーパイロット研究のデータが用いられた。研究参加アスリートは14人で全員、世界レベルで競技をしており、8人はパラリンピック出場経験があった。年齢は34±9歳、女性8人、BMI22±4であり、四肢麻痺が4人、対麻痺が7人。減量中のアスリートはおらず、1人はベジタリアンだった。

ベースライン時点と、介入4週後、8週後、12週後の各時点で連続3日間、摂取した食品を写真とともに記録。また、同じく連続3日間、トレーニング日誌をつけてもらった。それらの記録を研究者が確認し、必要に応じてアスリート本人から情報を聴取して、摂取エネルギー・栄養素量、トレーニング量が評価された。

車椅子アスリート向けの栄養ガイドラインとスポーツ栄養士の介入が必要

摂取エネルギー量(EI)と消費エネルギー量(EEE)は、男女ともに四つのフェーズにわたって有意な変動はなかった。EIの平均は1,674±481kcal/日、EEEは平均344±139kcal/日であり、四肢麻痺と対麻痺との比較でも、EEE、EI、主要栄養素摂取量に有意差はなかった。

主要栄養素別にみた場合、炭水化物は男性が4.0±0.7g/kg/日、女性は2.7±0.9g/kg/日で男性のほうが多く、推奨範囲を3~12g/kg/日とした場合に男性は評価した日の80%がこの範囲にあったが女性は39%であり、有意差が認められた(p=0.02)。

同様にタンパク質も男性1.5±0.3g/kg/日、女性1.1±0.3g/kg/日であって、推奨量を1.2g/kg/日とした場合に男性は評価した日の74%がこの値を満たしていたのに対して、女性は36%どまりだった(p=0.01)。

脂質に関しては男性1.4±0.2g/kg/日、女性0.8±0.30g/kg/日で男性のほうが多いが、推奨量とされる摂取エネルギー量比で20~35%という範囲内に男性は45%、女性は40%入っていて、有意差はなかった(p=0.67)。

評価した日の48%でエネルギー可用性低下(LEA)が認められる

エネルギー可用性(EA)は、男性が38.7±8.3kcal/kg除脂肪体重/日であり、健常アスリートと同様に30kcal/kg除脂肪体重/日をカットオフ値とした場合、評価した日の34%でエネルギー可用性低下(LEA)が観察された。一方、女性では平均値自体が27.2±8.9kcal/kg除脂肪体重/日と、健常者アスリートでのカットオフ値を下回っていた。そして、評価した日の58%でLEAが観察された。評価した日のすべてでLEAが観察されたアスリートが、女性のバドミントン選手で1名該当した。

このほかに、鉄欠乏貧血が2名の女性で認められ、ビタミンD不足(75nmol/L未満)が男性・女性ともに過半数で認められた。

これらを基に著者らは、「我々の研究結果は、車椅子アスリートを対象とする栄養ガイドラインの必要性と、資格を有するスポーツ栄養士による継続的な教育と指導の重要性を強調している」と結論づけている。

文献情報

原題のタイトルは、「Energy Availability and Nutritional Intake during Different Training Phases of Wheelchair Athletes」。〔Nutrients. 2023 May 31;15(11):2578〕
原文はこちら(MDPI)

SNDJ特集「相対的エネルギー不足 REDs」

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