肥満予防は早いほど良い? 1歳半健診の結果から将来の肥満を予測できる可能性
母子健康手帳と乳幼児健診、学校健診のデータを統合した解析の結果、子どもの過体重は幼児期から学齢期、思春期にわたって継続的に見られることが多いことが明らかになった。著者らは、思春期の肥満は成人期に引き継がれやすいため、思春期の肥満への介入が必要であり、思春期の肥満を防ぐには1歳半健診からの介入も必要ではないかと述べている。東北大学東北メディカル・メガバンク機構予防医学・疫学部門分子疫学分野の栗山進一氏が代表を務める厚生労働省科学研究班の成果として、「Children」に論文が掲載された。
過体重は何歳から始まる?
成人の肥満がさまざまな疾患リスクを押し上げていることは広く認識されており、国内では腹部肥満に着目した特定健診・保健指導という国民的な肥満対策が続けられている。その対象は動脈硬化性疾患のリスクを伴いやすくなる40歳以上だが、肥満自体はそれより早い段階で生じていることが多い。また、小児期の過体重や肥満が成人後に引き継がれやすいことも知られている。
では、小児期の過体重は何歳から始まるのだろうか? これを確認するには、同一の対象者の体重を十数年間にわたって追跡する必要があるが、日本ではそのようなデータが十分蓄積されていない。そこで栗山氏らは、母子健康手帳、乳幼児健診、学校健診の結果を統合した、東北メディカル・メガバンク機構の出生コホート研究のデータを用いて、子どもたちの出生時点から思春期までの体重の推移を追跡し、関連性を検討した。
出生時から14歳まで6時点の体重を追跡
2003年4月2日~2006年4月1日に生まれた528人の中から、出生時点から14歳まで6時点(出生時、1.5歳、3.5歳、6歳、11歳、14歳)の記録があり、研究へのデータ利用の同意を得られた246人(男児48.4%)を解析対象とした。
出生時の体重については、同じ在胎週数で生まれた新生児の10パーセンタイル以上90パーセンタイル以下を基準(appropriate for gestational age;AGA)とし、10パーセンタイル未満をSGA(small for gestational age;在胎週数に比べて軽い新生児)、90パーセンタイル超をLGA(large for gestational age;在胎週数に比べて重い新生児)とした。1.5歳以降については、BMIのzスコアが-2~1を基準、-2未満を痩せ、1超を過体重とした。
また、子どもの体重に影響を及ぼし得る交絡因子として、母親の出産時年齢、妊娠前BMI、出産回数、飲酒・喫煙習慣を調整した。
粗オッズ比では、1.5歳以降ほぼすべての時点で過体重の連続性が認められる
出生時、1.5歳(18~23カ月)、3.5歳(36~47カ月)、6歳、11歳の各時点で過体重であった場合に、その後の各時点で過体重である確率を、交絡因子未調整の粗モデルを用いて算出した結果、出生時にLGA(在胎週数に比べて重い新生児)であることは3.5歳時点の過体重と関連していることが認められたのみで、その他の時点とは有意な関連がなかった。
それに対して1.5歳時点で過体重の場合、14歳時点を除く3.5歳、6歳、11歳時点の過体重のリスクが有意に高かった。さらに、3.5歳時点での過体重、6歳時点での過体重、11歳時点での過体重では、それぞれ、それ以降のすべての時点の過体重リスクの有意な上昇が認められた。
交絡因子調整後の検討でも、多くの時点で過体重が連続
次に、前記の交絡因子を調整した結果、以下に示すように、出生時体重はやはりその後の体重との関連があまり認められなかったが、1.5歳以降に過体重の場合はその後も連続して過体重のリスクが高いという結果だった。
出生時体重とその後の過体重の関連
SGA(在胎週数に比べて軽い新生児)は、14歳時点の過体重リスクが有意に高かった(調整オッズ比103.64〈95%CI;1.89~10,610.63〉)。14歳以外の時点の過体重とは関連が認められず、LGA(在胎週数に比べて重い新生児)についてもすべての時点の過体重と関連が認められなかった。
1.5歳時点の過体重とその後の過体重の関連
1.5歳時点で過体重であることは、3.5歳時点(同13.42〈4.46~45.42〉)、6歳時点(6.94〈1.64~33.46〉)、11歳時点(5.22〈1.25~24.79〉)の過体重と有意に関連していた。14歳時点との関連は非有意だった。
3.5歳時点の過体重とその後の過体重の関連
3.5歳時点で過体重であることは、6歳時点の過体重と有意に関連していた(9.55〈1.85~61.41〉)。11歳と14歳時点の過体重との関連は認められなかった。
6歳時点の過体重とその後の過体重の関連
6歳時点で過体重であることは、11歳時点の過体重と有意に関連していた(1021.24〈48.96~81,487.89〉)。14歳時点の過体重との関連は認められなかった。
11歳時点の過体重と14歳時点の過体重の関連
11歳時点で過体重であることは、14歳時点の過体重と有意に関連していた(60.46〈2.92~5,001.37〉)。
肥満への介入は‘the earlier, the better’の可能性
著者らは本研究の限界点として、筋肉量が反映されないBMIで過体重を評価していること、食事や運動習慣を考慮していないことなどを挙げたうえで、「出生時体重はその後の過体重リスクとの間に関連がない一方で、幼少期の過体重はその後の過体重リスクと強い関連がみられた」と結論づけている。また、過体重リスクが1.5歳の時点から連続していることから、「1歳半健診時に見いだされた過体重に対する介入が重要ではないか」と述べている。
文献情報
原題のタイトルは、「Association between being Overweight in Young Childhood and during School Age and Puberty」。〔Children. 2023 May 22;10(5):909〕
原文はこちら(MDPI)